まず、良かったのは表現。オープニングの夢の中での飛行シーン、序盤の関東大震災、中盤のカプローニの夢の旅客機のシーン、結婚式のシーンとああいう「抜ける」場面を要所要所で描けるのはすごい。普通の映画なら最大の見せ場になるようなシーンがいくつもあるんだからやっぱ尋常じゃないよ(笑)
2013-07-26 09:44:50とくに素晴らしかったのが、最後の九試艦上戦闘機の試験飛行の場面ね。菜穂子が息を引き取るのと同時に風が吹き、菜穂子の命が戦闘機に乗ると同時に舞い上がる。
2013-07-26 09:50:23普通の映画なら、病床の菜穂子のシーンとと試験飛行のシーンをカットバックで交互に映し、盛り上げまくるところだと思うんだけど、あえて菜穂子のシーンを映さないというね。その変わりに、中盤の軽井沢のシーンで菜穂子と紙飛行機で遊ぶシーンを伏線として仕込む。
2013-07-26 09:54:08ラストの試験飛行のシーンが完璧すぎてあやうくなにもかも水に流すところだった(笑) ちなみにあの軽井沢のシーン、無声映画のコメディのような演出が施されてたけど、あんなこと宮崎駿もするのね。ミッキーマウシング的な音楽の使い方といい、昔のディズニーの映画観てるような感覚だった。
2013-07-26 09:57:33さっきの『風立ちぬ』の続き。試験飛行で九試艦上戦闘機が舞い上がる瞬間、風を吹かせ、二郎の時間と音を止め、カメラを横にパンして何もない山を映し(おそらく菜穂子のサナトリウムがある方角)、みんなが試験飛行の成功を喜び合ってるところでカメラを引きながら俯瞰で映す。
2013-07-26 14:08:53これは明らかに映画的文法で菜穂子の死を暗示してて、さっきも言ったけど、こういういかにもな映画的演出を宮崎駿がやるのはなんか意外だった。絶対に子供が理解できない演出だからね。また、これがちゃんとキマってるのがすごい。
2013-07-26 14:12:00あと、夢の中でカプローニが出てきて…って部分が黒澤明の『夢』みたいだって指摘をどっかで見かけたけど、僕的にはモノを作る人間が過酷な現実の中で夢と妄想を繰り返して観るという点でフェリーニの『8 1/2』っぽいと思った。
2013-07-26 14:17:36とくに、妄想の中でカプローニさんが造った旅客機に狂気じみてるくらい陽気な人々がどんちゃん騒ぎしてるシーンなんか非常にフェリーに的な雰囲気を帯びてた。
2013-07-26 14:23:48で、むしろ黒澤的だなぁと思ったのが背景の色彩。空の雲やドイツの飛行機で使われていた虹色に滲んだ色彩が『夢』も含めたカラー時代の黒澤映画によく使われてたあの感じなんだよね。あと細かいとこでいえば、二郎が初めて名古屋に来たシーンでの本庄とのオウム返しの会話が小津安二郎っぽいなとか。
2013-07-26 14:32:54あともひとつ、堀越二郎がドイツから西回りで帰る列車の中でカプローニに出会い、彼に着いてく形で列車から飛び降り、ぐるぐるでんぐり返ししてると、背景の雪景色が一気に広大な草原に変わる。このシーンが細田守の『時をかける少女』のタイムリープするシーンに似てる。っていうか、そのまんま(笑)
2013-07-26 14:38:34技術的な話はこれくらいにして、内容なんだけど、まず小飼弾さんが言うように、まだ亡くなって間もない人物を伝記的な描き方にせず、がんがんフィクションをぶっこんでいくってのはどーなんだってのは確かに否めない。叙事詩より抒情詩の方が本質的なんだって言うかもだけど、それとこれは別だしねぇ。
2013-07-26 14:47:39で、宮崎駿はこの映画で堀越二郎の「“戦争の”英雄」というレッテルの枕詞を取り除くと同時に、彼の兵器マニアでありながら強い反戦思想を持つという一見矛盾した価値観にケリをつける意味があったんだとか。
2013-07-26 14:52:14だから、今回の主人公である堀越二郎にはかなり宮崎駿自身がのっかってる。で、堀越二郎と自分を救うために導き出された結論はとにかく堀越二郎(と自分)は「美しい」ものが好きなだけであって、飛行機は「美しい」んだからしょうがないじゃん!というもの。
2013-07-26 14:57:03そして、この映画の中でもカプローニや本庄の口から語られるように、飛行機を作るカネがあったら貧しい子供たちにたらふく食わせてやることができるし、この時代に飛行機を作るということは人を殺す兵器を作ることとイコールになってしまう。飛行機を作る、空を飛ぶという夢は「呪われた夢」だと。
2013-07-26 15:01:23ここまではいいよね。自分には夢があるが、その夢の実現のためには様々な障害と犠牲が伴うと。非常に映画的テーマじゃん!って思うんだけど、なんかしっくりこない。その理由は明らかで、主人公に“葛藤”の“か”の字もないから。
2013-07-26 15:05:19カプローニが「呪われた夢」だとか「ピラミッドのある社会とない社会」とかそれらしいことは言ってるんだけど、当の本人は何処吹く風。カストルプからユンカースはナチスのために飛行機を作るのをやめてナチスから追われてる…という話を聞いても二郎本人の葛藤というところまで響かない。
2013-07-26 15:10:22さらに、シベリアのシーンで貧しい子供がちらっと描かれているが、その後のフォローはまったくない。実際に、二郎が造った飛行機がどのように戦争で使われ、犠牲が払われたかもほとんど描かれない。
2013-07-26 15:12:52そもそも、宮崎駿の映画で主人公が葛藤してたことが一度でもあったかと言われれば、たしかにないんだけどさ、今回はそれを避けることが不可能なのは本人にも分かってたはずで。いつものジブリ映画だと信念の強い主人公だなぁと思えても、今回はどうしても独善的にしか見えない。
2013-07-26 15:17:37菜穂子に関しては特に言うこともない。いつものジブリヒロインじゃん、何を今さら…としかねぇ。たしかに今回の菜穂子は成人したヒロインという点で特異だし、曲がりなりにも作りがリアリズムっぽいだけに違和感が増幅してるというのも分からなくはないけど、二郎の問題に比べたら些細なもの。
2013-07-26 15:22:47だから、二郎の「美しさ」へのこだわりの犠牲になって、山下清のように居候の家を去り、猫のような死に方をしても特になんとも思わない。むしろ、さっき言ってた結婚式のシーンや九試艦上戦闘機の試験飛行の神がかり的演出でチャラどころかお釣りがきてるくらい(笑)
2013-07-26 15:25:39長くなったので、結論をいうと、演出と表現は最高だけど、脚本はイマイチかなぁ…というみんなと同じ着地点。まあみんなと違うのは、脚本の問題どうこうよりも演出めちゃくちゃ凄かったし、初めて宮崎駿が自分語りを始めたんだし、ぜんぜん面白かったじゃん!という感じに肯定的に解釈してるとこか。
2013-07-26 15:30:01