第一回大罪大戦《負-2の狭間》【戦闘フェーズ02】
- sinlite_ohari
- 1782
- 0
- 0
- 0
少女の手に、剣の柄が握られる。 開き向けた手は、握らない。 切っ先が、少女の胸に向く。 言葉を投げかける口は、開かない。 少女の言葉が、届く。 男は唯、その姿を見ている。 ――そこで止まるのかと。モノクロの『怠惰』が、問いかける。 『その程度』で、止まるのかと。
2013-07-01 23:42:50噴き出した血は、紅かった。白く色を失った髪を斑に染めながら、私は地に墜ちる。 「叶うなら、せめて」 最期の念願(ねがい)。 「未来に残るものが、満ち足りて、しあわせでありますように」
2013-07-01 23:52:47「…………何だ」 手を握り、力を行使する。墜ちてくるその身を、受け止める。 色が、戻る。声に力は、ない。 続けて言った言葉は、掠れるように。 ……耐えられないんじゃないか、お前。
2013-07-02 00:57:40無言。沈黙。 ただそれだけをもって、女は墜ちるそれを見やった。片手を振るう。展開した金が全て、音もなく戻ってきて、元通りに地に女を縛り付ける。 それが、それの自らの手によって引き起こされたのであれば。先の女の言葉が、無意味になったのであれば。 最早『黒』の手の出す領域ではない。
2013-07-02 05:33:30――『憤怒』の識る強欲ではなかった。だからそれを見たかった。 ――『憤怒』の識る、王ではなかった。それは今まさに理解った事。 だから言っただろうに。「優しくなどない」と。唯一差し出したものを取らず揺れ自滅したのは当人だから、もう領分ではない。 感傷も感情もない。ただ、緩い疲労。
2013-07-02 05:56:47『グリード』の名を呼ばれさえしなければ、あるいは『グリード』が、『シン』に気付くのがもう少し遅ければ、結果は大きく違ったのだろう。 少女は、世界に、座に望まれ、無限の可能性を与えられた。ただ少女は、その強大な力や壮大な願いを抱え込むのに、どうしようもなく弱い心しか持たなかった。→
2013-07-02 07:29:58彼女は紅だ。彼女は紅だった。紅は彼女の持つすべてだった。そのひとつが自ら、壊せと言った。それを成すことができる心なら、『シン』は『持たざるもの』になど成らなかった。『シン』は彼女自身だった。そうであると既に気づいていた。だから彼女はそこへ逃げこむことができなかった。そうして潰えた
2013-07-02 07:30:07ここに居たのが彼以外だったなら、結果は違ったのかもしれない。彼女が望みを果たす以上、彼とは敵対せねばならなかったのだから。 ……いずれにせよ、結果はここに、こうしてある。 力ない身体を、地へと降ろす。万が一にも生の気配があるなら処置はするだろうが、もう戦えまい。→
2013-07-02 08:31:02様々な要因が、少女の心を締め付け、砕いた。 願いがあった、力があった。ただ、願いを叶えることが辛すぎたのか。 分からない。理解できない。 もしかすると、他の道もあったのかもしれないとは、思うけれど。 その結果に、背を向ける。残ったのは、力なく沈黙する女一人。
2013-07-02 08:31:09息をついた。不意に灰色の空を見上げるが、それにも、『狭間』の空間にも、揺らぎはない。なくとも扉は開くのだろうか。そう思いながら、自分の他には唯一、未だに立つ男へと目を向けた。 「……で、どうする?」 端的に、問う。こちらはもう終わってしまった。そちらはどうするのかと、言外に込め。
2013-07-02 10:55:20「……あ?」 どうする、どうすると聞かれたか。 元々違う陣営同士だ、本来ならば、戦うのが当然だろうが。……今は殺意はなく、やる気も随分と削がれてしまっている。→
2013-07-02 15:02:48ふと、倒れた少女に目をやり、少し考えて。 「……そうだな、決めていいよ。合わせてやる」 戦うも殺し合うも、帰るも良し。暫く会話を挟むのもいいだろう。 ……不意討ちすら成立しそうな程に、今の彼は気が抜けているらしい。
2013-07-02 15:05:04「……そう」 怠惰の返答に、女は吐息と同等の声を漏らす。今なら『奪』れるが――その気は湧かない。 どうするか。問うた問を返されると弱い。僅かの間思考し、倒れたそれを見やって、そして足を踏み出した。 「じゃ、手伝って」 金を溶かす。掌の上で形作る。薬にも使うから、よく覚えている――
