もりかの自主トレ。「子猫を拾ったはなし(仮)」。

竹の子書房BL課所属 もりかの自主トレです。ライトなBLです。猫好きな方にもお勧め。
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もりか @_molica_

@ts_p うすく汚れた毛の色は、白地にうっすらと縞模様が見える。病院では、体重が少なすぎて正確な月齢はわからないけれど、二ヶ月くらいじゃないかといわれた。乳離れをした後で親に置いていかれたのか、捨てられたのだろうということだった。

2010-09-29 14:04:44
もりか @_molica_

@ts_p 今までどうやって生きてきたのかと思うと、かわいそうで仕方がなかった。ついてこられたときは、正直困ったと思ったけど。診察のついでにキャットフードを出してくれたけれど、チビはそれが食べ物だと分からないようで、ちょっとにおいをかいだだけで食べようともしなかった。

2010-09-29 14:05:34
もりか @_molica_

@ts_p ミルクも同様で、皿に入れられた液体を一口二口飲むと、もうそっぽを向いてしまう。おなかがすいているはずなのに飲まない。熱があるので、薬だけは注射器でなんとか飲ませてもらった。検査をしたいけど、おなかの中に何もないのでそれもできないといわれて愕然としたのだ。

2010-09-29 14:06:47
もりか @_molica_

@ts_p だから何とかしてこの子猫を助けたいと思った。ただの自己満足でも、どんなに困難でも、この小さな命を、守りたいと思った。ベッドの上で無心に眠る子猫を見ていると、不安や期待と一緒になって、ほの甘い感情が胸の奥にともる。

2010-09-29 14:07:34
もりか @_molica_

@ts_p 思いがけず知ることになった啓介の告白を、何度も繰り返す。もっと頼れと言ってくれた。チビのことを受け入れてくれた。迷惑だろうに、一緒に世話をしてくれる。「俺のこと、好きだって」チビに語りかけるつもりで口に出すと、なんだかいたたまれない気持ちになった。

2010-09-29 14:08:20
もりか @_molica_

@ts_p 啓介がそんな気持ちでいるなどと考えたことは一度もなかった。憧れていたのは俺のほうで、好かれたいというよりも嫌われたくない一心だった。チビについてこられたとき、最初に考えたのは啓介のことだった。新学期から一緒の部屋で寝起きしていても、俺は啓介のことをほとんど知らない。

2010-09-29 14:09:15
もりか @_molica_

@ts_p なんでもできて隙のない啓介の本心は見えにくくて、それが俺を不安にさせた。それなのに…。思考がまた元に戻って、ひとり顔を赤くする。うれしくて、信じられなくて、面映い。ほかの誰に対しても、こんな気持ちになったことはなかった。でも、不思議なくらい心は凪いでいて穏やかだ。

2010-09-29 14:09:52
もりか @_molica_

@ts_p 「これでお前が元気になってくれたら、言うことないんだけどな」指先でそっと耳の付け根をかくと、チビはプルプルと首を振って目を覚ました。起こすつもりはなかったのだけれど、そろそろミルクの時間だ。

2010-09-29 14:10:40
もりか @_molica_

@ts_p 病院で言われたように、ミルクをとろみがつくくらいに濃くぬるま湯で練ってスポイトに吸い上げる。これを無事に飲ませられれば、チビを助けられるのだ。「よし、チビご飯だぞ」軽い身体を片手で抱き上げてひざに乗せる。スポイトの先で口をつついたが、チビは飲もうとしない。

2010-09-29 14:11:48
もりか @_molica_

@ts_p スポイトからたれた滴で汚れた口元を拭いて、もう一度飲ませようとすると、チビは嫌がって暴れた。「あ、チビ!」床の上に逃げ出したチビをあわてて捕まえると、今度は思い切り爪を立てられる。

2010-09-29 14:13:00
もりか @_molica_

@ts_p 手の中に入ってしまうほどの小さな身体なのに、必死で抵抗するチビの力は強くて片手では押さえきれない。「ミルク飲めないと元気にならないんだぞ」抱き上げて言い聞かせても、もちろんチビは分かっていない。俺のことを「いやなことをする人間」としか思っていないだろう。

2010-09-29 14:13:55
もりか @_molica_

@ts_p 仕方なくスポイトを置いて、腕の中にしっかりと抱きなおした。「このままじゃ、おまえ死んじゃうんだぞ?」丸まった身体に鼻先をうずめると、かすかに埃のにおいがした。「元気になってほしいのにな…」小さな、しかも病気の猫の世話などしたことがない。

