第五十二話:一つ下 第五十三話:『おいてかないで』 第五十四話:マリオネット
- C_N_nyanko
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さっきのことを話そう。 手元の携帯に夢中になっててね。ろくに確認もしないでエレベーターを降りて、自分の部屋まで帰ったんだ。カバンをまさぐって鍵を見つけて、鍵穴に突っ込んでさ。 だけどおかしい、鍵が開かない。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-05 23:35:00何度ガチャガチャやってもダメでさ、それでふと見上げたら、9階だったんだよ。僕が住んでるのは10階だから、1フロア間違えたことになる。 慌ててエレベーターの前に戻った。 だけどその途中、ふと気がついたんだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-05 23:35:17エレベーターのボタンの並びからして、9階と10階を押し間違えるはずはないって。 それで、エレベーターが到着して、乗ったとき。 僕が間違えて開こうとしたドアが、ぎぃと開いた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-05 23:36:00中から赤い目の人間がこっちを見て、ぎり、と歯ぎしりしたんだ。生白い腕が這い出た時、丁度エレベーターの扉が閉まった。 僕は急いで部屋に戻って鍵をかけて、シャッターまで下ろして、その日は一日中部屋から出なかった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-05 23:38:00あとで管理人に連絡を入れてみたら、下の階は長いこと空家なんだってさ。 僕が見たのは一体なんだったんだろうね。 あれ以来ボタンは慎重に押してるよ。 そういう、チョッとした話。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-05 23:38:16『待ってて』 そう言って、電話は切れた。 門の前で待っていると、彼らはすぐに出てきた。 女の子四人、男の子三人。随分朗らかだ。 彼らは門の前で待つ私に気がついて、陽気に声をかけてきた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-06 18:51:30「どこの学校? その制服、見たことない」 私は苦笑した。 「すぐそば」 「誰か待ってんの?」 「廃墟巡りやってる人たちがいるって聞いて、会えないかなと思って」 白々しく嘯くと、彼らは顔を見合わせて笑いあった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-06 18:52:14「マジ!? それ俺らだし!」 「えー、そういうの興味あるんだー」 「なんなら一緒来る? 明後日行くけどー?」 誘われて、私は彼らに笑いかけた。 「『おいてかないで』」 声を聞いた瞬間、彼らの表情が凍りついた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-06 18:52:42途端、私の体がメキメキと変化した。私は腕の塊になって、彼らを捕らえようと手を伸ばす。 顔が一人の少年に変わり、赤い涙を流した。 「ぎゃぁあああ!」 女の子が悲鳴を上げた。男の子たちは、腰を抜かして動けない。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-06 18:53:30その手足を掴んで少年の顔を近づけると、彼らはパニックを起こした。 「ごめんなさい! 逃げてごめん!」 「だってアレヤバかったから! だからごめんなさい!」 「助けて! 助けてくれ!」 滑稽で、惨めだった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-06 18:54:56ついに一人が泡を吹いて倒れた。 ひとり、またひとりと、気絶が連鎖する。 全員動かなくなったところで、私はするりと元の姿に戻った。 「ガキの火遊びで行くところじゃないのよ」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-06 18:55:06私は嗤う。自業自得だ。 「――もちろん、あんたもね」 電話の相手に向かって呟いて、私は家へ帰った。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-06 18:55:14そこの通りで、とてもよく出来た人形を見かけたんだ。 街中のバス停のベンチにちょこんと腰掛けていてね。小学生ぐらいの大きさだったかな。 最初は人間かと思ったぐらい、存在感というか、雰囲気のある人形だった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-06 19:19:22と。 「気になる?」 後ろから声をかけられた。振り返ると、ボブカットの女が立っていた。 「立派な人形だね」 そう言うと、女は自慢げに微笑んだ。 「私の娘なの。とてもいい子で、お利口さんなのよ」 「へぇ」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-06 19:20:12女はニヤリと笑う。 どうも怪しいというか、嫌な雰囲気の笑顔だったよ。僕はさっさと切り上げることにした。人形は確かに素晴らしかったけどね。 すると、何かのからくりなのだろう、人形がひょいと立ち上がった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-06 19:20:22カタカタと音をさせて、人形は僕の方を見る。 「はじめまして」 少女の声が再生された。 「私とダンスを踊りませんか?」 そう訊ねて、くるりと回って優雅に一礼する。人形だと思ったが、どうもロボットだったらしい。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-06 19:21:00「また今度ね」 僕は女性に一礼して、そそくさと離れた。女は少し呆気にとられて僕を見ていたが、気にするほどのことじゃない。 と。 信号無視の車が一台、こちらへ突っ込んできた。パトカーのサイレンが、やかましい。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-06 19:21:40あ、逃走車だ。 思ったときには、もう目の前に車が迫っていた。 嘘。死んじゃうのか。 体は動かなかった。僕はただ、阿呆みたいに、迫り来る車を見ていた。 気がつくと、バス停のベンチに座っていた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-06 19:22:47「あの子、きっと初恋だったのね」 さっきの女が隣でタバコを蒸している。 目を見やると、事故現場にバラバラの人形が散らばっていた。あの人形に間違いない。 僕の身代わりになってくれたことは、想像に難くなかった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-06 19:24:12「あの子が勝手に喋って誘うなんて、初めてだったわ」 女はひどく感傷的だった。 「あんた、怪我ない?」 女に訊かれて、頷く。 そして、こちらも訊いた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
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