2013-07-02 15:19:36「はァ?」 意味が分からない、というような声。だが女が見遣った先と、そして金が形作るものを見て表情を変える。成る程、合点が行った。 あいよ、という軽い返事と共に、動き出す――頭の何処かに、妙な感覚を覚えながら。
2013-07-02 15:58:16女は振り向きもせず、『少女』の傍らに膝をついた。貫いた鉄の柄を無造作に掴む。少し力を込めて意識を凝らせば、『無』に耐えきれなくなったそれはまるで元から無かったかのように、形をなくして解けていった。 創り上げた金色のそれは一旦膝に、紅が至近に来れば、抱えてあげてと、短く言うだろう。
2013-07-03 03:09:17動きは淀みなく、女の傍へと。言葉に従い、少女を抱え上げる。眠っている者に対するそれのように、丁寧に。 そして次に移る前に、飛び散った紅を優しく拭い取った。
2013-07-03 03:38:28女は指先で、紅に染まった白い髪に触れた。そのまま丁寧に梳って、少しずつ、編み込みを施していく。 「……連れて帰る?」 短く、やはり端的に、彼女を抱えた彼に問いかける。手は止まらないが、ゆっくりとしていた。視線には感情の乗らないまま、ちらと『怠惰』を見やった。
2013-07-03 21:00:06丁寧に、確実に。しかし緩やかに進む指先の作業を、何を思うこともなしに見つめる。その耳に届く、短い問いかけ。 『グリード』は、紅だと言った。 ……連れて帰れば喜ぶだろうが、同時に苦しむだろう。置いて行けば悲しむだろうが、ほっとするかもしれない。→
2013-07-03 22:04:24青い瞳が、少女の顔を見つめている。……イラの視線に映る怠惰は、無表情で。しかし何処か、困惑したように見えたかもしれない。 どうするのが良いのか分からない。元々人間ではないからか。こんな形で、罪の死に様を見たことがないからか。 「……こいつは、どうしたいんだろうな」
2013-07-03 22:12:53紅のその言葉には、女も何度目か少女を見やる。動かない、眼を開かない、呼気もない、暖かみも次第に失われていく。 ——罪の死を間近に見たのは、これで二度目だ。 一度目は自分が手を下した。割れた世界のこちら側にいた、先代の『憤怒』。あの時には、ただ衝動に任せて、『消』してしまったが。
2013-07-03 23:00:06いや、と勝手に否定が転がる。 何が違う。そう、思考が吐き棄てた。反響するように響くそれを聴きながら、編み終えたそれを金糸で留めて。 そうしてから、ようやく膝の上の『それ』を持ち上げた。六の花弁をいっぱいに広げた、大輪の花が三つ。その中の一つだけが、その中心に蒼い宝石を備えていた。
2013-07-03 23:00:07——己は『紅』だと、そう言っていた。紅の強欲であると、それを失う事を拒んだからこそ、黒の皆が敵意を抱いた。 ——己は『紅』だと、そう言っていた。なのに黒にも虚にも、紅にも、敵であるとして在れなかったからこそ、剣に身を任せた……その真は、もう分からないけれど。 ただ、手を伸ばした。
2013-07-03 23:00:08そうして三つの『百合』を、赤に染まった白の中に飾る。女は、この強欲を表すものも、罪そのものを具象するものも、識らない。わかるのは、自らが聞いた事だけだ。だから。 「……帰る場所は、『黒』ではないでしょう。黒い花はすぐ褪せる」 怠惰に向かって、そう言った。紅は褪せず白は汚れず――
2013-07-03 23:00:10——それで良いのかは、分からないけれど。その答えを求めても解はない、そんな事は分かりきっている。 だから、分かりきっている事を。明白で、明快で、何より『無我(わたし)』には、容易い事。 「……自分に出来ない事を、他人に求めるほど、馬鹿じゃないわ、あたしは」 少女に呟いて、そして。
2013-07-03 23:00:11「応えようとした、その意思は受け取った。だからそれに報いるわ」 手を離す。女の身を『飾り立(しばりつけ)』ていた金が全て失せている事に、紅の彼は気付いただろうか。 「……『無我の憤怒(Ira)』の『世界』を、『百合(リリヤ)』に」
2013-07-03 23:00:12