作家・冲方丁氏の小説ツイートまとめ

冲方サミット @ubukata_summit

【TS67】 とはいえ／心からほっとすることに――その姿のまま人が大勢がいる区画へ出るわけではない――部屋のドアにハンガー＝絶縁布でできたレインコートじみた丈の長い上着。 男女問わずセクハラ根絶を唱える屈強な解析課の課長が用意させた品――隊員への配慮。

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【TS68】 これなしではバスタオルでも羽織るほかなし――ますます場違いなビーチガールにならずに済む支給品に心から感謝――手に取る／袖を通す／プラスチック製のファスナーを上げる。 つっかえる――ぽかんとなる＝ぴったりした上着／胸が邪魔でファスナーが閉じられない。

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【TS69】 押し込む／せり出す／押し込む＝己の双胸と格闘――前代未聞の事態。 「くっ……」歯を食いしばる――もはや梱包作業／恥ずかしさと焦燥で身悶えしそう／必死に押さえつけてファスナーの引き手(スライダー)を喉元まで上げる――深い溜息。「ふう……」

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【TS70】 ばつんという音――多少の体積超過は圧迫耐久してしかるべき務歯(エレメント)が砕ける／弾ける／噛み合わせが全解放――ファスナーのスライダーが吹っ飛んで視界から消えた。

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【TS71】 三面鏡に当たるカン・カンという音――左頬にヒット――衝撃＝コンプレックスゆえに閉じこめたはずの鏡に映る自分が反逆して見えない手で現実の自分の頬を引っぱたいたかのよう。 思わず頬を押さえてうつむいた――ころんと転がるファスナーのスライダー。

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【TS72】 （泣き虫お嬢様）揶揄する声――誰の声か／以前の仲間たちか――あの黒髪の少女の声か。 　自然と零れ出す諦念の吐息――閉じるというきわめて重要な機能が死んだ上着／丈長の裾をだらんと垂らしたまま棒立ち――うっかりその場で膝を抱えて泣きそうになってしまった。

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【トリック・オア・トリート！】 本日10月31日はハロウィン＆「冲方サミット」の日！　それを記念（？）して、皆様待望の『テスタメントシュピーゲル3』の冒頭部分を投下させていただきます！　 （KADOKAWA A） pic.twitter.com/oFMc7ZBKxV

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【TS3①】 テスタメントシュピーゲル３　絶えざる光 Ⅰ犠牲と祈り Hostias １ 　しゅっしゅっしゅっしゅっ――ぼーっ！ 　ハイテク国際都市ミリオポリスのど真ん中――旧世紀の鉄骨機械＝蒸気機関車〈Ｄ１０１エンデミオン号〉――驀進。

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【TS3②】 　ウィーン北駅ことプラーターシュテルン駅を出発――第二区を北東へ進撃。 　機関車が現役であった頃とは比べものにならないほど良好な燃料とレールの恩恵により速度はたちまち時速八十キロにまで上昇――ウィーン・トライセンガッセ駅を猛然と通過。

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【TS3③】 　盛大な蒸気音／濛々たる煙／雄々しい鋼鉄のピストン――駅で立ち往生していた人々が唖然／棒立ち／面白がって撮影。 　火室で燃え盛る燃料――ダイヤモンドの原石の山／無煙石炭／重油――貿易規模と言うべき金銭的価値を持つ石をふんだんに燃え上がらせて火室周囲の水を沸騰――

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【TS3④】 蒸気ドームに蓄積された蒸気を煙管に送り水分を除去／乾ききった熱気となって蒸気室へ――シリンダーへ。 　蒸気が流れ込んでシリンダーのピストンを動かすエネルギーに変貌――走行装置から動輪へ伝わることで純粋に驀進のためだけのエネルギーとなって列車を運搬――

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【TS3⑤】 煙突から燃焼ガスと水分を猛烈な勢いで噴出＝〈機関〉と〈車〉がまさしく一体化した姿――轟然。 　冬真＝管制と通信――日向＝さらに加速することが可能とみて操縦――ブラックストーン＋ピエール＝機関の火を維持――ＤＹ＝炭水車の屋根の上で周囲を警戒――

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【TS3⑥】 フロスト＝機関車の屋根の上で警戒／機銃の探査装置で機関車が進む先にいる敵を捉える――探査情報を共有。 「止まらず進め!!」車両の先頭――涼月・ディートリッヒ・シュルツ――砲弾のごとく跳躍＝汽笛の音を貫く果敢で高らかな叫び。

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【TS3⑦】 「前へ進み続けろ(キープ・ムービング・フォワード)!!　真っ直ぐ前へ(ストレート・フォワード)――!!」 涼月＝着地と同時に疾走――背後を走る機関車に負けず劣らず猛進――機械仕掛けの脚力で線路脇を走る／さらに跳躍――右へカーブする高架線路から真っ直ぐ地上の交差点へ。

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【TS3⑧】 どかん！　と激しく着地――交差点のアスファルトが盛大に砕ける――敵の情報汚染で麻痺した大混雑のスクランブル――すし詰めになって動けなくなった車列――いきなり現れた少女に仰天するドライバーたち――涼月＝憤然――人が多すぎるっつーの――すぐさま走り出す。

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【TS3⑨】 　接近中の敵の位置を確認――大通りを堂々と進み来るアームスーツ――黒山羊×二。 　迎撃に適した地点を放棄――流れ弾で盛大に人が死にかねず／無駄だとわかっていながら律儀にシャウト。「ＭＰＢだ！　逃げろ！　銃を持ったやつらがこっちへ来るぞ！」

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【TS3⑩】 　誰も動かず／声が届かず――逃げろと怒鳴ったところで追い散らせる人数じゃない。 　ここには自分しかいない――道路を封鎖し一般人を遠ざけてくれる部隊はいない／敵を追い込んでくれる仲間もいない――一人であの機関車の行く手を守らねばならない――上等だ。