西村京太郎氏の1978~83年/巨匠の知られざる転換期 by 小林史佳氏

 優しさと哀しみに満ちた社会派作品『四つの終止符』『天使の傷痕』によって世に出、新本格ミステリの先取りとしか思えない奇想の傑作『殺しの双曲線』『七人の証人』、さらには洒脱きわまりないパスティーシュ《名探偵》シリーズなどで、今も後進にリスペクトを受け続ける西村京太郎氏。  そんな氏の転換点が1978年の『寝台特急殺人事件』にあることは誰も知ることですが、それまでのマニアックでテクニカルな作風から、百万大衆を相手にするトラベル・ミステリー作家への変身は一気になされたものなのか。  この点にほぼ初めてと言っていい疑問を突きつけたのが、小林史佳さん @miu_pal です。これまで一塊のものとしてとらえられがちだった『寝台特急』以後の最初の数年間を、それ以降現在に至るまでの作風に転換する稀有な準備・実験期間としてとらえた論考をぜひごらんください。
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小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

西村京太郎は『寝台特急殺人事件』が書かれた78年から、おそらく作家としてのターニングポイントになってると思われる83年までの作品を読破しようとしてるんだけど、本当に力作ばかりで、もちろん個々の作品ごとに成功失敗はあるものの、一作として同じ趣向の作品が無いということに圧倒されてる。

2013-05-22 13:44:05
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

意外と、十津川警部、カメさんLOVEだもんね。

2013-05-22 13:54:16
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

そして、芦辺拓さんの仰られるとおり、西村京太郎はトラベルミステリーの時代に入っても、奇想としか言えないダイナミックなアイデアは健在だったのだ。

2013-05-22 13:58:11
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

西村京太郎の78-83年は、鉄道を舞台にしたトラベルミステリーと、それ以外の作品(左文字進シリーズや『黙示録殺人事件』『原子力船むつ消失事件』など)が混在して出版されていた時期ですね。それが83年の『夜の探偵』84年の『日本シリーズ殺人事件』を最後にトラベル一色になる。

2013-05-22 15:13:59
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

また、出版点数も82-83年に飛躍的にアップしてる。ほぼ月刊状態になって量産体制が整ったのが、この時期ですね。もっとも、作品の連載時期や過去作品の単行本化などを考慮すれば、ある程度タイムラグが生じるとは思いますが。

2013-05-22 15:14:15
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

それ以上に、この時期に作品の質的な変化もあったのではないかと、今回、再読しながら思ったのだす。70年代の作品とは別の発想で書かれた作品。『寝台特急』や『夜間飛行』はまだ70年代の延長を感じさせた。だけど、83年の『寝台特急あかつき殺人事件』や短編「再婚旅行殺人事件」などは、

2013-05-22 15:21:56
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

70年代的な発想、つまり、事件の壮大な広がり、全体構図の奇抜さ、複雑さ、プロット全体に加えられるツイストといったものを排して、しかし、推理小説としての面白さをしっかりと残した作品を完成させてる。この、『あかつき』などで得た方法論が量産を可能にさせたのではとも、思ったのでした。

2013-05-22 15:29:17
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

間違った。「再婚旅行殺人事件」ではなく、「新婚旅行殺人事件」の方ですね。短編集『蜜月列車殺人事件』(82年)のラストに収録されてる方です。「再婚旅行」は冒頭に収録されてるもの。正直、「再婚旅行」は凡作だと思いますが、「新婚旅行」の方は実に見事な作品ではないかと思います。

2013-05-22 15:38:22
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

西村京太郎、83年の『寝台特急あかつき殺人事件』などは質的な変化というより、もう一手新しい手を見つけたと言うべきだろうね。その後も、列車爆破サスペンスや無差別殺人テロ事件、国際的な犯罪劇など奇抜な事件、構図の大きな事件、アクション満載のサスペンス小説をばんばん書いてるわけだから。

2013-05-22 17:23:02
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

西村京太郎。今日は『東北新幹線殺人事件』(83年)を読み終えて、これで順当に読み進めるのなら、次は同年の『下り特急「富士」殺人事件』になるわけなのだけど、それは一旦置いておいて、78年の『炎の墓標』を読み始めた。巨大タンカー爆破脅迫事件。

2013-05-26 22:38:21
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

西村京太郎のトラベルミステリーは78年の『寝台特急殺人事件』から始まるとされているんだけど、先日もツイートしたとおり、78-83年までの間はトラベルとその他の推理小説を平行して執筆・出版していて、『寝台特急』以降のトラベルはカッパノベルスから書き下ろしで出版していたんだよね。

2013-05-26 22:43:32
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

『寝台特急殺人事件』(78年)『夜間飛行殺人事件』(79年)『終着駅殺人事件』(80年)『夜行列車殺人事件』『北帰行殺人事件』(81年)『日本一周「旅号」殺人事件』(82年)『東北新幹線殺人事件』『下り特急「富士」殺人事件』(83年)と、長編はほぼ一年一作のペースで出版されていて

