ミクさんの憂鬱と。

とあるミクさんSSと、ミクさんの死についてのぼんやりとした考察 http://togetter.com/li/474959 の影響を受けた結果、似たような書き出しで放置してあったものを書き上げてみました。しかしツイッターに流すには多すぎたな……。 ちょっとシリアスだけど最後はほっこり出来るような、そんな話を目指してみました。
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ちきん@下っ端 @chicken_new

頭に乗せていた手を動かして、わたしの頭を撫でながらマスターは続ける。 「ミクさんのことは大好きだよ、それは本当。仕事が忙しくて自分のことばかり考えちゃって、ミクさんに不安を与えてごめん。俺、物わかりのいいミクさんに甘えてたんだろうな」

2013-03-26 00:22:19
ちきん@下っ端 @chicken_new

「そんなこと……」 「抱きしめてあげなくなったのは、いつも抱きしめるたびにミクさんが身体を強ばらせるから、もしかしたら嫌なんじゃないかって思ったからだよ。俺はミクさんに嫌われたくはなかったから。愛想尽かしてどこかに行ったりして欲しくなかったから」

2013-03-26 00:23:35
ちきん@下っ端 @chicken_new

紡がれる言葉に再び叫んでしまいそうになるが、ぐっと堪える。 「だから無理に抱きついたりするのは止めようと思ったんだ。それが、全く逆効果だったなんて……まだまだ、ミクさんのこと分かろうとする気持ちが足りなかったみたいだな。ミクさんの気持ちに応えようとする気持ちも」

2013-03-26 00:24:53
ちきん@下っ端 @chicken_new

「そんなこと言ったら、わたしもマスターのことをなにも知らずに、勝手に落ちこんで、勝手に泣いて、バカみたいです……」マスターのことを信じきれず、嫌われたんじゃないかって思ってしまったことが、とても申し訳なく感じた。

2013-03-26 00:26:07
ちきん@下っ端 @chicken_new

そんな罪悪感でいると、突如両脇が締め付けられる感触。何事かと思ったが、すぐにマスターがわたしのことを抱きしめてきたのだと分かった。不意打ちのことに身体が強ばってしまうが、マスターの想いに身体を預けるようにしてゆっくりと力を抜く。

2013-03-26 00:27:23
ちきん@下っ端 @chicken_new

「マスター……」 預けた先の胸元から、鼓動の音が伝わってきた。力強くて少し早い、見た目は落ち着いて見えるマスターも鼓動の音は制御できないようだ。ただ、多分わたしの鼓動も抱きしめるマスターの手のひらに伝わっていることだろう。

2013-03-26 00:28:45
ちきん@下っ端 @chicken_new

鼓動を感じていると、再び目に涙があふれてきた。このままだとマスターのスーツにシミを作ってしまう。 「いいよ、そのまま泣いても。ずっとこうやっていたかったんでしょ」 その言葉に、わたしの気持ちの堤防はあっさりと決壊した。その先に何も言葉は出てこなかった。

2013-03-26 00:30:06
ちきん@下っ端 @chicken_new

――どれだけそのままで居ただろう。 そっと顔を上げると壁の時計に目を向けた。日付はとっくに変わり、それどころか針は既に一周以上進んだ後だ。思った以上に時間が過ぎている。 「何だか、ずいぶん遅くなっちゃいましたね」

2013-03-26 00:31:36
ちきん@下っ端 @chicken_new

「そうだね」 わたしの視線の先を追いかけて、マスターも背中越しに時間を確認する。マスターが顔をこちらに戻すと、その視線がわたしとがっちり噛み合った。お互いに無言が続きそうになり、わたしは慌てて言葉を接いだ。 「あっ、あのっ!」

2013-03-26 00:32:50
ちきん@下っ端 @chicken_new

ハッとした表情を見せるマスター、そして問い返してくる。 「ど、どうかしたの? ミクさん」 今度はわたしがハッとなった。無言が嫌で声を出したものの、なにも考えていなかった。とっさに頭をフル回転させて一つの答えを導き出す。 「今夜、マスターのお布団で一緒に寝ていいですか!?」

2013-03-26 00:34:12
ちきん@下っ端 @chicken_new

「え、えっと……」 戸惑う様子のマスター。咄嗟のこととはいえ、わたしはなにを口走っているのだろう。 「あ、いえっ! 変な意味じゃないんです。ただ、マスターに抱かれたくて!」 「ミクさん、それって……」

2013-03-26 00:35:33
ちきん@下っ端 @chicken_new

ますます墓穴を掘っていくわたし。こんな深夜に抱いてほしいだなんて、他にどんな意味に取りようがあろうか。 「ちっ、違います! そうじゃなくて、抱かれたくないんじゃなくて……って、それじゃわたしがマスターのこと避けようとしてるみたいな……」

