モーサイダー！～Motorcycle Diary～Episode of Spring IV～
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IngaSakimori
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IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
「まあな。でもな、俺は自分が上手いってさ……ちゃんと証明したかったんだ。 三鳥栖、お前はまだ高校生だろう？ だったらわからないかもな」 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:09:03
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
「俺はもともと勉強ができる奴でもなかったし、付き合いが上手でもない……Fラン大学を出て、こんな時代に待っているのはせいぜいブラック企業の正社員がいいところさ」 「………………」 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:09:16
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
「タンクへこんでカウルバキバキのこいつを安く譲ってもらって、バイト先のガソリンスタンドで板金機材借りて……100円ショップの缶スプレーで色塗って……」 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:10:11
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
「タイヤは用品店のセールに朝一で並んで……リアのオーリンズはオークションで落として……そのためにバイト代、一ヶ月分も飛んだかな……」 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:10:17
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
自分に言い聞かせるように唇を動かしながら、芦田はCBR250RRのタンクへ手を当てる。 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:10:28
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
「こいつに乗れば、どんな奴にも負けない。どんな奴よりも速く走れる。 峠道なら大型バイクだって━━SSだって目じゃない。ぶっちぎりさ。 そう錯覚するくらいに……走れた。走ったつもりだった」 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:10:50
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
「お前みたいなとんでもない腕を持ってる奴に、ケンカを売っちまうほどに……夢を見させてくれたんだよ、このバイクは」 「俺にも……分かりますよ、そういう気持ちは」 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:11:01
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
「バイクはな、乗り手をヒーローにしてくれるんだ。 生身の肉体じゃ、絶対できないことをさせてくれる……しかも、もっとも近い感覚で、だ」 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:11:17
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
「鉄の箱に乗せられて、ハンドル握って……何が凄いもんかよ。 バイクってのは人間がまたがって、さ。足をついてやらなきゃ、直立することすらできない」 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:11:56
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
「そんな乗り物で走るから……速いから……面白いんだ。かっこいいんだよ」 「………………」 「すまない。負け組が愚痴っちまったな」 目元に何かが光ったように見えたのは、気のせいなのだろう。 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:12:12
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
「ま、腕磨いておくわ……負けた俺が言うのもなんだけど、お前さ。 あんな走り方、危ないぜ」 「今日みたいな時じゃないとしませんから」 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:12:26
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
「はは、ここ一発の本気ってやつか。 カッコいいな……俺も一回くらいやってみたいぜ、そういうの」 カムギアが鳴く。マフラーから放出される排気が泣く。 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:12:38
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
びっくりするほど低回転を保って、川野駐車場から去っていくCBR250RRの姿はそれでも美しく、レーサーレプリカの完成形に見える。 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:12:50
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
「お前には全部見られてたみたいだしな。 でも……速かったよ。ぜんぜん楽な勝負じゃなかった。ブレーキングでさっさと仕掛けていなかったら、絶対抜けなかったと思うな……加速もいいし、コーナーも速かった」 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:13:19
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
「車体性能とエンジンで勝てないのは当然ですわ。 サーキットのレコードだって、CBR250RRの方が上ですし」 「……そういうものなのか」 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:13:30
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
「でも、志智が勝ちましたわ。あなたの方がうまかった。それだけのことです」 「まあ……確かにそうかも、しれないけど、さ」 志智はこの世のすべての満足感をあつめたような表情の亞璃須から視線を外して、ハイエースの傍らで身を休めているXR650Rを見た。 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:13:48
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
「なんだろうな。 お前、やっぱり凄いよな……かなり本気で走ったつもりだったのに、楽々ついてきてさ。 あのとき、どうしてお前に勝てたのか。俺━━今でもわからないよ」 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:14:03
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
「別に分かる必要もないでしょう」 「……どうして？」 「もう一度あなたと競ったとして。 わたくしが勝ったら。あなたはわたくしの見初めた人ではなくなってしまいます」 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:14:29
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
「まあ、あの時の論理で言ったらそうなるんだろうな……」 「じゃあ、あなたが勝ったら？ 志智、あなたがわたくしにもう一度勝ったら。 あなたは日原院亞璃須をどうしたいんです？」 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:14:40
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
「………………」 西日は山の向こうへ落ちて、川野駐車場へは届かない。 空の青と赤だけが間接的に彼らを照らしている。 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:14:49
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
「今は分からないよ」 「でしょう？」 芽吹く春。大多磨の緑も目を覚まし、すべてが歩き始める季節。 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:15:08
IngaDo type-RR
@mor_cy_dar
彼らは今日もここにいて、ここで走る。 大多磨周遊道路。三鳥栖志智。VT250スパーダ。そして、日原院亞璃須。 ━━これはささやかな、けれど熱く、まばゆいモーターサイクルライダーたちの物語。 #mor_cy_dar
2013-04-25 21:15:20