山本七平botまとめ/歴史は一方向に進むという考え方を人類の世界にはじめてもち込んだ旧約聖書/~「一方向に進む」歴史的過程の中に生きている日本人~

山本七平著『存亡の条件――日本文化の伝統と変容――』/第五章 直線と回帰/〈歴史〉は一方向性に進むものか/148頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【〈歴史〉は一方向性に進むものか】田中美知太郎教授が、ギリシア人には、現代人のもつような「歴史」という意識はなかったと言っておられる。 私もそう思う。<『存亡の条件』

2013-07-10 06:27:37
山本七平bot @yamamoto7hei

②そしてローマに征服される前のフランスのドルイド教徒も、あるいはギリシアのピュタゴラス派も、やはり自己の生涯を生前・死後と捉えていても、これを、歴史的過去と歴史的未来の接点に位置するものとは捉えていないのである。 この考え方をすれば「歴史は一方向に進む」という意識はありえない。

2013-07-10 06:57:58
山本七平bot @yamamoto7hei

③従ってわれわれが本能的に嫌う「停滞」という言葉のままであって、少しもかまわないわけである。 だが仔細に見ると、この基本は意外なほど西欧文化圏に残っており、彼らは「現状を次の段階への発展のための一段階」とは見ていないのである。

2013-07-10 07:27:44
山本七平bot @yamamoto7hei

④端的な例をあげれば、西欧の一理念を抽象化した上で現実化したアメリカは、自己の現在の体制が、未来の何らかの体制へ発展する一段階とは考えていない。 彼らはインドの如く、永久にその体制のままで当然なのである。

2013-07-10 07:58:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤勿論そのことは、実質な改革が皆無ということではないが、それが歴史の予定された進行方向といったような考え方とは、無関係だということである。 これの面は、勿論、西欧にもある。 この点、歴史が一方向に進んでいるという考え方とは、まことに対蹠的であると言わなければならない。

2013-07-10 08:27:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥一方向に進むという考え方を、人類の世界にはじめてもち込んだのは、旧約聖書である。 そしてその基本的な史観は、専門学者が「救済史」史観と呼ぶ見方である。

2013-07-10 08:57:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦その見方に基づく歴史とは、個々の人間の生活の連続を時間的に捉えるという見方でなく、その過程は、個々の人間の意志から超絶した絶対者の絶対的意志――いわば「必然」――に支配されて一定の方向に進んでいき、その究極が人類の救済につらなるという見方である。

2013-07-10 09:27:48
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧従ってその見方には、個々人の死後の救済という考え方は元来はない。 そしてこういう考え方は、確かにギリシア人にもインドにもなかったのである。 そして、こういう考え方が基本になければ第二章で述べた様な悲劇は起こりえない。 インド人は絶対にこういう行動に出る事はないからである。

2013-07-10 09:57:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨まず第一、「多」の世界は何でも受け入れるし、何でも当然に併存する。 そしてその併存を、歴史的な過程で捉えることはなく、その中に住む人は、「自国の歴史的過程の中」に生きているのではないからである。

2013-07-10 10:27:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩過日、インドから帰られた森本哲郎氏にお目にかかったとき、氏はこのことを非常に的確に指摘された。 インド人は、たとえイギリス人が造ったものでもイスラム教徒の建造物でも、すべてそれを「インドのもの」として、外国人に紹介するという。

2013-07-10 10:58:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪もしこのような捉え方をして、ユダヤに入って来たものをすべて「ユダヤのものだ」としてしまえば、何の問題もない。 しかしこれは、一方向に進む歴史的過程の中に生きている民族には、不可能なことである。

2013-07-10 11:27:48