2013-03-26 00:37:08
ちきん@下っ端 @chicken_new

「とりあえず落ち着こうか、ミクさん。ほら深呼吸」 マスターに言われ、すう、はあ、と何度か大きく息をする。それで少しは頭を冷ますことができた。 「ごめんなさい、落ち着きました。わたしはただ、今はマスターの温もりを側でずっと感じていたかっただけなんです」

2013-03-26 00:38:24
ちきん@下っ端 @chicken_new

「うん」 「今日だけはマスターの腕の中で眠りたい、そう思っただけなんです。一人だとまた不安に飲み込まれてしまいそうで」落ち着いて今の気持ちを吐露していく。いつもは言えなかった言葉が、不思議とすらすらと口から出てきた。

2013-03-26 00:39:56
ちきん@下っ端 @chicken_new

「そっか」 静かに髪を撫でてくるマスター。 「いいよ。俺も今日はミクさんに側にいて欲しい。ミクさんがちゃんと居てくれるってことを感じていたい。だから……一緒に寝ようか」 その言葉に、わたしはようやく笑顔で頷くことが出来た。 「はいっ!」

2013-03-26 00:42:03
ちきん@下っ端 @chicken_new

マスターの温もりが名残惜しいが、一度身体を離す。 「さてと、本当に遅くなっちゃったね。明日もあるし早く寝ようか」 「そうですね」 「あ、でもその前に……」 「どうかしました?」 「お風呂だけ行ってきていいかな、汗は流しておきたいから」

2013-03-26 00:43:38
ちきん@下っ端 @chicken_new

お風呂に入ったマスターを見送り、わたしも寝る準備として自室でパジャマに着替える。着替えてリビングでのんびりしていると、十五分ほどしてお風呂上がりのマスターが現れた。 「おまたせ。それじゃこれ以上遅くなる前に寝ようか」

2013-03-26 00:45:27
ちきん@下っ端 @chicken_new

わたしはマスターの後について、マスター部屋へと入る。普段から歌の練習をしたりするために入ることはあるものの、マスターのいる時間が少ないために最近はなかなか入ることもなかった。そのせいか、今日は別の場所のような気分になる。いや、理由はまた別かもしれない。

2013-03-26 00:46:41
ちきん@下っ端 @chicken_new

マスターが布団に入り、わたしも失礼しますと言って潜り込む。マスターが部屋の電気を落とし、寝るためにオレンジの光だけを灯す。薄暗い中で目前に浮かんでいる顔にドキリとした気持ちになった。そして、お風呂上がりのマスターの体温で布団が温かくなっていく。

2013-03-26 00:47:54
ちきん@下っ端 @chicken_new

「温かいですマスターのお布団、全身を包み込んでくれているみたいで。同じお布団なのに、わたしの部屋のものよりずっと……」 鼻腔をくすぐるマスターの匂い。それが、わたしの気持ちを高揚させているせいなのかもしれない。

2013-03-26 00:49:00
ちきん@下っ端 @chicken_new

「そう言われると、ちょっと恥ずかしいな。でも、もし俺が逆にミクさんの布団に入ったとしても同じようなことを感じると思うけどね」 ほんのり赤くなっているように見えるマスターの顔。その顔を見ながらわたしはふふっと笑った。 「お互い様ですね」

2013-03-26 00:50:22
ちきん@下っ端 @chicken_new

「確かにね」 つられるようにしてマスターもはははっと笑う。 「ねえ、マスター。これからもわたしの側にいてくれます? わたしは側にいていいです?」 「もちろんだよ。少なくとも俺が死ぬまではずっと一緒。ミクさんと離れるなんて考えたくない」

2013-03-26 00:51:28
ちきん@下っ端 @chicken_new

「わたしもマスターにはずっと側にいて欲しいです。まだ何十年も先のことは分からないけど、一緒にいられる限りは一緒がいいです」 すると、布団の中からマスターの手が顔の前に出てきた。 「ほら、ミクさんも手を出して」

2013-03-26 00:52:40
ちきん@下っ端 @chicken_new

言われるがままに、自分の手を布団から出す。すると差し出した手の小指にマスターが自分の小指を絡ませてきた。 「指切り。お互いに一緒にいようって約束」 「……はい、約束です」 互いの想いを確かめ合うように、そのまま静かな時間が過ぎていった。

2013-03-26 00:53:47
ちきん@下っ端 @chicken_new

指を離すと、気が抜けたのか「ふああ」っとあくびが出た。出したままの手で目をこする。 「そうだミクさん、次の週末はどこかに出掛けよう。ミクさんが行きたいと思うところどこでもいいよ。と言ってもあまり遠くは無理だけどね」

2013-03-26 00:54:51