2013-05-26 22:47:42
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

しかも、これら、ひとつとして同じ趣向の作品が無いんだよね。タイトルだけ見ると、どれも何とか殺人事件で、全部同じだろうと思われがちなんだけど、これらの作品、それぞれまったく別の種類のアイデアでもって書かれていて、いかに作家がこのシリーズに注力していたかに本当に驚かされるんだ。

2013-05-26 22:53:57
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

この、「一年一作の力作をカッパノベルスに」という状況は、82年から変わってくる。西村のトラベルミステリーがベストセラーになるようになって、他の出版社もトラベルものの原稿を欲しがったんだろね。82年になって、講談社、角川書店、新潮社からもトラベル作品が出版され始める。

2013-05-26 22:57:50
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

それで西村は82-83年にかけて、当時、創刊されたばかりの講談社ノベルスから続けてトラベルミステリーの長編作品を出版している。それが82年の『特急さくら殺人事件』、83年の『四国連絡特急殺人事件』『寝台特急あかつき殺人事件』なんだけど、この三作を読み比べると、

2013-05-26 23:05:58
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

当時の西村京太郎が、どのように試行錯誤していたのかということが分かる感じがするんだよね。もちろん、この三作は連作でもなんでもないし、執筆時期も連続しているわけではないんだけど、量産可能なトラベルミステリーとはどのようなものか、そこに辿り着くまでの軌跡が見て取れる感じがするんだ。

2013-05-26 23:11:40
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

西村京太郎の推理小説、特にこの時期くらいまでの作品のほとんどには、必ずと言っていいほどスケールの大きな試みが盛り込まれていた。事件の全体構図の奇抜さ、壮大さ、小ネタのてんこもり物量作戦、あるいはプロット全体を書き換えるような中盤のどんでん返し。

2013-05-26 23:31:36
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

それはトラベルミステリーにおいても変わらず、事件の壮大さ(『夜間飛行殺人事件』)奇抜さ(『日本一周「旅号」殺人事件』)てんこもり(『夜行列車殺人事件』)どんでん返し(『寝台特急殺人事件』『北帰行殺人事件』)と、こうした試みが(成功例ばかりではないのだけど)取り入れられていた。

2013-05-26 23:36:09
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

82年の『特急さくら殺人事件』も、こうした試みを引き継いでいこうとした作品なんだけど、カッパノベルスの先行作と比べても、非常に苦しい作品になってる。

2013-05-26 23:39:15
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

歌野晶午『密室殺人ゲーム王手飛車取り』で伴道全教授がある鉄道路線の特殊な運行形態を利用したトリックを披露して、他のゲーム参加者たちから「鉄道豆知識で解けるトリックなんてつまんねーよ」といった風に罵られるって展開があるんだけど、『特急さくら』のメインのネタはそういう種類のものなの。

2013-05-26 23:48:48
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

『特急さくら殺人事件』における推理小説的な趣向というのは、その鉄道豆知識を土台にしたトリック(死体消失のトリック)だけなんだよね。だけど、作家はそれだけで満足していないようにも思えた。このネタ一発だけでは読み応えがある作品にはなりえないと判断しているようにも思えたんだ。

2013-05-27 00:04:40
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

それでは作家はどうしたのか。犯人、被害者、その他の登場人物の関係性をしっちゃかめっちゃか複雑に絡ませていった。あきらかに作家は苦しんでる。推理小説的なネタは小粒なのに、それまでのカッパで出してきた作品と同等の読み応えのある作品に仕上げようとして、無駄に人間関係を入り組ませている。

2013-05-27 00:07:22
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

そこに推理小説としての面白みは無く、メインの死体消失トリックも力技的な洗練を欠いたもので、結果、『特急さくら殺人事件』は成功作とは言いがたい作品のように、私には思えた。

2013-05-27 00:09:55
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

次の『四国連絡特急殺人事件』は、一転して、堂々たる本格ミステリの傑作だった。前例のある、ある大トリックを用いた作品なんだけど(本格ミステリのファンなら、そのもっとも有名な作例としてあの作品を挙げるはず)、その大トリックの周囲に小技をふんだんに散りばめて、

2013-05-27 00:15:26
小林史佳/みうぱる🌼🐟☀️ @miu_pal

さらに、犯行計画に対する不測のアクシデントも介入させてプロットを複雑化し、推理小説ファンに至れり尽くせりで奉仕した実に見事な作品だった。ただ、これはもう鮎川哲也的な作品で、こういった作品は量産出来ない。注文殺到の流行作家には、このような作品を書き続けていくことは無理なんだよね。

2013-05-27 00:20:07