第三十七話:雨のち虹 第三十八話:この円まで 第三十九話:母の味

角川Twitter小説コンテストにて執筆中の『チョッとした話』を読みやすいようまとめてみました。読了後面白いと感じてくださったら章タイトルや本文のファボやRTなどいただけるとありがたいです。 以下のURLからもどうぞ。http://commucom.jp/t/fo9FMO
0
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 今日は随分ひどい土砂降りだった。ツイてることに大学の授業を入れていなかったから、僕は雨を横目に一日中家で本を読んでいた。  気に入りの推理小説の続編が出たから、いい機会だと思ってね。晴耕雨読と洒落こんだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-28 23:03:27
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 どのぐらい時間が経っただろう。ベランダから空を眺めると、いつの間にか晴れていた。夕焼けが眩しい。いい天気だなと思ってベランダに出たところで、僕は、何かを踏んづけた。 「むぎゅっ!」  そいつは奇妙な声を上げた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-28 23:04:39
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 足をどけて、つまみあげる。  そいつは、一言で言うならスライムだった。体の中心に、虹色に輝くガラス玉がある。 「なんだお前」  呆気にとられて聞くと、そいつはぐにゅりと曲がった。多分頭を下げたつもりなのだろう。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-28 23:05:22
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

「いえね、このベランダでウトウトしてたら帰りそこねちゃいまして」  口もないのによく喋る。 「お前がここにいる経緯を訊いてるんじゃない。僕はお前の正体を訊いてるんだ」  するとそいつは、さっきと反対側に曲がった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-28 23:06:03
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

「さぁて、正体なんて考えたことないですねぇ。あたしはあたし。生まれて死ぬまであたしだ。他には説明できませんや」  すいませんねぇと詫びられて、僕は毒気を抜かれた。 「じゃあほら、帰るといいよ。そろそろ一雨くるぜ」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-28 23:06:55
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 言って、遠くの空を指差す。 「はぁ、どうも」  そいつは曖昧な返事をした。かと思うと、いきなり体の中心のガラス玉を光らせた。 「わっ」  目がくらんだ。  気がつくと、僕の部屋から虹が伸びていた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-28 23:07:10
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 なるほど、あいつは虹の素だったのだ。自分の部屋から虹が伸びるなんて、なんてロマンチックなんだろう。  初めはそう思ったが、少し経ってみると眩しくて仕方がない。  僕はやれやれとため息をついてカーテンを引いた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-28 23:08:41
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 そうしてまた、読書に戻った。  外はまたしとしとと雨が降り始めている。  予報では、明日もまた雨ということだった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-28 23:09:37
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 僕がまだ、小さかった頃の話になる。園児だった頃だか、小学校低学年だった頃だかは覚えてないんだけれど。  いつも、公園に一人の男の子がいた。  その子の周りに白線が引いてあって、その子はいつも円の中心だった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-28 23:34:32
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

「ねぇ」  僕は円の外から話しかけた。 「遊ぼうよ」  誰もいないのがつまらなくて、僕は遊び相手を求めていたのだ。  けれどその子は頑なに首を振った。 「このえんまで、ぼくのじんちなの。そこからはいっちゃダメ」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-28 23:35:00
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

「だけどそれじゃ遊べないよ」 「だから、あそばないの」  その子はいつも寂しそうだった。それがどうにも気にかかっていたのだ。  だから、断られると分かっていても、僕は毎日声をかけた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-28 23:35:21
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

「ねぇ、遊ぼうよ」 「だめ」 「遊ぼう」 「だめ」 「遊ぼ」 「だめ」  そんなことを何日続けただろうか。  ある日僕は、珍しく兄とふたりで公園に遊びに来た。年の離れた兄は、めったに僕と遊んでくれなかったのだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-28 23:35:36
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 その子はいつもどおり円の中心にいた。 「ねぇ、遊ぼう」  僕はいつもどおりその子に声をかけた。途端、兄が血相を変えた。 「来い!」  兄はひどく乱暴に僕の手を掴んで、公園から引きずり出した。 「何するのさ!」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-28 23:36:12
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 怒鳴ると、兄は突然、僕をギュッと抱きしめた。 「どこもおかしくないな? 変なものが見えたりはしないな?」 「え?」  訳が分からずキョトンとしていると、兄はそのまま僕を担ぎ上げて家へ帰った。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-28 23:36:31
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 ふと目をやると、あの子が寂しそうに、けれどホッとしたように笑って、僕に手を振っていた。  翌日、あの子のいた円はなくなった。  あとで知ったことなのだけれど、そこは子どもがよく神隠しに遭う場所だったらしい。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-28 23:37:09
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 あの子は神隠しに遭った子どもの思念だったのか、それとも僕が直感的に危機を感じて見た幻だったのか。  今でも綺麗な円を見ると、あの子のことを思い出す。  そして、助けてくれてありがとう、と、手を合わせるのだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-28 23:37:16
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 僕は君の家で夕飯をいただいていた。 「今夜はカレーなの」  君は柔らかく微笑んで、トレーに水とカレーライスを載せて運んできてくれる。 「ありがとう。いただきます」  僕は両手を揃えて頭を下げた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-29 01:14:30
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 心はひどく平穏だった。  何日もこうやって過ごしているような気がする。反面で、まだついさっきここに来たばかりのような気もする。 「ねぇ君」  僕は君に声をかけた。 「君はどうして、こんなに優しくしてくれるの」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-29 01:15:03
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 君は少しはにかんだ。 「だって、あなた傷ついていたもの」 「そうだったっけ」  何のことだかよくわからない。 「あなたが寂しそうだったから、私見ていられなくて。ついおせっかいを焼いてしまうのね」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-29 01:15:28
さく@今日も生きる @C_N_nyanko

 いけない癖ね、と君は苦笑する。 「でもありがとう。救われてる気がするよ」  僕はカレーを口にした。林檎が入っていて甘い。ルーは自分で香辛料を調整して作っているのだと言っていた。ナッツが香ばしくて、食欲をそそる。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説

2013-05-29 01:16:49