白石一文『翼』ツイッター連載小説

8月20日、連載終了しました。投稿回数=1,237回。連載期間=91日。ⒸKazufumi Shiraishi 白石一文Twitterアカウント→ https://twitter.com/kaz_shiraishi
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白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-19  岳志と姉が身を投げた周防灘(すおうなだ)は潮の流れが複雑で速いのだという。

2013-08-17 09:25:13
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-20 海上保安庁の捜索隊は実際に岳志が流されたのとは反対方向の海域を懸命に探していた。

2013-08-17 09:26:33
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-21 岳志を救助したのは捜索隊ではなく、遭難事故のことなど何も知らなかった小さなイカ釣り漁船だった。

2013-08-17 09:27:44
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-22 明け方の漁を終えて港へと向かっていた漁船は、沖合に夥(おびただ)しい数のカツオドリが群れているのを見つけた。

2013-08-17 09:29:12
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-23 魚群探知機を見る限り、海面下に大きな魚の群れはいなかった。

2013-08-17 09:30:34
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-24  それでも、漁師たちが鳥たちの方角へと舵(かじ)を切ったのは、だからこそであった。

2013-08-17 09:32:01
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-25 すでに船倉いっぱいのイカを抱えた彼らにはもう漁をする気はなかった。ただ、魚もいない海であれほどのカツオドリが集まっている、その理由がどうしても知りたかったのだ。

2013-08-17 09:33:35
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-26  近づいてみると、ギャーギャーと大音声で鳴き散らす鳥の大群の真下に必死の思いで浮いている一人の男がいた。

2013-08-17 09:35:11
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-27  記事には救出された青年のコメントが紹介されていた。

2013-08-18 13:37:52
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-28  ――夜の寒さで何度も意識を失いそうになりました。夜明けの頃、すると太陽の向こうから無数の鳥たちがやってきて僕を励ましつづけてくれたんです。溺死せずにすんだのはみんな鳥たちのおかげです。

2013-08-18 13:39:52
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-29  あのミュラーの小さな絵を見たとき、私はこの二十歳の岳志の言葉を思い出した。

2013-08-18 13:41:46
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-30  何一つ生きる望みを見出せず、姉の思いつきのようなくだらない誘いに乗って一緒に海に飛び込んだ彼は、そうやって一昼夜潮に流され、生死の境界を往復しながら、一体何を思ったのだろうか。

2013-08-18 13:43:54
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-31  いましも海に溺れそうな自分と、そんな自分を尻目に大空を自由に飛び交うカツオドリたち。

2013-08-18 13:45:55
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-32 岳志はきっとものすごく悔しかったに違いない。悔しくて悔しくてどうしようもなかったに違いない。その悔しさが彼を生き延びさせたのだ。

2013-08-18 13:47:45
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-33  私はあの絵の前でようやくそのことに気づいた。

2013-08-18 13:49:26
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-34  そして、  ――ああ、あの人のことを本当に理解してあげられるのはこの私しかいない。  と確信したのだ。

2013-08-18 13:51:26
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-35  無数の鳥たちが、二十歳の岳志を救ったように、私もまた「千億の翼」となって彼をいまこそ救わなくてはならないのだと。

2013-08-18 13:53:01
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-36  彼は愛に生きようとしたのではなかった。彼は愛によって生きる以外に生きるすべがないと絶望したのだ。

2013-08-19 12:04:52
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-37 だからこそ、彼は言った。「最も大事なことは、この人が運命の相手だと決断すること」なのだと。

2013-08-19 12:06:51
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-38 その相手として彼は、十三年前の今日、この私を選んでくれた。

2013-08-19 12:08:24
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-39 その理由は他愛なかった。「きみと僕とだったら別れる別れないの喧嘩には絶対にならない。一目見た瞬間にそう感じた」からだと。

2013-08-19 12:09:57
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-40 しかし、実はそう言われたとき、私にはその一言の重みが充分に分かっていた。

2013-08-19 12:12:26
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-41 彼は言ってくれたのだ。「きみだけは何があっても僕は赦そう」と。

2013-08-19 12:14:07
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-42 彼は私と恋をしたかったわけでも、愛し合いたかったわけでもないのかもしれない。彼は、私と一生を共にしたかったのだ。

2013-08-19 12:15:33
白石一文『翼』(鉄筆渡辺浩章) @kounoeakira

翼 30-43 それゆえに一度は「たとえ恋愛や結婚に結びつかなくても、きみがずっとそばにいてくれるのなら、それでもいいんじゃないか」と思い直した。

2013-08-19 12:17:44
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