山本七平botまとめ/天与の資質(カリスマ)を欠いた政治屋が成し遂げた明治の大改革/~「ヘレニズム化した古代ユダヤ」と「文明開化の日本」の相似性~

山本七平著『存亡の条件――日本文化の伝統と変容――』/第三章 指導者とその時代/カリスマ的指導者と「時代」/89頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①次に簡単にそれを並べてみよう―― 太政官制度を廃止して内閣制度を置く、通信省・法制局設定、正貨兌換開始、帝国大学令公布、師範学校令・小学校令・中学校令公布、海軍条例・鎮守府官制公布、教科書検定条例定む、憲法起草開始、学位令公布、保安条令公布、(続 <『存亡の条件』

2013-06-03 13:58:02
山本七平bot @yamamoto7hei

②新聞紙条令・出版条例改正、枢密院設置、師団司令部条例・陸軍参謀本部条例・海軍参謀本部条令公布、徴兵令改正、大日本帝国憲法・衆議院議員選挙法・貴族院令公布、土地台帳規則を公布(地券廃止)等々。 これだけ並べてみると、実に大変な大改革であるといわなければならない。

2013-06-03 14:27:48
山本七平bot @yamamoto7hei

③イギリス式な試行と模索、錯誤と後退と再試行という行き方をしたらおそらく四十年はかかるであろうし、フランスのように…革命によって一挙に現実に施行するという行き方をすれば、やはり総計では同年数を要しかつ大きな衝撃を招くであろう。

2013-06-03 14:57:49
山本七平bot @yamamoto7hei

④従って、これらを…実質的に「無衝撃」で行い得たなら、この三人は 「自分が生きている社会の欲求をはっきりと正確に感じとり、できるだけ衝撃や苦痛を避けて、社会の到達すべき目標に導く最善の手段を発見する方法を知っている」 天才的な、人類史にまれな一大指導者だったことになる。

2013-06-03 15:27:45
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤だがおそらく、この二人を、そのように定義するものはいないであろう。 そしてここに、日本における特殊な「指導者像」があり、それが、少なくとも「現在までは」つづいてきたし、つづき得たのである。

2013-06-03 15:57:54
山本七平bot @yamamoto7hei

①【政治屋稼業の本質】その前提としてまず、非常に広範な国民的合意に基づく「社会の欲求」があった。 それは「内に近代化、外に対等化」であり、対等化の具体的目標は「条約改正」であり、それを獲得するには急速な外面的近代化の整備を要請される。<『存亡の条件』

2013-06-03 16:27:47
山本七平bot @yamamoto7hei

②そしてこの要請にこたえるべきだという「社会的欲求」は、明らかにかつ具体的に顕在していたから、それを洞察して「はっきり正確に感じとる」ことに、「天与の資質」も特別な才能も必要としない。

2013-06-03 16:57:55
山本七平bot @yamamoto7hei

③第二に、その「目標に導く最善の手段」は、西欧を模倣してその制度をとり入れることだから、この「手段を発見する方法」も自明のことである。

2013-06-03 17:27:47
山本七平bot @yamamoto7hei

④勿論それによる「衝撃と苦痛」はあるが、これは伝統的な解決法、 「歴史の流れという諦念のもとに、すべての問題を自分の内心の問題に還元して心理的に解決し、これを外面的・社会的解決にかえる」 という方法をとればすむ。

2013-06-03 17:57:55
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤この伝統的方法は、太平洋戦争終結時の「耐え難きを耐え、忍び難きを忍び」にも現れているように、その後も根強く残っていた、指導者にとっては実に便利な方法である。

2013-06-03 18:27:49
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥従ってこの場合の指導者は、以上の事の実務を能率的に行いうる者、即ち「統治システムにおける最高の地位に達するに必要な能力をもち、それを維持する仕方を心得ている人物」、 一言でいえば最も有能な政治屋であれば十分であり、それ以上の者で一種の独創性があっては、却って害がある事になる。

2013-06-03 18:57:53
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦この行き方を図式化すれば、次のようになると思う。 まず、外人の″家庭教師″を雇って模範答案をつくる。

2013-06-03 19:27:47
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧次いでその模範答案を外国に示し、百点満点をもらい、満点であることを権威として国内に対し、それで反論を封じて全国的に施行し、その施行によって近代化完了を提示して対等化を要求し、不平等条約を改定する。 そしてこれをスムーズに能率的に行い得れば、それが指導者でありえた。

2013-06-03 19:58:05
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨周囲の国の文化をとり入れ、それによってこれらと対等に条約を結ぶべきだという意見、 またそれができた者が指導者になるという行き方は、第二章で引用した『マカバイ記』の冒頭につづく、当時「ヘレニズム化」を主張したユグヤ人の意見にも出てくる考え方である。

2013-06-03 20:27:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩「この頃イスラエルの間から律法を無視する者どもが現れ、多くの人を説きつけて言った。 『さあ、行って我々の周囲の諸国民と契約を結ぼうではないか。 我々が彼らから孤立したから、多くの悪が我々にふりかかって来たのだ。』 この説は人々の目にもっともな事と見えた。

2013-06-03 20:57:53
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪そしてある人々はこれを実行に移す事に熱心であったので(エピファネース)王の所に出かけていった。そこで王は彼らに異邦人の慣習をとり入れる権限を与えた。 彼らは異邦人の慣わしに従ってエルサレムに競技場(ギムナジウム)を建てた。彼らはまた割礼を消す手術を受け、聖なる契約を蔑ろにした

2013-06-03 21:27:47
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫実に、彼らは異邦人の仲間に入り、悪をなす事に身を売り渡したのである。」 この「競技場再整形人間」非難はまるで「鹿鳴館的欧化日本人」に憤慨する国粋主義者の言葉のようだが、(続

2013-06-03 21:57:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬続>ここで「悪と規定されている考え方」は「周囲の諸国民と契約を結ぶ事」、 その為「異邦人の慣習をとり入れる」、 すなわちその国の文化様式や制度をとり入れることであった。 この考え方の基本的図式は、明治指導者と違いはない。

2013-06-03 22:27:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭同時に、この指導者は政治屋であれば足りるし、『マカバイ記』も一貫してそう描いている。 以上に示された二つの図式が典型的、集約的に現れているのが、前にも記したが、明治23年の民法典論争までの、そしてその際の政府の態度である。

2013-06-03 22:57:56