「ニンジャスレイヤーVSシャーロック・ホームズ(1):ア・スタディ・イン・レッド・ブラック」

ネオサイタマを舞台としたサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」の非公式ファンジンです。 連載アカウントな。 https://twitter.com/ninja_pastiche
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ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

ファンジン 「ニンジャスレイヤー・パスティーシュ」より 「ニンジャスレイヤー対シャーロック・ホームズ」 エピソード1「ア・スタディ・イン・レッド・ブラック」

2013-06-14 04:01:49
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

ネオサイタマでは今宵も憂鬱な重金属酸性雨が降りしきる。重苦しい雲の下では、灰色の摩天楼と猥雑なネオンサインの群れが立ち並んでいた。その中心に位置するのが見るものを威圧する数百階建ての超高層建築物、カスミガセキ・ジグラット。ネオサイタマにおけるありとあらゆる電子貨幣経済の要だ。

2013-06-14 04:03:15
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

そして、この超巨大高層ビルジングの中に大手非合法金融会社ネコソギ・ファンドのオフィスも存在した。ネコソギ・ファンドは一度は倒産の危機にあったものの、国による救済措置を受けて辛うじて破綻を免れ、現在ではかつての威光を取り戻しつつある。しかし、それもあくまで表向きの話に過ぎない。

2013-06-14 04:06:32
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

ネコソギ・ファンド社の実態は隠れ蓑なのだ。ネオサイタマの裏側を統べる悪のニンジャ組織、アマクダリ・セクトの姿を覆い隠すための隠れ蓑。これによってネオサイタマに住む多くの人は気付きもせずにその一生を終えていく。この街は既にニンジャの力で支配されつつあるのだということに。

2013-06-14 04:11:02
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

しかし、今ネコソギ・ファンドのホールには癇癪めいた怒鳴り声が響き渡っていた。「ニンジャスレイヤー!またニンジャスレイヤーか!」声の主はアマクダリ・セクトの盟主、ラオモト・チバ。群青色の瞳を持ち、グレーがかった明るい髪を中世貴族めいてコケシカットにした少年だ。

2013-06-14 04:17:28
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

幼くしてニンジャ組織の頂点に君臨するチバは小さな頃から帝王学を学ばされてきた。そのため常ならばその眼差しは酷薄めいた鋭さを持ち、全身からは対する者を畏れさせる帝王のアトモスフィアを漂わせていたことであろう。だがそんな彼が今は年相応の子供のように喚き散らしていた。「ウアアアーッ!」

2013-06-14 04:22:50
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

ラオモト・チバの手の中でグンバイが真っ二つにへし折れる。「ウアアアアーッ!ウアアアアアアーッ!」続けざまに UNIXモニタに叩きつけられたグラスが砕け散った!チバは荒い息で周囲を見渡し、次なる犠牲者を探す。すると、脇で控えていた忠実な部下のネヴァーモアが素早くフクスケを手渡した。

2013-06-14 04:28:22
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

フクスケを受け取ったチバは思いっきり地面に叩きつける!ナムサン!フクスケは無残にも中破!彼がこうした癇癪を起こした原因は作戦の失敗にあった。チバが指揮し、セクトの戦力を動員した作戦がまたも失敗に終わったのだ。その前に立ちはだかったのがニンジャスレイヤー。アマクダリへの敵対者だ。

2013-06-14 04:33:07
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

その男にはいくつもの不吉な呼び名が付けられている。ニンジャを殺す者、ジゴクの猟犬、ネオサイタマの死神、狂った復讐鬼、スゴイタカイビルの悪魔……。男がニンジャを殺していくにつれて自然とそうしたあだ名が増えていった。だが、中でもチバが蔑み憎んでいるのはベイン・オブ・ソウカイヤの名だ。

2013-06-14 04:37:58
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

ベイン・オブ・ソウカイヤ……つまりアマクダリ・セクトの前身たるニンジャ組織、ソウカイヤを壊滅させ、彼の父であるラオモト・カンを殺したという事実を指す名前だ。そう、ニンジャスレイヤーとの因縁はラオモト・チバにとって親子二代に渡るものなのだ。その事実が余計にチバの気持ちを煽り立てる。