2010-09-29 14:14:46
もりか @_molica_

@ts_p 寝ているときや抱っこされているときはおとなしいので、ミルクを飲まされるのがいやなんだろうということは分かる。でも、栄養を取らなければ助からない。「どうすればいいんだよ」

2010-09-29 14:15:40
もりか @_molica_

@ts_p ひざの上で丸まったままじっとしているチビを見ながら途方にくれていると、買い物に行っていた啓介が帰ってきた。「どうした?」「ミルクやろうとしたら、抵抗されて」引っかかれた手を見せると、啓介は苦笑した。「ひとりじゃ無理だろ。おれが捕まえとくから」

2010-09-29 14:16:27
もりか @_molica_

@ts_p 啓介に抱き上げられても、チビはおとなしくしていた。仰向けに抱かれたチビの口を開かせて、何とかスポイト一回分のミルクを飲ませる。チビはささやかな抵抗とばかりに、スポイトの先を噛んでぼろぼろにする。合計5回ミルクを飲ませて、猫も人間も疲れ果てた。

2010-09-29 14:17:14
もりか @_molica_

@ts_p でもとりあえずお腹はいっぱいになったようで、チビは啓介のひざの上で眠ってしまった。「毎回こんなだったら大変だな」ついつぶやいた俺に啓介の拳骨が降ってくる。こつん、と軽く額に拳をあてて啓介は笑った。「いまさらそんなこというなよ。手伝ってやるから、がんばれ」

2010-09-29 14:18:12
もりか @_molica_

@ts_p そういう啓介の手も、チビにやられて傷だらけだ。「子育ては大変なんだって、授業で習ったろ?」言いながら、チビを起こさないようにそっとベッドに移す。「じゃあ、啓介がおかあさんな」チビもなついてるみたいだし、と悔し紛れに言うと、啓介は盛大にふきだした。

2010-09-29 14:19:00
もりか @_molica_

@ts_p 「なんだよそれ」何がそんなにおかしいのか啓介はいつまでも笑っていた。

2010-09-29 14:20:13
もりか @_molica_

@ts_p TLが静かなうちに「子猫を拾ったはなし(仮)」三回目を投下します。

2010-12-12 04:09:17
もりか @_molica_

@ts_p 一晩もって食べられるようになれば助かる確率が高くなると、獣医からは言われていた。 寝る前にもう一度ミルクと薬を飲ませ、啓介が作ってくれたトイレに連れて行って場所を覚えさせた。今は横になった啓介の腹の上で、鼻を鳴らしながら眠っている。

2010-12-12 04:10:31
もりか @_molica_

@ts_p 暑いと啓介は唸るがチビを退けようとはしない。「俺が抱っこしようか?」声をかけると、啓介は読んでいた本を枕元において顔だけをこちらに向けた。「いいよ。寝てるし。こいつは熱があるから寒いんだろうけど、人間は暑いよな」苦笑しながらも啓介がチビを見る目は優しさに満ちていた。

2010-12-12 04:12:21
もりか @_molica_

@ts_p 「元気になるといいな」啓介の言葉がまるで俺を慰めているように聞こえて、なんだか胸がつまる。俺がいつも無意識に求めてしまう慰撫を見透かされているようで気恥ずかしい。けれど、けして不快ではなかった。啓介はいつも、こんなふうに俺に声をかけてくれていたのだろか…

2010-12-12 04:12:51
もりか @_molica_

@ts_p 「とりあえずチビはこっちで寝かせるから、お前もゆっくり休めよ。いろいろあって疲れただろ?」かすかに笑いを含んだ声でそう言うと、啓介はまた本に視線を移した。確かに俺にとっては激動の一日だったから疲れているはずなのだが、なんだか眠れそうにない。

2010-12-12 04:13:28
もりか @_molica_

@ts_p 「啓介…」「んー?」「チビのこと、ほんとにありがとな」精一杯の気持ちをこめてそう言ったのに、啓介はちらりとこちらを見ただけでくすくすと笑っている。「なんだよ…」「ありがとうはチビのことだけなんだな」言外に告白への返事を訊かれているのはさすがに俺にだってわかる。

2010-12-12 04:13:59
もりか @_molica_

@ts_p でもどう返事をすればいいのかわからない。啓介の気持ちは嬉しい。すごく。でもそれをどうやって伝えればいい?自分でもどんな言葉にすればいいのか迷うのに、ありきたりな言葉でこの面映い、くすぐったいような幸せな感情を伝えられるとは思わない。だから…「えと、おやすみ…」

2010-12-12 04:14:33