山本七平botまとめ/古代ユダヤと酷似している現代日本社会の「被統治意識」とは

山本七平著『存亡の条件――日本文化の伝統と変容――』/第二章 民族と滅亡/統治する側・される側/66頁以降より抜粋引用。
3
山本七平bot @yamamoto7hei

①古代イスラエルの場合は、いわば前述のマタテヤ、神の律法に従う者はわれにつづけ、といった呼びかけに応じて民衆が蜂起して、それによってあらゆる弾圧をはねのけて独立を獲得した、という「興国史談」の伝説がある(事実は別として)。<『存亡の条件』

2013-03-31 14:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

②そしてその律法は、ファリサイ派によって訓詰の学として空洞化せず、その各句を「創造的に発展させるという方向」の「口伝」によって、会堂(シナゴーグ)を通じて、ギリシア=ローマ型の世界に現に生きる人びとを、律している。

2013-03-31 15:27:53
山本七平bot @yamamoto7hei

③この場合、その人びとが、現実の政府すなわち権力に対して、被統治意識をもたない(別の言い方をすれば「それを忠誠の対象としない」)のは当然である。 これは古代の彼らであれ、現代の日本の共産党員であれ、同じことであろう。

2013-03-31 15:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

④だが、もしそれが、一国民、一民族の大部分が、そういう状態になって、それで固定したら、どんな形になるであろう。 それが当時ユダヤ人が落ち込んだ状態だが、今の日本になぞらえて、できうる限り、その状態を描出してみよう。

2013-03-31 16:28:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤たとえば、当時のユダヤがローマ経済圏に組み込まれていたように、日本が実質的にアメリカ経済圏、文化圏に組み込まれたとする。 当時のユダヤ人がローマの銀貨デナリウスと自国貨幣を併用したように、円とドルを併用し…ギリシア語が全国で通用したように英語が通用し、(続

2013-03-31 16:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥続>国民の半分はアメリカおよびアメリカ圏に移住してそこで生活し、しかもその地で非常に成功し、アメリカの″ボッパエア・サビナ(註:皇帝ネロの寵姫)″との間に人脈があり、日本政府は実質的にはアメリカ政府の認証があってはじめて成立する。

2013-03-31 17:27:54
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦従って政権が代われば、ヘロデ王の息子たちがまずローマに行ったように、新政府の首脳はまずワシントンに行く。 そしてなかにはワシントンに居すわって、ヘロデ・アグリッパがローマ皇帝の擁立に参画し最大の役割を演じたように、アメリカ大統領の選挙に裏で決定的な役割を演ずる者まで出る、(続

2013-03-31 17:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧続>といった状態にありながら、国民の全部はマルクス主義か毛沢東主義を信奉し、それを訓詰の学とせず、その主義と日常生活を、その主義の「各句を創造的に発展する方向」の口伝でつなぎ、表現・態度・歌から赤旗・デモといった風俗までがそれに規制されることによって、(続

2013-03-31 18:27:57
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨続>マルクス主義とその機関に決定的な被統治意識をもっているが、政府に対しては一切、被統治意識をもたず、これを、不当に権力を奪取した存在と考えている、という状態である。

2013-03-31 18:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩そして子供たちは、幼児から、あらゆる面で決定的にその方向へと教育され、政府に対して被統治意識をもつことは許すべからざる「罪」と教え込まれる。

2013-03-31 19:27:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪そしてそれを教えている者は、教えることによって報酬を受けているのでなく、ある種の宗教団体や政治団体の人びとのように自らの生活は自ら支えつつ、一心不乱に教えており、それが全国的な組織になっている、 といった状態である。

2013-03-31 19:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫そしてその教育は…その民族がヘレニズム化あるいはアメリカ化に徹底的に抵抗した歴史に基づいている。 更にその教師は日常生活で生ずる様々な問題の裁定者であり、また人生相談の師でもあって、人々の意識を完全に支配し、また世論形成者となっていて、その点今のマスコミの様な役目もしている。

2013-03-31 20:28:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬さらにその民族は、ヘレニズムにもアメリカニズムにも元来は無縁の民族であり、その周辺の同系の民族は、今なお無縁であるだけでなく、敵対関係ですらある。 また″無敵ローマ軍″は、アメリカ軍の如くに、その地域に進入すれば必ず敗れた。

2013-03-31 20:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭アメリカがベトナムから撤退した如くに、ローマ軍は、何回かパレスチナからアラビアに進撃して空しく撤退した。 これがユダヤ人の心理にさまざまに作用したことをヨセフスは記している。 そしてユダヤ戦争のときも、彼らは、東からの援助をあてにしていた。

2013-03-31 21:27:56
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮無理もない、かつてパルテアの援助で三年間、ローマの勢力を一掃したこともあったのだから――。 また亡命先は、必ず東方であった。 そしてこの東方への伝統的な文化的親近感、同民族的一体感は、ローマ圏に組み込まれても簡単には消失しない。

2013-03-31 21:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯とはいえ彼らは、実質的には、その人たちと違う。 エッセネ派のは理念としての″荒野″であって、荒野の現実生活はこれと関係ない。

2013-03-31 22:27:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑰そして理念化するという点では、むしろヘレニズム的であり、地中海圏に属するという点ではローマに近く、かつ、マカバイ朝の初期には、その被援助国となってシリアと戦ったわけであったが――。

2013-03-31 22:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

⑱この点、非常におもしろいのがエッセネ派なのである。 彼らは、自覚的には完全な伝統主義的「荒野派」で、生活規律その他はまことにユダヤ的なのだが、奇妙なことに、ヨセフスの記す彼らの根本的思想は、最もギリシア的というより「ギリシア的思想の一部を拡大したもの」なのである。

2013-03-31 23:27:57
山本七平bot @yamamoto7hei

⑲それでいて彼らは、最後でローマに抵抗し、絶対に屈従しない。 これは戦前の日本で、最も伝統的と自ら主張した超国家主義者が、実は、西欧思想の一部を拡大したものに伝統の衣裳を着せたにすぎないのとよく似ている。

2013-03-31 23:57:46