神サバ小話４

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl ミシェルは左手でルキフェルの右手を取り、その手のひらに自分の”利き手”である右手のひらを合わせた。天使にとって、力が宿る大切な”利き手”は、例え相手が自分の創り主…神であろうと触れさせないにも関わらず。そして「何もいらない。信じている」とだけ呟いた。 #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl 涙は蒼い瞳を濡らし、そのまま溢れ出て、頬を伝って流れ落ちた。「…ミシェル、ごめん。君を試そうとした。震えている。右手は君にとって、命のようなものなのに」「大丈夫だ」「嘘ばっかり」ルキフェルは片割れの"利き手"から手を放し、涙を拭って小さく笑って見せた。 #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl 「君に隠していた事がある。本当はね、僕の手は両方ともに力があるんだ。左利きって事にしていたけれど…」ルキフェルが両手を広げると、右手には深紅の花が、左手には純白の花がふわりと形作られた。「そなたは今まで、その右手を私や皆に…」「でも、怖くはないんだよ」 #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl 「君は、君と僕が手を繋いで生まれてきたと信じているね？けれど、本当は違うんだ。僕は君よりも少し早く目覚めた。そして、自分の両手に気付いて絶望したよ。僕の手は誰ともつながる事ができない。僕は再び眠りについて、そのまま永遠に目を閉ざしていようかと思った」 #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl ルキフェルは金色の髪に指を差し入れた。「でも、隣に君がいた。金色の髪、長い睫毛、瞳はどんな色だろう…そんな事を考えていたら、僕は生きたいと思った。だから、眠る君の左手を右手で握りしめた。この手は君に捧げた。誰に触れられたって、決して損なわれやしない」 #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl 「ミシェル、本当にごめん。どんなに記憶を消したって、僕は僕である事をやめる事はできないんだ。僕の中の歪んだ僕は、何度も君を傷つけるかもしれない。だけど、忘れないで。僕の右手は出会った時から君のものだ。今、僕のもう半分も君にあげる。だから、僕の側にいて」 #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl ルキフェルは微笑みながら、左手をミシェルに差し出した。ミシェルが右手をそっと重ねると、その上から自分の右手を添えて両手で優しく包んだ。「ねぇ、覚えている？君が目覚めた時、僕は君の赤い瞳から目が離せなくなった。けれど、君は露骨に僕から目を反らしたんだ」 #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl 「そんな事もあったか？」ミシェルは赤い瞳を潤ませて、何度か瞬きした。「あったよ！すごく傷ついたんだから！とぼけているの？それとも、君も記憶をどこかに置いてきた？」ルキフェルはクスクスと笑って、片割れから与えられたその手に、静かに唇を押し当てた。（終） #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl 俺が連れてこられた部屋には３人の天使がいた。入口に一番近い机には、浅黒くてガッチリした奴が座ってた。真ん中の机には、ぽっちゃりとして人がよさそうな奴がいた。で、一番奥の机には…たぶん、こいつが一番偉い奴だ…細身の天使が妙にピシッとした姿勢で座ってた。 #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl 一番奥に座ってる奴は俺を見て、やけにハッキリとした声で喋り始めた。「あなたがユリエルですね？状況はイシュリエルから伺っております」そいつが右手をかざすと、フワリと一枚の書類が現れた。そして、書類をチラッと見て「チッ！」とデカい舌打ちをして握り潰した。 #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl いきなりで俺はビビったし、俺を案内してきた髪がふわふわした奴も俺の横でマジビビってた。奥に座ってた天使は、いきなり立ち上がった。コイツ、意外とデカいな！で、また右手をかざしてブワっとバカみたいな量の書類を出して、隣の席に座ってたぽっちゃりの前に置いた。 #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl 「神に面会してきます。少々時間がかかりそうです。私が戻るまでに、これを処理しておいてください」そいつはサラリと言いやがった。…おいおい、すげぇ量だぞ！けど、ぽっちゃりは急に真剣な顔でパラパラと書類をめくって、にっこりと「承知しました」とか言い出した。 #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl コイツらバカじゃね、とか思って見てたら、そいつは俺の横をスタスタと通り過ぎて、部屋を出て行った。そして、俺の方を振り返った。「早くなさい。私はあなたの様に暇ではありません」…なんだ、コイツ！マジ感じ悪ぃな！そういや、これが俺とジブリエルの出会いだった。 #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl 神は天使を創った。俺はたぶん、神が創った最後の天使だ。ある目的のために創られた。神が自分の後継者として、自分と同じ力を持った双子を創ったみたいにな。で、その目的っていうのは、楽園の監視だ。俺はかなり長い間、楽園の扉の前にいた。だから、ダチが少なかった。 #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl こいつはミシェル。数少ないダチの一人だ。よく楽園に出入りしている。無口で真面目そうだが、実はかな〜り抜けてる。神と同じ力を持った双子の片割れだ。楽園の扉に来る前に天界で聞いた噂じゃ、力はあるのに、まったく使いこなせないらしい。いわゆる｢出来損ない｣だ。 #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl もう一人の片割れは、かなりスゴイらしい。神と同じくらいに力を使いこなすけど、威張った感じがないから一目置かれてるらしい。そんなワケで、ミシェルはイジけたネクラかと思いきや、全然違う。すげぇイイ奴だ！｢出来損ない｣だけど、天使達からの評判はかなりいい。 #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl そういや、奴らが一緒にいるのをチラッと見た事がある。横に並んでいるように見えて、黒髪の奴が少〜しだけ後ろを歩いてる。ミシェルが右向けば、黒髪もすぐに右を向く。前に扉があれば、黒髪が一歩前に出て開けてやる。…ふぅん、デキのいい方が気ぃ遣ってやってんだ！ #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl けど、その直後に一騒動あって、アイツらの仲はおかしくなった。俺も偶然に居合わせたんだけど、よく事情が分かんなかった。あんなに幸せそうだったのにな。とにかく、ミシェルは神からのお遣いで、よく一人で楽園に来てた。俺は扉の中に入れないから、羨ましかったぜ！ #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl いつだったけな、ミシェルに「蝶が見たい」って言った事があった。そしたら、すげぇ渋られたけれど、何度も頼んだら創ってくれた。黒くてなんかキモいの。ブブブッ…って、変な音を立てて飛んでった。だから、他の奴に教わるまで、俺は蝶は黒くてキモいもんだと思ってた。 #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl その「他の奴」って言うのが、ラフィエルのおっさんだ。ふと横を見たら、フツーに俺の隣に座ってんの。あん時はマジビビった！で、「君はさ、猫好き？」とか、ぺらぺらと話しかけてくんのよ。なんだ、コイツ？俺はアワアワした。ミシェル以外に話し相手はいなかったしな。 #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl おっさんは、天界にいた時に見た他の奴らと雰囲気が違う。うまく言葉にできないんだけど、うーん…なんていうか「やさしい」か？あと、すげぇ物知り！何を言っても答えてくれるし、いろんな事を教えてくれた。おっさんの話は楽しい。だから、俺は喋るのが好きになった。 #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl ちなみに、天使はみんな仕事を持っている。当然、おっさんにも仕事があるんだけど、俺の所にサボリに来てたらしい。ある時、内側から扉が開いて、楽園からたくさんの生物が出てきた。おっさんは「楽園に収まり切らなくなった子達だ。地上に行くんだよ」って教えてくれた。 #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl 俺は初めて見た蝶に見惚れてた。おっさんは猫を見つけて、大喜びだった。猫かわいい！触ってみたくて追いかけようとしたら、おっさんに止められた。「この子は知らない場所に行くから不安でいっぱいなの。だから、触っちゃいけないよ」ってな。俺はおっさんの隣に戻った。 #神サバ小話

お菊 @sara_yashiki

@ZS_tl …おっと、脱線しちまったな！今の話に戻るぜ！ぶっちゃけ、今の俺には仕事がなかった。俺のせいで、楽園は閉鎖された。俺も神の期待に応えられなかった「出来損ない」だ…。俺は天界に戻された。そして、この感じが悪い奴…ジブリエルと一緒に神の御前に立っている。 #神サバ小話