第五十八話:怪奇現象 第五十九話:人形の恋 第六十話:再会
- C_N_nyanko
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「やぁ」 見知らぬ男たちに声をかけられた。 「誰だ、あんたたち」 剣呑にもなる。いつも見知らぬ人に声をかけるのは僕の方、かけられるのなんて滅多にないことだ。 「君の家の話を、ちょいと小耳に挟んでね」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 13:25:45先頭の男はメガネをくいとあげた。 「面白いところに住んでるそうじゃないか」 思わずげんなりした。言わんとすることはわかるが、はぐらかしたほうが身のためだ。 「一階が美容院ってそんなに珍しい?」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 13:25:57さっさと切り上げて、その場を退散しようとする。その肩を、しつこく掴まれた。 「我々、こういう者で」 渡された名刺は、オカルト研究会のもの。 「……」 僕は大きく息をついた。一体どこから入った情報なんだろう。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 13:27:17「我々の要求は二つ、一、部屋の鍵を貸すこと、二、一晩の滞在を許可してくれること、以上だ」 「ふざけんな」 何が悲しくて野郎三人、しかも見ず知らずの連中を招き入れなくてはならないのか。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 13:27:26「初対面の人間なんか泊められないよ。部屋から箸の一膳でも無くなってみろ、夢枕にロクでもないもの立つぞ」 しかし連中は笑って取り合わない。十分ぐらい押し問答になったが、連中、こっちの話を聞く気なんて毛頭ないんだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 13:28:15それで、僕も腹をくくった。 いいよ、見せつけてやろうじゃないか。せいぜい腰でも抜かして帰れ。 そういうわけで、夜の10時にうちに来るよう託けて一時帰宅した。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 13:28:25そこからが多忙しさ。 部屋の電球を外したり、濡れこんにゃくを用意したり、不気味なBGMをダウンロードしたり。自宅をお化け屋敷に改造してやった。 随分暇人じみた行為だったが、妙にワクワクしていたのも確かだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 13:29:20で、約束の時間になった。 門前で追い返してやる気だったから、僕は部屋を出て廊下の死角で連中を待ち構えた。エレベーターが上がってきて、誰かが出てくる。BGMを入れた。廊下の薄暗い照明も相まって、雰囲気満点だ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 13:30:39と、その時。 ぶちん、と音がして、廊下の証明が全て落ちた。停電か? と思ったけれど、これは却って好都合だ。闇に紛れて濡れこんにゃくの仕掛けを動かすと、ひゃっと声が上がった。成功したらしい。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 13:31:14帰ろう、と喚く声がする。誰かが腰を抜かして倒れ込む音がした。エレベーターに這い戻って、ボタンを叩く気配がする。やがて、チーン、と音がして、エレベーターが去る気配があった。 やれやれ、うまくいったらしい。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 13:31:57僕はほっと一息ついて、自分の部屋の扉をガチャりとあけ、ふと視線を感じて振り向いた。 心臓が止まるかと思った。真っ黒い闇の中に、人の目玉が二つ、ぽん、と浮いてこちらをじっと見ていたんだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 13:32:28チェシャ猫みたいに遅れて口が現れて、にぃ、と笑ってね。気がついたら、絶叫していた。 それからどうやって自分の部屋に戻ったのかよく覚えてない。気がついたら夜が明けていたんだ。 まったく、愛すべき我が家だよ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 13:33:00「いやー、それにしてもいい髪してますよねぇ」 僕の頭をわしゃわしゃ乾かしながら、彼は感嘆した。 「どうやって手入れしてるんです?」 「一番安いシャンプーしか使ってないですよ」 言うと、マジですか、と驚かれた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 16:50:00「じゃ、生まれつきなんですね」 彼は鏡を開いて僕の後頭部を写して見せた。 「どうです?」 「いいですよ。文句なしです」 僕はひょいと席を立った。カットモデルということで、今回の料金は請求しないのだという。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 16:50:36「また協力願いますねー」 彼はにこりと笑って、そういえば、と付け加えた。 「ちょっとした話なんですけどね、相談というか、なんというか」 「何ですか?」 彼はスタンプカードに記入しながら、何気ない調子で話した。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 16:50:46「呪いの日本人形って、あるじゃないですか」 「見たことはないですけど、話ならよく聞きますね」 「あれが欲しいって、友人が言うんですよ」 「へぇ」 一風変わった、奇妙な話だ。 「で、それがどうしたんです?」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 16:51:11君は声を潜めた。 「前に、金髪のドール譲っていただいたことありますよね」 僕が譲ったというより、君が僕から彼に目移りしたと言うほうが正しい。君が彼のもとに行きたいとせがむから、プレゼントの形で引き渡したのだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 16:52:21「あれと同じものをもう一体手に入れることって可能ですか?」 「さぁ。難しいと思いますよ」 「そうですか」 彼は肩を落とした。 「あの子も髪が伸びるから、もしかしたらと思ったんですが」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 16:52:44髪が伸びるどころの騒ぎじゃない。君は歌って踊るドールだ。そうそう手に入る存在ではない。 「何か情報が入ったらお知らせしますよ」 そんなことあるはずないと思ったが、僕は気休めを言って、店をあとにした。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 16:53:26その日、君が僕の部屋のベランダに現れた。 「お兄さん」 相変わらず綺麗な人形だなと思いながら、ガラス戸を開けて迎え入れる。 「どうしたの、お帰り」 ほら、と手を差し伸べると、君は僕に抱きつき、静かに涙した。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-11 00:32:59「……私を愛せませんか?」 突然の問いに、僕は面食らった。答える代わりに背中を撫でてやる。人の温もりはないけれど、柔らかい背中だった。 「私は人形だから、所詮人形だから、だから、人と同じようには愛せませんか?」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-11 00:36:36「……わからない」 だけど、と、僕は告げる。 「君が出ていくと言ったとき、僕は悲しかったよ」 告げると、君は堰を切ったように声を上げて泣いた。 「それならどうして、引き留めてくれなかったんですか」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-11 00:36:55