第二十八話:かえるのうた 第二十九話 第三十話:猫の恋夢
- C_N_nyanko
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大学で飲み会があって、その二次会でカラオケに行くことになった。僕は別段歌が上手いわけじゃないんだけど、なんとなく離れがたい雰囲気に流されて同行することにしてね。流行りの歌も人並みには歌えるし。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-26 00:18:11それで同行した連中の中に、とある奴がいた。普段は抜群に歌が上手いんだが、今夜はどうも調子が悪い。 歌いもせずに、げ、げ、げ、と嫌な声を出し続けてケタケタ笑っている。みんな不気味に感じたんだけれど、 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-26 00:18:32「酒の飲み過ぎなんじゃない?」 って冗談めかして気づかないふりをしようとした。だけどやっぱり、様子がおかしい。 「トイレ行こう、吐いたら楽になるかも」 見かねた僕はそいつを連れ出して、ふと項に目をやった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-26 00:18:42服の襟が妙に盛り上がっている。 「ここ何か入れてる?」 訊ねてぽんと叩くと、むにゅりと嫌な感触。 驚いて襟を引っ張ると、そいつの首の後ろに黒い塊がついているのが見えた。塊は、ぐぇ、と不気味な声で鳴いた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-26 00:19:09巨大なカエルだ。 「うわっ!」 僕は驚いて手を離した。その拍子に手元が狂って、そいつの背を思い切り叩いてしまった。ぴしゃ、と嫌な音がして、塊が潰れた。 それでも、出血するでも体液が流れ出る様子はない。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-26 00:19:47恐る恐る襟を引っ張って覗いてみると、もう何もいなかった。 「うぅん……」 そいつは少しうめいて頭を振って、僕を見た。 「ん、どうかしたのか?」 訊かれて、僕はいや、と頭を振った。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-26 00:19:58誰もが絶賛するような歌声に、カエルが憧れたのか。それともたまたまとり憑かれただけなのか。 真相はさておこう。 田でカエルが鳴くのを思い出して、僕は無性に家へ帰りたくなったのだから。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-26 00:20:03『またね』 そう言って、電話は切れた。私はがちゃりと受話器を置く。 「ちょっと出かけるね」 母さんにそう告げて家を出た。外はすっかり暗い。 家から少し歩いた先の公園に、その男はいた。頭を抱えて震えている。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-26 14:54:39「あの」 声をかけると、血走った目で睨みつけられた。 「こっちに来るんじゃねぇ!」 明らかに正気でない。 「あの……少しお話したいことがあるんです」 私は彼の前に立った。 「女性がいるんじゃないですか?」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-26 14:56:11「え?」 「そばに、女性が立ってるんじゃないですか?」 言われて、男ははっとなった。 「誰に聞いた」 「いえ、誰からも。私、分かるんです」 聞くなり、男の表情が変わった。 「助けてくれ」 男は情けなく言う。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-26 14:58:05「この女ずっと消えないんだ。つきまとってきて離れない」 「身に覚えはあるんですか?」 男は首を振った。 「知らない女なんだ。本当だ。俺に何の恨みがあって……」 私は嘆息する。 「安珍清姫の話をご存知ですか?」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-26 14:58:57「え?」 「再来の約束を破った、男の話」 男は怪訝そうな顔をした。私はそのマヌケヅラに苛立ちを覚える。 「貴方、また来るから、と伝えたんじゃないですか? そうしてそれを反故にして、忘れているんじゃないですか?」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-26 14:59:19「でも俺に覚えは……」 「じゃあ教えてやりますよ」 言うなり、私の体がめきめき音を立てた。私は巨大で凶悪な犬に化け、吠える。男は驚いて尻餅を付いた。 私の意思に関わりなく、にたり、と、顔が歪む。私は笑った。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-26 15:01:18ずるり、と、私の顔の形が変わる。くしゃりと表情を歪ませて、涙がボロボロ流れる。 「『またね』」 男ははっとなった。 「ああああ!」 みっともなく叫んで、私から逃げようと必死になった。このぐらいでいいだろう。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-26 15:03:15「思い出しました?」 男はひぃひぃ荒い呼吸を繰り返していた。言葉にすらなっていない。 「いいこと教えてあげましょうか。女の念は、男が思っているよりずっと深いんですよ」 私は元の姿に戻って、公園をあとにした。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-26 15:06:10受話器から、私に言葉が聞こえる。――耳に、入る。 一度耳から入った言葉は、私の体をめきめきと動かす。 そうして口に寄って、口から離れていく。 口寄せとはうまくいったものだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-26 15:07:14私はまた受話器を耳に当てる。 「もしもし」 そうしてまた言葉を身に入れて、誰かもとへ向かうのだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-26 15:07:23彼岸花が一面に咲いていた。君はひとりで立っていて、まっすぐに、何かを見ている。 「何かいるの?」 視線を合わせるように身をかがめた。何も見えない。 「にゃあ」 君は、僕の頭に、手袋をした手をぽんとのせた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-26 20:48:54途端、彼岸花が燃え上がった。その炎の奥に、ひとりの女性が見えた。真っ赤な着物姿で、静かにうつむいている。 「にゃあ」 君はもう一度言って、僕の頭から手を離した。幻の炎は消えて、あたりはまた一面の彼岸花だ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-26 20:49:24君は踵を返した。そして、僕を案内するように歩き出した。 向かった先は、山奥の寺だった。無人になってからもう随分経っているのだろう。どこか不気味で、それでいて物寂しい。こんな場所があるなんて、僕も知らなかった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-26 20:49:41