オレの妹がカリフなわけがない！#16-17　と休載のお知らせ

カリフラノベ『オレカリ（略称）』 @caliphnovel

「オレの妹がカリフなわけがない！」 #１６

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オレはブロンズクラス、あいつはプラチナクラスでもトップの秀才。頭ではかなうわけがない。最初から簡単に説得できるとは思ってはいなかったさ。しかし、アラビア語の文法まで持ち出してカリフが女性だ、なんて反論が来るとは、オレの想定の斜め上を行っていた。１

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歴史上一人の女のカリフもいなかったのだから、カリフが本来女性だ、なんて議論がありえないことぐらいチョット考えれば分かったはずだ。 しかし、アラビア語を持ち出されて、オレはゲシュタルト崩壊を起こして、何も言い返せず、呆然と教室に帰った。昼飯を食べそこなったのに空腹も感じずに。２

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「あんた何時から波瑠哉様と昼休みに呼び出されるような仲になったのよ。いったいあんたたちどういう関係なのよ？」 混乱しているオレを我に返らせたのは越誉メクのけたたましい声だ。メクはオレと愛紗の幼なじみで、ぼっちのオレに平気で声をかけてくる唯一のクラスメートだ。３

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「どんな関係？ただの無関係だよ！」 「ブロンズクラスで海の底のヒラメみたいに人目を忍んでひっそり棲息しているあんたがあの波瑠哉様に名前を知られていること自体変でしょう。第一、このクラスでもあんたの名前憶えているのは私ぐらいのものよ」 「どこまで存在感ないんだ？！オレ」４

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「ねぇ、紹介してよ。あっ、写メ撮って、サインも貰って」 「ひとの話は聞け！無関係だと言っただろう。 この役立たず！と罵られて教室から追い出されただけの関係だよ！」 「１５年間側にいて、初めてあんたがこの世界に存在する不条理を受け入れられる、と感じられたような気がしたのに！」５

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「存在感ないだけじゃなくて、不条理だったの？オレの存在！今まで受け入れられてなかったの、オレ？！」 「今まで受け入れられてこなかった、じゃないわよ。これから先も未来永劫受け入れられないの。この役立たず！」 メクはそう言い捨てると、後ろも見ずに自分の席に戻っていった。６

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愛紗を説き伏せるためにプラチナクラスに入るせっかくのチャンスはこうしてつぶれてしまった。となると当分はあいつに会う機会はなさそうだ。でも、それはそれでいい。あいつはアラビア語まで勉強してカリフについて調べた上でカリフを名乗ったんだ。今のオレにあいつを言い負かせられるわけがない。７

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とは言え、オレの頭でこれから独学でアラビア語を勉強して、愛紗と議論ができるほどにカリフ文献を読みこなせるようになるはずがない。オレはブロンズクラスの英語だって毎回落第点で、お情けの追試でやっと合格しているぐらいだ。世界で最も難しい言語の一つと言われるアラビア語ができる筈がない。８

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といって、父さんも頼りにならないことはもう分かっている。 オレは覚悟を決めた。 マッドサイエンティストの校医ドクター和田と並ぶ君府学院の二大奇人の片割れ、アラビア語、ペルシャ語、トルコ語を教える白岩良教諭の研究室を訪ねる覚悟を。９ （#１６ 終わり　#１７に続く）

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「オレの妹がカリフなわけがない！」#１７

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教員室が新校舎に引っ越した後もなぜか白岩先生だけが旧校舎に残った。 というか、白岩先生は旧校舎の教員室を独り占めにして外国語の本に埋もれて暮らしているのだ。 白岩先生はこの学院の卒業生だが、東大の文学部イスラム学科の一期生でもあったらしい。１

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しかし、その間の事情については、よほど嫌な思い出があるのか、決して話をすることはない。 東大イスラーム学科を卒業した、一説によると追い出された、後は長く中東を放浪して、何のだかよく分からない博士号を取って、この学院に舞い戻ってきたらしい。２

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白岩先生は高校の選択外国語の教員として、アラビア語、ペルシャ語、トルコ語を独りで教えている。しかし受験に全く役に立たないアラビア語などをわざわざ選択する物好きな高校生などそういるわけはない。先生の授業はいつもガラ空きで生徒の殆どは白岩先生の授業を一度も取ることなく卒業していく。３

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旧校舎の教員室の主として学校に住み着き出て行こうとしないこんな白岩先生が、アメリカ式合理的経営を目指す石造理事長体制下でどうしてリストラされないのかは謎だ。黒魔術を使う先生を追い出すと呪われて祟れるのが怖いからとも、先生の背後にいる国際テロ組織からの報復を恐れてだとも言われる。４

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でも本当のことは誰も知らない。 って言うか、この変人教師に誰も関心は無かったんだ。高校生の世界には勉強、クラブ活動、クラスの人間関係、それからアニメやゲーム等、他に考えないといけないこと、楽しいことが一杯で、黴臭い古書に埋もれた生きた化石のような先生に構っている暇などないんだ。５

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オレも同じ。白岩先生のことは噂に聞いてはいたけれど、授業を取ったことなどないし、顔さえも知らなかった。彼のことなど思い出しもしなかっただろう。昨日妹にアラビア語文法の話で煙に巻かれることがなかったならば。６

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オレは放課後、寮に帰らず、白岩先生の研究室に向かった。先生は研究室に寝泊まりしているという噂だから、いつ行ってもいるはずだ。 研究室に着くと案の定中に電気がついている。学校の先生と個人的に話をしたことなど生まれてから一度もなかったが、オレは一世一代の勇気を振り絞って扉を叩いた。７

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「どうぞ。鍵は開いています」 「失礼します」 一礼して部屋に入った俺を一目みて先生は言った。 「夢眠君の双子の片割れ、垂葉君だね。待っていたよ」 「えっ？どうして…」 「君がここに来ることは、時を超えた永遠の過去から決まっていた天命。そして私が時の徴を読み解く者だからだよ」９

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先生は焦点の定まらない目で虚空を見つめて歌うように言った。 （#１７終わり　#１８に続く）

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著者がインドネシアで開催されるカリフ会議２０１３に参加のため旅行中のため「オレの妹がカリフなわけがない！」の更新は６月５日までお休みさせていただきます。m(_ _)m

🌷無印 助兵衛(旧・林蟻)🌛 @forestnamal

休載理由がガチすぎる！さすが世界史上唯一のカリフラノベ！！@caliphnovel 著者がインドネシアで開催されるカリフ会議２０１３に参加のため旅行中のため更新は６月５日までお休み