白石一文『翼』ツイッター連載小説

8月20日、連載終了しました。投稿回数=1,237回。連載期間=91日。ⒸKazufumi Shiraishi 白石一文Twitterアカウント→ https://twitter.com/kaz_shiraishi
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白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 29-58  聖子は言い終わると頭を抱えた。

2013-08-14 08:33:21
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 29-59 「どうかしてるわ。ほんとにどうかしてる。私やリエをこんな目にあわせて」  震えた声で言うと聖子は嗚咽(おえつ)しはじめた。

2013-08-14 08:34:49
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 29-60 「どうして言ってくれなかったの。最初の最初、あのときリエが本当のことを言ってくれてたらこんなことにはならなかった。

2013-08-14 08:36:27
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 29-61 ひどいわ。ほんとうにひどい。私は、あなたのやったことが許せない。この人のやったことも絶対に許せない」

2013-08-14 08:37:53
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 29-62  泣き叫びながら訴える親友に対して私には何一つかける言葉がなかった。

2013-08-14 08:39:31
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 29-63  でも、心の中では繰り返し言いつづけている。

2013-08-14 08:40:40
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 29-64 「あなたが彼を自由にしてあげるべきだった。この人を私のもとへ返してくれるべきだった。あなたこそが彼を、そして私を許すべきだったのよ」 <第29章 了>

2013-08-14 08:42:15
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-1  長谷川岳志が死んだのはそれから三日後、十二月二十四日金曜日、クリスマスイブの昼間のことだった。

2013-08-15 08:40:01
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-2 九七年の同じ日にプロポーズされてからちょうど十三年が過ぎていた。

2013-08-15 08:41:28
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-3 明け方、容体が急変したという連絡が田宮から入り、駆けつけるとすでに聖子や子どもたちも到着していた。

2013-08-15 08:42:47
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-4 最後は、医師や看護師でごった返す病室に家族だけが残り、私は病室の外でそのときを待っていた。

2013-08-15 08:44:03
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-5  聖子たちのすすり泣く声が聞こえ、すべてが終った。

2014-05-03 10:10:05
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-6  私は病室には戻らず、そのまま病院をあとにした。

2013-08-15 08:46:39
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-7  病院の建物を出たあと、どこをどう歩いたのか覚えていない。

2013-08-15 08:47:43
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-8  気づいてみれば、私は大きな池の前で立ち止まっていた。どうやら不忍池のようだ。

2013-08-15 08:49:03
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-9  時刻はまだ昼餉(ひるげ)時をやっと過ぎたくらいで、東京の大きな空の真ん中には燦々(さんさん)と輝く冬の太陽さんがあった。

2013-08-16 10:47:31
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-10 「お父ちゃん、あの人が死んでしまったよ」

2013-08-16 10:48:59
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-11  ふと私はそう洩らしていた。そうだった。私は小さい時分、父のことをお父ちゃんと呼んでいたのだ。

2013-08-16 10:50:34
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-12  池の周辺には三々五々、人々の姿がある。ランナーや犬の散歩を楽しむ人はほとんど見当たらず、多くの人はただうずくまるように池の縁で佇(たたず)んでいた。

2013-08-16 10:52:14
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-13  水の上には数えきれないほどの水鳥が浮かんでいる。

2013-08-16 10:53:26
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-14  ――どうして助けに来てくれなかったの。

2013-08-16 10:54:44
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-15  じっと眠るように、死んだように身動きもせずにたゆたっている鳥たちを見て、私は少し憎たらしくなった。だが、それ以上に、彼らのその暢気(のんき)なさまがいとおしい。

2013-08-16 10:56:15
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-16  風もなく光も澄みきった、空気だけがぎゅっと締まるように冷えたこの日に、岳志はあの遠い空の彼方(かなた)へと飛び去って行った。

2013-08-16 10:57:30
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-17  山口の海を丸一日漂流した岳志を救ったのはカツオドリの大群だった。

2013-08-17 09:22:24
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-18 「東大生、奇跡の生還」  という大見出しの記事には、「鳥に救われた青年」というこれもまた大きな見出しが添えられていた。

2013-08-17 09:23:53
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