大塚ギチ氏『今日しか書けないこと』

大塚ギチ氏が、自身の著作で舞台とした『今』について、それを語ることについての葛藤を呟いておられたのでまとめさせて頂きました。似たような葛藤を少なからず抱いている人もいるのでは?ということで。
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(1)去年『THE END OF ARCADIA』という小説を書くうえで「いま」のお話にするかどうかは大きく悩んだところだった。「いま」の話、つまりそれは震災後の話だ。東京にいて多少なりとも震災の怖さを目の当たりにしたとはいえ、それを書くのは正直悩んだところだった。(OTG)

2013-03-11 11:57:46
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(2)東北には震災後に一度足を運んでいたがそれだけの立場で震災に触れていいものか大いに悩んだ。どの立場でどのツラでなにを書けばいいのか。書いていいものか。文章を書く書かないは置いといても、日本中のすべての人が震災にどう接するべきか葛藤したように僕もまた悩んでいた。(OTG)

2013-03-11 12:00:39
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(3)そんなときたまたまふらりと立ち寄った東中野の小さな呑み屋でひとりで店を切り盛りする若い店員と話をする機会があった。趣味はYahoo知恵袋を読むことだという。誰もいない店内でカウンター越しにたわいもない会話をするなかで出身地の話になった。彼は仙台の生まれだった。(OTG)

2013-03-11 12:04:38
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(4)「大変だったね」。それが正しい言い方なのかは僕にはわからなかった。もしかするともっといい言葉があったのかもしれない。すると彼は言った。「おれ、東京にいたんで……。だからいまでも地元の人間たちに後ろめたい気持ちがあるんです。あのときあの場所にいなかったことに」。(OTG)

2013-03-11 12:10:09
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(5)彼の話を聞いて、ああ、これが僕が今回書くことのできる唯一のリアリティなのだと思った。彼の思いを作中に登場するひとりの人物に僕は託した。東北に暮らしながらあの日、その場にいなかった男。そして津波に流された筐体をリストアさせようとする男。それがナンバだ。(OTG)

2013-03-11 12:14:40
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(6)それでも書くのには勇気がいた。そして長い葛藤の末に僕は書いた。僕はフルタイムの物書きじゃないし、まして作家と呼ぶにも呼ばれるにも中途半端な立場だ。ただあのとき「いま」を作品に入れこむことの怖さと責任を抱えながらもやるべきなのが作家の作家たる所以のように感じた。(OTG)

2013-03-11 12:18:10
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(7)怒られても中傷されても非難されてもこれだけは書こう。僕が知った唯一のリアリティをきっちり残そう。中途半端な立場の物書きである僕が『THE END OF ARCADIA』という作品のなかで唯一現実に、「いま」に触れる覚悟の元に書いたのがナンバの存在だった。(OTG)

2013-03-11 12:25:27
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(8)現実を「いま」を描く。それは覚悟のいることだ。だけどそうした覚悟のうえで多くの作家たちは生きているし、そうした覚悟を持つ人が作家なんじゃないかと思う。僕にはまだほど遠いことだけど、それでもあの小説のなかで僕が作家になれているのはまぎれもなくあの瞬間だけだ。(OTG)

2013-03-11 12:31:35
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(9)『〜ARCADIA』はISBN取得の義務として国会図書館に寄贈した。何年経ってもあの本を読むことはたぶん可能だろう。何十年後かわからないけどもし仮に誰かがあの本を読むことがあったとき、震災に対する気持ちのひとつとしてこういうことがあったことを知ってくれればと思う。(OTG)

2013-03-11 12:38:44
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(10)連続ツィート失礼しました。今日このことを書くことに悩んだし、でも今日しか書けないことのような気がして書かせてもらいました。読んでくれた人に感謝を。(OTG)

2013-03-11 12:46:19