#8 「ライトニング・マイ・パワー・トゥー・ビー・ボールド」(下)

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Astal_jukebox @astral_jukebox

『へぇ恐ろしいもんすなぁ』 ……が。 当のホワイトは、テレビの向こうの戦時虐殺でも観るような気軽さと他人事さ無責任さで敵の挑発をてきとーに受け流していた。 今日の彼にとっては七橋裕岐のデートの成否が全てであり、それ以外は全てどーでもいー些事に過ぎなかったのだ。

2013-07-04 21:00:35
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2013-07-04 21:01:03
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19:40。エバーランド内観覧車序盤部。 「ほら、裕岐さん!あそこどうです?夜景綺麗ですよ!」 「そうだな。海のほうは…この高さじゃまだ見えないか」 上がり始めの観覧車。時計の針で言えば「4」付近。 遊園地の規模にしては珍しい2~4人乗りの観覧車。その中に今は二人切り。

2013-07-04 21:22:20
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地上高130m程で、これも少人数向けらしからぬ高さ。遊園地や海の夜景をカップルや家族だけで楽しむには最適である。 エバーランドとその周辺こそ活性化しているが、東京や千葉、或いは県内で言えば水戸などと違い、少し離れると街の規模は小さい。 つまり、街明かりも弱く…

2013-07-04 21:26:43
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「ほら、見てみろよ梢」 裕岐が天を見上げる。高度はまだまだだが、それでも星がはっきりと見える。 裕岐の住む住宅街も夜空が綺麗な方ではあるが、ここは今の時点でそれと遜色が少ない。 ましてや開発中とはいえ充分都会である、梢の新渡町よりは良い眺めの筈だ。

2013-07-04 21:36:25
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ゴンドラも空を見やすいよう配慮されたデザインで、美しい月が良く見える。 「そう…ですね」 静かな声で少女はそう言った。 微かに震えているように見えた、その手を裕岐は握ってみた。 「えっ」 驚いた表情を見せるが、裕岐の驚きはそれ以上だった。 梢の体が強張っていた。

2013-07-04 21:40:17
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「どうしたんだ…?高所恐怖症…でもないよな…?」 午前中に回った展望台は現段階以上の高さだったが何とも無かった。 先の高さを想像し早くも怯えだした、にしてもおかしい。今まで下を見てはしゃいでいた。高所恐怖症なら下など見られない筈だ。 むしろ…。 「夜空が…怖いのか?」

2013-07-04 21:46:51
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「いいえ。違います」 裕岐に握られたままの左手を右手で掴む。 「夜空は怖くありません…むしろ好きなんです。ですけど…」 視線を逸らす。 「当てて…みようか?」 繋いだままの手で軽く梢の体を引く。 正面を向かせる。 視線が合う。

2013-07-04 21:50:32
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19:55。新渡町『ネスト』内。 襲い来る五匹の蝙蝠。 ホワイトは三匹を叩き落とすが二匹に噛み付かれ、切り裂かれる。 膝蹴りと片手握撃でそれを潰す。 絡みつく糸に足を取られて転ぶ。 全身を巻かれる前に両手掌底と頭突き、下脚全面による蹴りの同時使用で大きく跳び退く。

2013-07-04 22:01:22
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跳んだ先に六匹の蝙蝠。回し蹴りで一掃を試みるが、姿勢が崩れ二匹取り逃し噛み付かれる。引き剥がそうとしたところで蜘蛛の巣弾が肩を掠め、星弾も飛来する。 体を捻って当たりに行き、その威力で肉を食む蝙蝠を粉砕する。骨肉諸共に。 追撃の弾幕を避けるべく、星弾を蹴る。 右脚も折れた。

2013-07-04 22:07:19
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―約30分間。 半減したスペックで。 全方位からの間断ない、倍加された攻撃。 これを不安定な上に拘束能力もある足場で避け続けてきた。 体は既に無傷の面積の方が少なく、アバラは折れている方が多い。 四肢もほぼ折れ砕け、右腕だけが唯一折れずにヒビだけで済んでいる。

2013-07-04 22:14:59
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この状態でも地上での1対1なら彼等を余裕で軽く殺す自信は十二分にあった。 だがこれ以上は。 『あと一息で、間違いなく死ぬな』 「観念したか?ホワイト…だが許さんぞこの外道め」 右手だけで蝙蝠の背を飛び回るホワイト。 スターチェインバーがそれを忌々しげに見上げる。

