第三十七話:雨のち虹 第三十八話:この円まで 第三十九話:母の味
- C_N_nyanko
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「おかわりあるかな」 「ええ」 君は嬉しそうに笑った。 「一人暮らし、大変でしょう?」 「はじめはね。今は慣れたよ」 「苦労も多かった?」 「言うほどじゃないかな」 それを聞いて、君は安堵の笑みを見せた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-29 01:18:23その時、どこかで携帯が鳴った気がした。ポケットをまさぐってみるけれど、見つからない。 「君、携帯が鳴ってるよ」 君は首をかしげた。 「うちには固定電話しかないわ」 「だけど」 僕は周囲を見渡す。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-29 01:18:36ひょいと机の下を覗き込むと玩具のトランシーバーがあった。 懐かしい。昔兄さんとよくこれで遊んだものだ。 「これだよ、これが鳴ってたんだ」 ほら、と見せると、君は少し悲しげに、それでも無理するように微笑んだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-29 01:20:05「元気でね。またいらっしゃい」 「え?」 突然の話で、なんのことだかわからない。 「おい」 トランシーバーから、聞き覚えのある声がした。 「お前、今どこにいる?」 君のことが気になりながらも、僕は応対する。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-29 01:20:22「僕、僕は今……」 けれど、答えられなかった。 「ほら、オカエリナサイ」 君は僕の手を引いて玄関へ連れて行った。 「また、寂しくなったらおいで」 促されるままに靴を履いて、家を出る。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-29 01:20:43夕焼けの空に家は歪んで、やがて霞のように消えた。気がつくと僕は、携帯を握りしめて電柱のそばに立っていた。家も、君もいない。 だけど癒された気がした。心は暖かかった。 と。 「ここか」 肩をぽんと掴まれた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-29 01:21:55「探したんだぞ、馬鹿野郎」 振り向いて、僕は驚きに目を見張る。 「兄さん……!」 数年ぶりの再会だ。 「どうしてここに?」 「虫の知らせだ。お袋の遺影が泣いてやがった」 「そんな馬鹿な」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-29 01:22:13「まぁ理屈はどうでもいい。一晩泊めさせてもらうぞ」 そう言って、兄さんはぶらりと先を歩く。 「待ってよ」 追いついて隣を歩き、途中ではっと思い出した。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-29 01:22:37あのカレーの味は、母さんのものだ。あの黒い着物も、優しい笑顔も。 そしてあの家は、もう取り壊されてなくなった、かつての我が家だった。 「そうか」 僕はつぶやいた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-29 01:22:49「あの君は、母さんだったんだ」 その言葉に。 兄は小さく頷いた。 そういう訳で、僕は今、兄といる。 ほら、丁度。 兄と並んで母さんに手を合わせたところ。 守ってくれて、助けてくれて、ありがとう。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
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