モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Summer I ~
- IngaSakimori
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日原院亞璃須(にっぱらいん ありす)がそう言ったのは、梅雨があけて間もない昼休みのことだった。 屋上へ出てきたことを後悔したくなるような日差しの下、それぞれのランチを囲んでいる男女二組はすなわち、兄妹と姉弟の二組でもある。 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:04:26「キャンプ? そんな電車代はないぞ」 「電車ではありませんわ。バイクでいくんです。バイク。 キャンプツーリングです」 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:04:37妹の手作りサンドイッチをほおばりながら、興味なさそうな声で応えるその男、三鳥栖志智(みとす しち)。 三年生であることを示す上履きの色は、亞璃須のものと共通であり、しかしその身長はコンクリートの上に座り込んでいてもなお、大人と小学生ほどの差があった。 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:05:01「へえ~、キャンプかあ。面白そうだね、姉さん、僕も行っていいの?」 金髪の美少年が言う。その瞳は左が青。右が黒のオッドアイ。 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:05:24額には汗が浮かんでいるものの、辺りに漂う香りは異常なほど爽やかであり、クラスメイトや担任が『洗い立ての子犬』と称するほどに心地よいものだった。 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:05:31「もちろん、あなたもです、ティック。 荷物持ちは必要ですものね」 「ううっ……や、やっぱりそういう扱いなんだ……」 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:05:42「あ、あのぉ……」 さめざめと涙する亞璃須(ありす)の弟━━日原院ティックの向かいで、彼と同じ色の上履きをはいた美少女が遠慮がちに手を挙げる。 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:06:08「えっと、あの。そのキャンプって、わたしも行って……いいですか?」 志智の隣にすわっているその少女。 むっちりとしたふとももと、非常によく発育した胸元が、兄と同じく成熟した肉体に恵まれていることを主張している。 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:06:27後ろでアップにした髪が揺れ、うなじが覗くたびに、ティックが呆けたような遠い目になり、志智がどこか警戒するように渋い顔になる。 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:06:40「ええ、もちろん妹さんにも参加してほしいところですわね?」 ━━そして、きらめくような金の長い髪。 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:06:55瞳は右が青。左は黒。弟のティックとは反対のオッドアイを持つ美少女は。日原院亞璃須(にっぱらいん ありす)は誰かを挑発するように語尾を跳ね上げる。 そう、その妖精じみた美貌が狙いさだめる誰かを、だ。 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:07:20「ねえ、志智? あなたはどう思います?」 「………………さあな。知らねーよ」 「……おにいちゃ~ん……」 「………………」 「くすっ」 露骨に顔をそむけた志智に対して、たまらなく面白いものを見つけたように亞璃須は笑う。。 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:07:41困ったように兄を上目遣いでみあげている妹の千歳(ちとせ)。そして、彼女の視線から逃げるように顔をそむけたままの志智(しち)。 それぞれの表情はまるで違うのに、どこか似た印象を受ける。 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:08:51「そもそも、俺にはバイトがあるからな。 キャンプツーリング……か。泊まりがけなんだろ? 予定が合うかどうか、そこからの話だぜ」 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:09:15「いちおう日程は月末を予定しています。 だから、夏休みに入ったあとですわね。平日でも祝日でもかまいません。志智にあわせますわよ」 「ふーん」 「……おにいちゃ~ん……」 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:09:26「あ━━あのっ! 僕もみんなで一緒に……そ、そのっ、お義兄さんと千歳ちゃんと一緒にキャンプがしたいですっ! 平日なら道もすいてるし、いいと思います!! 一緒にいきましょうよっ!」 「………………」 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:09:44意を決したようなティックの言葉に、志智は無言で彼の手元にある500ml牛乳パックへと手を伸ばす。 そして、蓋を開けたかと思うや、一瞬で飲み干した。 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:09:55「ああああああああああああああああああああああっ!! ぼ、僕の身長アップぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!」 「……ふ。食事時だし、千歳もいるからこのくらいで許してやる」 「う゛う゛う゛~」 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:10:08「えっと、わたくしにはさっぱり違いがわかりませんでしたが。 これがティックの言ってた『義理』の有無というものですか?」 無言でうなずく男二人に、亞璃須は巨大なため息。 千歳だけが頭の上にクエスチョンマークを浮かべて、小首をかしげている。 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:10:31「まあ、いいとして。それで結局、志智は妹さんの参加を認めますの?」 「だから、バイトがあるかもしれないって」 「じゃあ、もしアルバイトが忙しくて志智は参加できないとして。 妹さんとわたくし達だけでキャンプに行くというのはありですか?」 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:10:54「えっ」 「ええっ!?」 「おい……」 その言葉は亞璃須以外の三人にはまったく予想外だったらしく、三者三様の驚きが口から漏れる。 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:11:04「えっ。あの、亞璃須さん。 ごめんなさい、おにいちゃんがいけないのに、わたしだけ行くのはちょっと……」 「ええっ!? ち、千歳ちゃんと……ぼぼぼっ、僕と姉さんの三人でキャンプ!? や、やったあー!!」 「おい……そんなの認めるわけないだろうが……」 #mor_cy_dar
2013-07-10 10:11:16