【二次創作な？】「ア・シンメトリカル・エラー・オカード」♯１

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これは確かにチャンスなんだが悪いことにこの席はホールの隅で階段の対角だ、逃げようと思ったらテーブルから躍り出て窓をぶち破るくらいしか手は無い。じゃあそうするしかねえな！ジリー・プアー（徐々に不利）だからな！ガチャン！折しもモーゼズの甥ニンジャがやっとこさリロードを完了！25

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俺は姉ちゃんのポケットにとっておきの旧千円札をねじ込んだ。更に目下の重要人物…自称ボンドの甥に目配せを送り、そして一気に駈け出した！ガラスに飛び込むようなマネはさすがに勘弁だ、俺はセガールじゃねえんだ、そこらのイスを投げつけ窓ガラスを割り二階からダイブ！ウオーッ！ボッチャン！26

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ワカルと思うが俺は酔っていた。酒もそうだが何よりこの異常な状況にだ。だってボンドだぜ、神秘具合で言えば『あの男』並みじゃねえか。その係累に俺は今接触したのだ…などと考えているうちに着地！足が痛え！でも無傷！スゴイ！「アイエエエエ！？」ボスン！甥ボンドが遅れてゴミの山に落下！27

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「に…逃げないと」甥（Ｂ）は生ゴミ山の中から弱々しく呟いた。白皙の美男は野菜の皮やら魚の骨やらで台無しだ。「助けてくれ！これは僕だけの問題じゃない、世界がヤバイんだ！あと、ニンジャスレイヤーが読めなくなるんだ！」雑居ビルからの銃声が止んだ。たぶん甥（Ｍ）が動き出したんだ。28

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「どういう意味だよ？」俺は聞いたが、甥（Ｂ）は答えない。俺は迷った。「困っている人を助けないのは腰抜け」「情にサスマタを突き刺せば、メイルストロームへ流される」アンヴィヴァレントな二つのコトワザ…なあマサシ、実際どっちが正解だ？助けるなら30へ、置き去りにするなら14へ進め。29

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通し番号が抜けていたのはいつものケジメ案件ではなかった。俺は奴を見捨て、表通りに出る。一時間ほど呆然と雑踏を歩いた俺は、ふと飲み直そうと思い立ち、別の路地に入った。そして突如飛来したスリケンに額を貫かれた。俺が最後に見たものは、イクサ真っ最中の二人のニンジャだった。（終）14

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世界はまあ知らねえ。だが、忍殺が読めなくなるだと？まさか…ログ削除…課金な…？そいつは勘弁だ。ついでに言えば俺は人情味溢れる男だし、こいつがボンドの甥なら尚更だ。俺は甥野郎の手を掴んで引き起こし、痺れの残る脚で表通りへと駆け出す！「信じてたよ、ニンジャヘッズ！」「うるせえ！」30

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表通りは傘を差した通行人でごった返していた。俺達はそのスキマをすり抜けるようにして走る。クソ、こいつがヤモト＝サンか何かなら格好もついたんだろうが、ご覧の通り実際生ゴミまみれの優男だ。「ハイゴメンヨ、トオシテネ、ハイゴメンヨ」しかも日本語が板に付いてやがる。気分が出ねえ！31

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「どうすんだ、これから！」「この街はヤバイ、逃げないと。君の家はどこにある？」「千葉だ！都内じゃなくて悪かったな！」「おあつらえ向きじゃないか！一旦そこまで後退だ！」後退とはなんて言い草だ、生粋の千葉県民である俺は深く傷ついた。しかも駅は逆方向だ！回れ右してまた走る！32

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言い遅れたが表通りに出たのは成り行きじゃあない。まさかあのいかれモーゼズも往来で鉄砲ぶっ放すようなマネはしないだろう…常識じゃなくてリスクの問題だ…し、上手くいけば撒くことだってできる。実際その通りになった。だが、俺のちのうはまだ警報を解除していない。何かがおかしい。何かが。33

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何と言ったらいいか…うるせえんだ。町並みが。いや、いつもうるせえんだが、うるささの質が違う。分かりにくいのを承知で言えば、押し付けがましいんだ。それに誰も彼もが浮き足立ってる。逃げてる真っ最中の俺達が目立たないくらいに。これは違う、俺の知ってる品川じゃない。なんか薄汚えし。34

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「世界は変わり始めた」ボンドが出し抜けに言った。「オイ、それはどういう」俺は言いかけて、やめた。何がおかしいのか気付いたからだ。いちいち挙げてみようか。看板が全部ネオンだ。サラリーマンがチョンマゲだ。「実際安い」「インガオホー」「ビョウキ・トシヨリ・ヨロシサン」日本語が変だ。35