2013-06-14 04:42:47
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

彼のこの怒りもニンジャスレイヤーが憎むべき仇であるということによって増幅され爆発したものであった。チバの怒りは未だ留まることを知らず、暴君のように周囲に当たり散らす。だがそれを諌める者があった。摂政のアガメムノンだ。ギリシャ彫刻めいた美貌の男はアルカイックスマイルを浮かべて言う。

2013-06-14 04:46:52
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

「この程度のことで取り乱されてはなりません。事は既に決したのです。帝王たる者もっと悠然と構えていなくては」チバは憎しみを込めた眼差しでアガメムノンを睨み返す。「なら、お前がなんとかしろ、アガメムノン=サン!ニンジャスレイヤーを殺せ!」アガメムノンは芝居がかったように肩をすくめる。

2013-06-14 04:51:15
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

「何度も申し上げているはずです。ニンジャスレイヤーを重点し過ぎては事をし損じると。奴のカラテは実際驚異的です。ただ無策にニンジャをぶつけてもこちらの被害が増すばかり。悔しいことですが、今は捨て置くしかありますまい」アガメムノンは微細な稲妻の蠢く瞳でラオモト・チバを見返す。

2013-06-14 04:55:59
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

「ニンジャ相手にニンジャで勝負せずにどうしろというのだ!ニンジャにニンジャで!……いや、待てよ。ニンジャがニンジャ……」不意にチバの怒声が止み、急速に何かを思案し始める。「……ネヴァーモア!ニンジャスレイヤーの奴は何と言っていた!さっきの作戦中にアルバレストと交戦した時だ!」

2013-06-14 05:01:23
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

「……ドーモ。ニンジャスレイヤーです?」「違う!その後!」「ニンジャを殺す探偵」「そう、それだ!探偵!」チバは満足気に頷くと再びブツブツとつぶやきながら何事かを考え込む。やがて、彼の口元が歪み邪悪な笑い声が発せられた!「ムッハハハハハ!ムッハハハハハハハハハ!」コワイ!

2013-06-14 05:05:10
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

ラオモト・チバからは最早ついさっきまでのような子供めいた情けなさは感じられない。あるのは恐ろしき支配者のアトモスフィアのみ!一転して自信を取り戻したチバにアガメムノンが穏やかな口調で問いかける。「何をなさるおつもりです、ラオモト=サン。ご忠告ならば先程も申し上げたはずですが」

2013-06-14 05:09:36
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

「目を歯で噛むと実際いい、というミヤモト・マサシのコトワザがあるだろう。あれをやるのだ。今度こそ失敗はない!ヨロシサン製薬とリー先生に連絡を取れ!」「ほう。クローン兵器を扱う暗黒メガコーポと死体を蘇らせる実験にのめり込む科学者に」アガメムノンは彼の言葉から瞬時に思考を働かせた。

2013-06-14 05:14:49
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

「分かりました。すぐに手配しましょう」アガメムノンは恭しくオジギをしながら、頭の中である結論に達していた。それでは一手足りんな、と。

2013-06-14 05:19:12
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

ネオサイタマの空には髑髏のような満月が浮かび、汚染物質を大量に含んだ分厚い雲がそれを覆い隠していた。企業から見離され廃墟と化した街の一角には今宵は月灯りすら降り注ぐことはない。ネオンの切れかかった「実際安い」「行きたいと思う」という看板だけが虚しく点滅を繰り返していた。

2013-06-15 19:29:14
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

廃墟となったビルの一室。薄暗い部屋の中で一人の男が血濡れた手で壁をこすり、何かしらの文字を書き付けていた。男の顔はメンポ(訳注:面頬。鼻から下を覆う金属覆面)に覆われており、その体もニンジャ装束に包まれている。まるでニンジャのようだ。

2013-06-15 19:33:32
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

「ざっとこんなものか。あとは……」ニンジャめいた男は振り返ると、縛り付けられ床に転がった女を見る。男が作業に没頭している間に女は這いながらも懸命に逃げようとしていたようで、なんとかタタミ四枚分は男のもとから離れることに成功していた。だが。

2013-06-15 19:37:06
ニンジャ・パスティーシュ @ninja_pastiche

「イヤーッ!」男が無造作に腕を振る!すると、次の瞬間には女の背中に無慈悲にもスリケンが突き立てられていた!コワイ!女は背中から血を流し、ピクリとも動かなくなる。「逃げようとしても無駄だぜ。なんせ俺はニンジャだからな」男は勝ち誇ったようにそう告げる。

2013-06-15 19:41:10
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