2013-07-04 22:17:50
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『と言う訳で。そろそろ反撃してもいいですかいいですね◇しよう』 言うや否やホワイトが思わぬ行動に出た。 これまでに無い勢いで手近な蝙蝠を殴りつける。 骨が粉砕する音が聞こえた。更に折れた両手で次々に手近な蝙蝠や糸を殴り加速し…チェインバーの喉元目掛けて飛びかかった。

2013-07-04 22:22:17
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砕けかけのフェイスガードの開閉機構を働かせ、口を解放する。ガードは完全に砕けた。 「チィッ!」 後方に飛び退き噛み付きを躱す。ホワイトはその勢いで糸に突き刺さり、動かなくなった。 「今だ!!」 「おおっ!」 師が指示するより早くビッグネストが全力で締め上げにかかった。

2013-07-04 22:31:21
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彼等はこの30分、獲物を甚振っていた訳ではなく、増して時間を稼いでいた訳でも手加減していた訳でも無い。全力で殺そうとしていてこれだった。 それをようやく捉えたのだ。二度と逃がさぬよう抑え込むのは当然のことだった。 程なく簀巻きが出来上がり、穴から出された。

2013-07-04 22:38:23
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簀巻きは敢えてあちこちに隙間が空けてある。 糸には拘束力がある反面、鎧の役割も果たしてしまうからだ。 その隙間に全ての蝙蝠が食らいつき、肉を裂き骨を割り、血を啜る。 「良いザマだなァ…ホワイトォ!」

2013-07-04 22:40:39
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「家族の仇だぁっ!」 「食らい殺せぇっ!」 怨嗟を叫ぶ三人。最早勝利を疑っていない。 ので頃合と判断された。 『ヒールユニオン…アンリミテッド!』 合成音が固有術式の発動を告げる。 バキ、ボキと骨の砕ける音… ……違う。 接ぎ合わされる音だ。

2013-07-04 22:48:22
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アクセルハートには段階がある。 ローは戦闘中効果を体感できるうちの最弱 ミドルは標準にして同格の敵に優位 ハイは同格の敵を圧倒し、一段格上に善戦 アルティメットは一段格上と互角で二段上に善戦 そしてアンリミテッドは…無限。正確には無制限。

2013-07-04 22:52:49
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自動車で言えばそれまで制限速度を守ったアクセルの踏み方だったのが、アンリミテッドは限界まで踏み続ける状態である。 一般の自動車も、メーターが示唆している様に時速180キロなども出せる。 法律問題を別として、運転者が何故出さないかと言えば…早い代わりに危険だからだ。

2013-07-04 23:00:59
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ヒールアクセルは自然治癒力を強め傷を塞ぐ。応用版のヒールブーストは『治癒の概念』自体を発展強化し、本来再生出来ない臓器や手足の欠損も治す。ユニオンは両者併用である。 それを無制限使用することで重傷が瞬く前に癒える。 代償は重い。傷を負った時の数倍以上の痛みが生じる。

2013-07-04 23:10:37
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簀巻きの隙間と魔力流から再生の気配を三人も悟っていた。 「早く!食い殺せ!」 ビーストコーラーが蝙蝠達に供給する魔力量を増やし、ビッグネストは締め付けを強める。 スターチェインバーは魔力弾を放つ。 だが噛み付く牙は粉砕され糸は引き千切れ、弾も弾かれた。

2013-07-04 23:17:18
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「何だと!?」 過剰な再生力による膨圧。それが今の現象の正体だった。 有り余る再生力が傷を治し切ってもなお止まらずに行き場を探していたのだ。 今のホワイトは掠り傷一つすら全力で自動全快する体となっている。 その分体力魔力生命力の消耗も激しいが、すぐには止められない。

2013-07-04 23:28:54
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これも踏み切った車のアクセル同様だが、今はスターチェインバーの『アービトラリー・ジャッジメント』の効果により抑えられており大分マシと言える。皮肉にもアンリミテッドの使用に躊躇しなかった理由の一つでもある。

2013-07-04 23:31:23
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『フーッ』素の呼吸音を打ち消すように合成音の音量を上げる。 鬱陶しげに糸くずや死骸を振り落としながら、合間に軽く魔力弾を弾く。 その間にもアンリミテッドにブレーキを掛けて加減をする。 「貴様……今まで…!手加減していたとでも言うのか!?」

2013-07-04 23:32:40
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