約束の時間に彼女の姿はなく、折りたたまれた紙片をベンチの上に見つけた。てっきり彼女からだと思い開いて見たが、文字なのか模様なのか判別できない線で埋め尽くされているだけだった。そのとき、背後で急ブレーキの音がした。ふり返った。セダンにはね飛ばされた彼女が宙を舞っていた。
2010-09-22 23:48:04赤信号が点滅するたびに、ぼとりぼとりと赤いボールが落ちてきた。街灯も家々の灯りもいつの間にか消えている。赤く明滅する闇のなか、四方から無数の小さな気配がやってきて、赤いボールをつかまえてはどこかに帰っていく。足下に一つ転がってきた。拾いあげると「ぼくのぶんだよ」と小さな声がした。
2010-09-22 23:49:03廊下でカセットテープを拾った。ラベルの文字はかすれている。帰り際、窓口の事務員に渡す。「うちの教材はCDですけど」と訝りながら受け取った。翌日、新聞の片隅に飛び降り自殺の記事を見つけた。住所はスクールと同じだった。あの事務員が飛んだと皆が囁いていたので、ぼくは通うのをやめた。
2010-09-22 23:49:43からっぽの荷物受取コンベアを見つめる男がいる。ときおり、まるで荷物があるかのように、何もない空間へ手を伸したり引っ込めたりする。巧いパントマイムだな、と見惚れていたのがまずかった。男から、どうぞ、とばかり差し出された見えない荷物を思わず受け取ってしまった。以来、腕が上がらない。
2010-09-23 00:13:52目の前をカバンの幽霊が通り過ぎて行く。半透明のそれは、カルーセルを不自然な速度で何往復もしていた。カバンを見つめる私に、陰気そうな男が声をかける。「欲しいか?」 思わず、「いいえ」と即答した。「だよな」 男は淋しそうな顔をしてカバンを拾い上げると、カバン諸共、消えた。
2010-09-25 18:11:48(※タグの前にスペースを入れ忘れたのもう一度) 押忍! 僭越ながら、自主トレ「怪集 -拾い物-」から「空港カルーセル」をつぶやきます。 #tknk
2010-09-25 18:13:28無精が祟って十年分の古新聞が物置から溢れた。仕方なく軽トラを借りてきて町外れの収集業者に持ち込んだ。バイトの若い衆によって古新聞の山はあれよあれよという間に荷台から降ろされた。その帰り道、妙に軽トラが重い。加速しない。バックミラーを見ると虚ろな目の青年たちが荷台に犇めいていた。
2010-10-15 00:23:19落雷で付近一帯が停電し店舗の警備システムもダウンしてから30分経つ。ようやく警備会社がやって来て「雷で基盤がいかれました。すぐ交換します」と懐中電灯で照らしながら管理ボックスを開けた。何か塊が飛び出してきた。思わず受け止めてしまった。明りがついた。手が血まみれになっていた。
2010-10-15 00:23:44買取カウンターでがっくり肩を落とした。90年代にはプレ値だったテレカが今では二束三文なのだ。店を出る間際、店員から「落としましたよ」とホログラム仕様のテレカを一枚渡された。見覚えはないが受け取った。以来、どこからともなく笑い声が聞こえるようになったが、テレカとの関係はわからない。
2010-10-15 00:24:09なぜモミジが落ちているのだろう。周りを見てもポプラしかない。子どもの手のような可愛らしいモミジの葉を拾いあげる。真っ赤に色づいている。ふと見ると、ポプラの根元の車道側に花束とお菓子、人形などが置かれているのに気がついた。ああ、と思った瞬間、モミジがぎゅっとぼくの指を握った。
2010-10-15 00:24:32遠い昔、まだ幼いころ、墓場で遊んでいた。まだ死の概念もなかったのだろう、アスレチックよろしく墓石を平気で上り下りしていた。誰も怒らなかった。怒ってくれなかった。ぼくは墓場で遊び続けた。何年も何十年も。ある日、朽ちた墓石の欠片を拾いあげた。100年が過ぎたことにようやく気付いた。
2010-10-15 00:24:55