第六十七話:ゴミ 第六十八話:造花 第六十九話:美女の毒
- C_N_nyanko
- 901
- 0
- 0
- 0
僕にはちょっとした癖がある。いらないと思ったものはろくに見ないですぐにゴミ箱へ入れてしまうんだ。 おかげで片付けは得意なんだけど、気がついたらまずいものを捨ててしまっていたなんてことも多くてね。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-01 23:49:23先日もそんな感じで部屋を掃除していたんだ。ゴミ袋の口をきゅっと締めて、捨ててさ。それで、さっさと共同回収所に持って行って部屋に帰って仮眠を取った。 そしたら、妙な夢を見た。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-01 23:49:32ほふく前進するように、何かが近づいてくる夢。暗くてよく見えないんだけど、ずる、ずる、と、迫ってくる音はよく聞こえる。 不意に闇に真っ白い腕が浮かんだ。 腕はぞろりと伸びて、僕の部屋のチャイムを押そうとした。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-01 23:50:08僕は慌てて跳ね起きた。気分が悪いどころじゃない、全身冷や汗でぐっしょりだった。 ぴん、ぽん、と、チャイムが鳴った。 僕は息を殺した。部屋の外にいるのはろくでもないものだって、直感的に分かっていたんだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-01 23:50:18チャイムはしつこく鳴った。何度も、何度も。 一体どうやって一階のセキュリティを突破してきたんだろう、そう思い至ったら一層恐ろしくてね。 両手で口を抑えて、身じろぎ一つしなかった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-01 23:50:37やがて、ずる、ずるという音がして、ドアの前から何かの気配が失せた。 ようやくほっと息をついたよ。なんて恐ろしいやつだったんだろう。だけどもう大丈夫だ、って。 その時、背後で何かが蠢いた気配がしたんだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-01 23:50:56振り向くより早く、そいつは僕の後ろに迫ってこう囁いた。 「――どうして、捨てたの?」 悪寒が背中を駆け上がった。気がついたら悲鳴を上げていて、わけもわからないまま、ばったりと気を失ってしまったんだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-01 23:51:56目が覚めると、捨てたはずのゴミ袋が足元に転がっていた。 改めて分別すると、一枚の写真が出てきたんだ。大学に入ったばかりの頃に、どこかで撮った写真。 それを供養してもらったら、そいつはぱったり気配を消した。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-01 23:52:40以来、物を安易に捨てるのはやめたよ。いろんなところで写真を撮るのもね。 あんなに執念深く戻ってこられちゃ、こっちの気持ちがもたないだろ? 君も、気をつけたほうがいい。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-01 23:53:07「どうぞ」 駅の改札を出ると、突然真っ赤な花を手渡された。 「なんですか」 相手は知らない女性だ。新手のキャッチセールスかと、僕は若干身構える。 「あげます」 女はそう言って、にこりと笑った。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-02 00:44:59花は、どこかで見たような造花だ。 「――結構です」 僕は花を返した。意図が見えなくて不気味だし、なにより、彼女の純真すぎる笑顔が不気味だったのだ。 「そんなこと言わずに、受け取ってくださいよ」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-02 00:45:08女は食い下がる。そして、僕のシャツの胸ポケットに無理やり花をねじ込んで、いなくなった。 「……何なんだ」 花を取り出して眺めてみるが、特に変わったところはない。捨ててしまうのもそれはそれで情に欠ける気がした。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-02 00:46:09仕方なく、カバンに突っ込むことにする。 それで、駅を出て、信号を渡ろうとした。 そのとき。 数歩目の前を、信号無視の暴走車が駆け抜けた。あと二秒、僕が信号を渡りだすのが早ければ、確実に命はなかっただろう。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-02 01:55:55車は少し離れたところで看板にあたってクラッシュし、追いかけてきたパトカーに取り囲まれてお縄となった。 信号を渡った先で、先ほどの女が僕を待ち構えていた。 「やっぱりお花、返してください」 「うん、返すよ」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-02 00:47:22僕はカバンから造花を取り出して放った。 「助けてくれてありがとう」 「なんのことです?」 彼女はいたずらっぽく笑って、そのままぶらりと歩き去る。 ふと、あの造花をどこで見たのか思い出した。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-02 00:47:32一昨日、通りかかった売り場の床に転がっていたのを、拾い上げた。まだ人に踏まれた跡はなかったから、少し形を整えてまた元に戻しておいたのだ。 「――造花の精?」 まさか。 僕は一度首を振って、帰路を急いだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-02 00:47:39「はい、これが今日の手間賃」 そう言って、君は僕に小銭の入った茶封筒を手渡した。 だいたい千円前後、入っている。 魔法使いの君の正体を看破したのを、随分高く買われたらしかった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-02 01:05:47「また明日も頼むよ、助手くん」 君は僕の肩をぽんぽんと叩く。そして、ニヤリと笑った。 「明日は、すごいことをやるからね。聞きたいかい?」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-02 01:05:59「ふぅん」 お決まりの相槌を打つ。少し気が進まないように聞かないと、君がますます調子に乗るとよく知っているからだ。 「それで、何をするの」 君は、楽しげに笑ってみせた。 「美女を、召喚してみせるよ」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-02 01:06:21「なんだって?」 聞き返したが、君はもう取り合わなかった。 「じゃあ、また明日、同じ時間にここで」 そうとだけ告げて、君は雑踏に姿を消した。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-07-02 01:06:30