- minarudhia
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「…引き返しましょうか?」 「いや、あそこへは今度寄る。今は街で情報を収集することを優先したい」 ロックのことだ、そう簡単にくたばる奴じゃない。 そう思ったマッシュの耳に、笛の音にも似た鳴き声が聞こえた。 「こんな時に邪魔が入る…!」 「モンスターか!」
2013-07-26 23:26:28目に飛び込んできたのは、巨大な鳥の姿。 鳥の魔物はけたたましく鳴きたてると、マッシュと竜に向かって突っ込んできた。 その蹴爪をひらりと巧みにかわし、竜が首をマッシュの方へ振り向ける。
2013-07-26 23:30:21「マッシュ、私の首につかまって体勢を低くして!」 「へぇ!?」 「今から高速でカタをつけるから―――早く!」 翼の付け根を軽くつかんでいた両手を離し、首に抱きついた。 その瞬間、ガクッと視界が下へ傾き、落ちた。
2013-07-26 23:33:15「わぁぁぁぁあああああああああああああああああっ!!!」 …もはや男の恥も何もあったものではない。 マッシュの絶叫が空に盛大に響いた。 時速90キロものスピードで急降下から急上昇へと展開し、そのまま宙返りをした所で竜の口から光の矢が放たれた。
2013-07-26 23:35:59「大丈夫?」 「これを、大丈、夫って、言えるかあぁ!?」 「でもその割には平気そう!それじゃ、減速するから、そうしたら体勢を戻して!」 「うがあああああああ!!」 本日三回目の悲鳴が空に響き渡った。
2013-07-26 23:38:44「…しかし、あんた…さっきとうって変わって楽しそうだな…」 「空を飛ぶのは楽しいから。それに、人間を乗せて飛ぶの、50年ぶりだもの」 「はぁ…」 ぐったり背中の上で荒く息をつくマッシュに思わず笑うも、竜の目が前方を向いて鋭くなった。
2013-07-26 23:41:51「あれよ。あれが、瓦礫という瓦礫が積み重なって、生まれた塔」 「あそこが…」 前方に高く高くそびえ立つ歪つな構造の塔に、マッシュの目は向けられていた。 思わず両手に力がこもる。
2013-07-26 23:42:27「あの塔に…ケフカが…」 「近くにアルブルグの街があるわ。でも私は人の目にあまり触れるのは気が引けるから…少し離れた所で降りるわね」 ふわり、と体を横に傾け、風の流れを受けて減速の体勢に入る。 マッシュもこの動きにはもう慣れてきたため、すぐに動きに合わせて体勢を変えた。
2013-07-26 23:45:34荒れ果てた地上へ舞い降りると、竜の背中からマッシュはゆっくりと降りた。 「もう、アルブルグの街は目と鼻の先よ。歩いて30分くらいの距離だから、大丈夫なはず」 「ここを、まっすぐか?」 「ええ。…気をつけて」 「ああ。…あ、一ついいか?」 「?」 竜の銀の目が瞬く。
2013-07-26 23:50:59「あんた、名前はあるのか?いつまでも“あんた”じゃ呼びにくいから…あった方がいいかなって」 「そうね、私の名前は―――フィスト」 「フィスト、か。ありがとうな。やる事全部終わったらまたお前に会いに行くよ」 マッシュが笑いかけ、彼女の首に手を添えた。
2013-07-26 23:53:48鱗に覆われているのに、掌に伝わるぬくもり。 「でもあの乱暴な飛び方は勘弁してくれ」 「ふふ、言ったわね?でも乗り方、上手かったわ。今度はちゃんと飛んであげるから」 「ははは…じゃあ、もう行くよ」 お互いに笑い、離れようとしたマッシュの頬に竜の口が触れた。
2013-07-26 23:55:26「!?」 慌ててマッシュが振り向いた時には、白い竜はとてとてと速足で走り去るところだった。 何されたかはわかったが、それを振り切るかのようにマッシュは飛び去ったフィストに向かい大声を張り上げた。 「約束として覚えておくからな!!」
2013-07-26 23:57:21アルブルグの街はあの日以来、活気を失っていた。 瓦礫でできた塔に一番近い街ということもあるのだろう。 所々に野党がたむろして火を焚き、建物はほころび、以前の港としての街ではなくなっていた。
2013-07-26 23:58:40そんな中、仲間の存在を聴きこんだりしたものの、収穫が全くない。 かろうじて世界で何が起こっているのかは知ることはできたが、肝心の仲間がいなければ―― 「…兄貴、無事でいてくれよ」
2013-07-26 23:59:14そんな事を呟きながら、マッシュは宿屋の呼び込みをしている娘から教わったツェンの方角へと足を進め始めることにした。 ――――セリスがいかだに乗り、やがてツェンで再会を果たす十数日前のことである。
2013-07-26 23:59:52