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カラオケ屋はタラバー歌カニだし客引きの姉ちゃんはオイランだ。空を見ろ、あの巨大モニタをぶら下げた飛行船を。マグロツェッペリンだ。もういいだろう。そういうことだ。初めて見る光景に、何だか懐かしくなっちまったのは俺の脳の誤作動だろうか。俺は足を止めた。走る気なんざ消え失せていた。36

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よくよく見てみれば全部が全部そうって訳じゃない。異常は実際あっちこっちまばらで、元々の品川港南は何とか原型を保っている。だが一度何かしらのオブジェクトから視線を切れば、それを次に見た時にはもうネオサイタマ化しているのだ。アハ体験ってやつだな。違うかな。とにかくそういう仕組みだ37

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徐々に『あっち側』に侵食されていく街の中、俺は雨に打たれながら呆然とするしかなかった。「そういうことさ。…更新、読んでみなよ」出し抜けにボンド（ボンドには違いないだろう）が言う。俺はおぼつかない手つきでアイフォーンを取り出した。防水機能付いてるのかなこれ。更新ボタンをタップ。38

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”ニンジャの戦いが始まろうとしていた。七三分けのサラリーマン達が、ナイトドレスのホステスたちが、危険を予感し我先に逃げてゆく。後に残ったのは静かな町並み。「飲み放題１５００円」の張り紙がが乾いた風に揺れる。カラオケ店の電飾看板だけが、場違いにチカチカと瞬いていた。　4”（39）

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「アボーッ！？」惜しいぜ、ボじゃなくてバならもっと良かったな。ともかく俺は今夜何回目かの叫びを上げた。そして泣きそうになった。半分は混乱、もう半分はやるせなさのせいだ。何だこれは。こんなものがネオサイタマであるはずがない。こんなニンジャスレイヤー、読みたくない。こんな物…！40

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俺はアイフォーンを持つ手を振り上げた。ボンドの手がカラテめいた素早さで伸び、俺の腕を止める。雑踏は俺達を避けて流れてゆく。「行こう。雨に当たりすぎるとマズイ。重金属酸性雨だ」そいつはヤバイな。俺は冷静になり…いや、テンションが下がっただけだ。強まる雨脚の中トボトボ歩き始めた。41

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品川駅は相変わらず品川駅だった。元々からしてネオサイタマめいた駅舎だったのがサイオー・ホースしたらしい。細部はもちろん『あっち側』に変化していただろうが、呆けた俺にはいつもと同じに見えた。だだっ広いコンコースも、大げさな宣伝サイン群も、ＪＲの路線も（幸運にも）そのままだった。42

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ＳＵＩＣＡも相変わらず使えた。サラリーマンの性、電車に乗るとなんとなく落ち着いちまう。生ゴミ臭い白人を連れてるのがいつもと違うところだな。京浜東北から京葉に乗り換えたあたりで俺は多少なりとも平静を取り戻した。それだけじゃない。なんとなく、なんとなくだが…ルールが掴めてきた。43

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いいか、さっき俺がＲＴした公式のツイートをもう一度読んでから聞いてくれ。９と３９だ。繁華街は描写された、駅構内は描写されていない。ホステスは描写された、鉄道路線は描写されてない。サラリーマンは描写された。ニンジャは描写されたが忍者は描写されていない。ここまではいいな？44

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では問題だ。ＳＵＩＣＡはどうだったか？…もう答えは出ただろう。そうだ。基本的にはいつも通りなんだ。そこで我らが翻訳チームの出番だ。連中がよしゃあいいのにわざわざまともな事を書く。するってえとそこだけあっちとこっちがあべこべになるって寸法だ。おいどうだ、俺の知能指数は。45

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「どうだ、俺の知能指数は」俺は小声でボンドの甥に言った。奴は吊り革に掴まりながら半分寝ていやがった。金髪頭をはたいて起こし、もう一度同じ事を言ってやった。「ご明察…だけど厳密には違う。止めていたんだ。叔父さん達とほんやくチームが。その歯止めが利かなくなった…というのが正しい」46

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電車は京葉線をしめやかに走ってゆく。「いいかい。ネオサイタマはディストピアだ。伯父さん達は警告を発していた。放っとくとこうなっちまうぞ、ってね。その警告が突然切れた。どうなると思う？」「どうもならねえよ。世界一面白い小説がこの世から消えて、ヘッズと業界人がガッカリするだけだ」47