モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Spring XII~
- IngaSakimori
- 2395
- 0
- 0
- 1
「お前……結構うまいな……」 「そうですか?」 ヘルメットを脱いだティックの表情には汗一つない。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:24:08ライディングウェアの常として、地味めなデザインで固められたジャケットもパンツも、要所要所にプロテクターが入っていることに志智は初めて気づく。 (どうにもこなれてると思ったら……意外に本格的というか) 対して、志智の髪の毛はぐっしょりとぬれている。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:24:26「お兄さんすごい汗ですね。体調でも悪いんですか?」 「い、いや、お前がいつ転けたりしないかと冷や汗がな……。 まさかあんなに走るとは思わなかったぜ」 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:24:38「アメリカにいた頃は、姉さんと一緒にモトクロスをやっていたんです。 あと、家の近くに山とかダートがあって……よく走り回っていたんですよ」 「そ、そうか。いつ頃からなんだ」 「えっと、僕がはじめたのは、姉さんが10歳の時だから……8歳の時ですね」 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:25:44「……それからずっとか?」 「ええ。趣味レベルですけど、たまにキッズレースに出たりもしました」 「………………そうか」 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:25:54その時、三鳥栖志智はなぜこのモーターサイクルなどに全く縁がなさそうな少年が、自分よりよほどマシンの種別やカスタムに詳しいのか、ようやく納得できた。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:26:09「あ、あのっ、もしかして高得点ですか?」 「何がだ?」 「僕っ、いま言ったみたいにバイクの経験は結構あるんです。8年くらい! これってお義兄さん的には高得点ですよね!? 千歳ちゃんと清く正しいおつきあいをするのに、十分な━━」 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:26:27「お・ま・え・みたいな、バイクに染まりまくった男にそんなことを許すかあああああああああああああああ!!」 「いひぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!! お、お兄さん、骨っ……頭の骨がきしんで大変なことにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:26:40ティックが頭の痛みを感じなくなるまで休憩すると、都民の森を出て、大多磨周遊道路を片道一本。 まだ約束の時間には余裕がある。もっと、夕方を待たなくても、思いのほか交通量はすくなく、勝負に支障はなさそうだった。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:27:09「あれ」 「ごきげんよう、志智」 小河内湖側へ出て、川野駐車場へ到着すると、そこにいたのは何かをやり遂げたような顔の亞璃須(ありす)と、ぐったりとうなだれている男達の集団だった。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:27:31「何があったんだ……ツナギ着てるところ見ると、走ってたのか」 「選別を済ませておきましたわ」 「……選別?」 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:27:41「4ミニと一口にいっても、それを速く走らせることのできる技量を持っている者は、決して多くありません。 志智と競い合う資格のない方は、そもそも走るべきではありませんから」 「よくわからないが、そんなことを頼んだ覚えはないぞ」 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:27:50半眼の志智が男達の集団へ視線をうつすと、どうやら彼らは先週も来ていた4ミニの乗り手達らしかった。 誰もが「こんなはずじゃなかった」とでも言うように、プライドを打ち砕かれたような顔で、うなだれている。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:28:02そして、その集団から少し離れた場所に、引きつった顔で立っている男が二人。 小太りのメガネと、痩身の男━━原牧と細木である。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:28:14「……亞璃須、お前何やったんだ?」 「ですから選別ですわ。 まあ、この方達なりに練習のつもりだったのでしょうね。 朝から走り込んでいらしたので、後ろから煽りに煽ったり、ブレーキングでインをついたり、いろいろと」 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:28:27「お前なあ……」 「もちろん、志智の獲物であるそこの二人には手を出していませんわよ」 にっこりと笑って、亞璃須は原牧と細木を指さした。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:29:00その瞬間、金髪ツインテールの少女に対して、びくりと体を震わせる男二人。 なんとも情けない構図だが、亞璃須がやったのはそれほどの事なのだろう。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:29:11(そりゃまあ、こいつが本気でいじめにかかったら、手がつけられないだろうけどさ) 自分がつけようとしていた落とし前を、横からかすめとられたような気がして、志智としては面白くない。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:29:20「まあ、いいや。原牧『さん』に細木『さん』。 時間は少し早いけど、準備はいいか?」 「おっ……おおおっ、おおああああ! や、やってやるからなっ! お前なっ! お前なんか、大型でもねーマシンなんざ、怖くもっ……怖くもなっ……えと、お前なんてーんだっけ?」 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:29:46「三鳥栖志智(みとす しち)だ。別に覚えなくてもいいよ。 こっちは日原院(にっぱらいん)ティック」 「えっ、え? 僕……ですか?」 自分を紹介されたことが予想外だったように、志智は辺りをみまわすと、最終的に姉へ視線をむけた。 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:30:07「ね、姉さぁーん」 「当たり前のことですわ。 これは確かに志智の勝負ですけど、あなたも日原院の男なら、自分のバイクを馬鹿にされて引き下がるようなことは……ありませんわよね?」 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:30:20「そ、そんな……僕、公道でレースなんてしたことないよっ……」 「かるーくちぎってあげればいいんです。 言っておきますが、志智以外に負けたら、明日の朝まで食事抜きですわよ」 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:30:31「ひ、ひどいよー!!」 「言い訳は認めません。スタート時間はケータイで連絡するように」 「ね、姉さん……ううう」 #mor_cy_dar
2013-06-30 10:30:38