白石一文『翼』ツイッター連載小説
- kounoeakira
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翼 29-59 「どうかしてるわ。ほんとにどうかしてる。私やリエをこんな目にあわせて」 震えた声で言うと聖子は嗚咽(おえつ)しはじめた。
2013-08-14 08:34:49翼 29-60 「どうして言ってくれなかったの。最初の最初、あのときリエが本当のことを言ってくれてたらこんなことにはならなかった。
2013-08-14 08:36:27翼 29-61 ひどいわ。ほんとうにひどい。私は、あなたのやったことが許せない。この人のやったことも絶対に許せない」
2013-08-14 08:37:53翼 29-64 「あなたが彼を自由にしてあげるべきだった。この人を私のもとへ返してくれるべきだった。あなたこそが彼を、そして私を許すべきだったのよ」 <第29章 了>
2013-08-14 08:42:15翼 30-1 長谷川岳志が死んだのはそれから三日後、十二月二十四日金曜日、クリスマスイブの昼間のことだった。
2013-08-15 08:40:01翼 30-3 明け方、容体が急変したという連絡が田宮から入り、駆けつけるとすでに聖子や子どもたちも到着していた。
2013-08-15 08:42:47翼 30-4 最後は、医師や看護師でごった返す病室に家族だけが残り、私は病室の外でそのときを待っていた。
2013-08-15 08:44:03翼 30-9 時刻はまだ昼餉(ひるげ)時をやっと過ぎたくらいで、東京の大きな空の真ん中には燦々(さんさん)と輝く冬の太陽さんがあった。
2013-08-16 10:47:31翼 30-11 ふと私はそう洩らしていた。そうだった。私は小さい時分、父のことをお父ちゃんと呼んでいたのだ。
2013-08-16 10:50:34翼 30-12 池の周辺には三々五々、人々の姿がある。ランナーや犬の散歩を楽しむ人はほとんど見当たらず、多くの人はただうずくまるように池の縁で佇(たたず)んでいた。
2013-08-16 10:52:14翼 30-15 じっと眠るように、死んだように身動きもせずにたゆたっている鳥たちを見て、私は少し憎たらしくなった。だが、それ以上に、彼らのその暢気(のんき)なさまがいとおしい。
2013-08-16 10:56:15翼 30-16 風もなく光も澄みきった、空気だけがぎゅっと締まるように冷えたこの日に、岳志はあの遠い空の彼方(かなた)へと飛び去って行った。
2013-08-16 10:57:30翼 30-18 「東大生、奇跡の生還」 という大見出しの記事には、「鳥に救われた青年」というこれもまた大きな見出しが添えられていた。
2013-08-17 09:23:53