音の無いオルゴール屋 1

行雲流水さま作(2013.5.18) 詩の花束という形の小説。
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行雲Nin流水・脱原発に一票* @clouddance2020

高層ビル街の外れに 夜の零時に開く小さな店がある 手書きのオークの無垢板の看板には 「音の無いオルゴール屋」とある そして何故か店員の居ない店の中は 綺麗な木箱に入ったオルゴールが 五十個程硝子ケースに飾られていた 「御自由に御試奏下さい」 大きなプレートが 壁に掛けられていた

2013-05-18 08:34:20
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螺鈿の細工の施された 黒い漆の木箱には 内蓋に詩が書かれていて オルゴールらしい ゼンマイ仕掛けのロール状の 金属の歯車は見当たらず 唯の空っぽの箱だった 詩は・・ 誰も知らない海の底 大きな真珠貝が口を開く時 地上から差した光の一条の スポットライトを浴びて 海の女神が語りだす

2013-05-18 08:40:50
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夜のビル街は 寝静まり返って 街路樹が 小さな寝息を 時たま立てた 黒い漆の箱の中から 潮騒の音が 聞こえた気がした 目を瞑ると 海の底に横たわる 大きな真珠貝が開き 見た事も無い 虹色の球体が ソプラノの唄声を上げて 小さな泡を 無数に噴いていた 弦が無数にある ハープの響きだ

2013-05-18 08:47:21
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地の塩 海の塩 地球の青い血液は 海の底から 湧いて来る 陽の目を見ようと 大気に向かって 生れた先から 旅立って行く 潮の華の逆波に イルカとクジラが 応えているのは 海の秘密を 知っているから 塩水の湧くガイアの泉 青い地球の 命の井戸よ *一曲を聞くのに 何時間が経ったのか

2013-05-18 08:55:46
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辺りはまだ暗かったが 息を飲むオレンジと桃色の 朝焼けの美に包まれていた 黒い漆箱の調べと 神々しい朝の空は 紛れもなく 同じ旋律を奏でた 何処からか 黒いツバメが一羽 紙を咥えて 店に飛び込んで来た 「閉店の御時間です。 また御越しください」 そして自動シャッターが下り始めた

2013-05-18 09:08:15
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僕は音の無いオルゴール屋を 後にすると考えた あと50もの木箱が在ったな 全てに詩が書いてあったが それぞれ違う響きを持っているのか 試奏とは僕が箱を奏でるのでなく 僕の心を箱が奏でる という意味だったのだな 高層ビル街を抜け 地下鉄の入り口で 少し早い通勤の人々と 擦れ違った

2013-05-18 09:16:29