【夏、生きている者の】福間健二 2factory40
雲がゆっくり動いている。それを映す川。だれも溺れていない。野には「あたらしい生活」の命令。そのために借りたばかりの、からだの感じる力。草の地面に両手をついて振動を拾う。湿度、夏のテクスト、読みかえられない生の側の。みなさん、元気ですか。(夏、生きている者の1)2factory40
2013-07-18 08:09:24アリサとミユは山に行かなかったから大丈夫。ひろがり、奥でつながるポケットの恐ろしさについてメモを交換した。窓辺に花を飾り、威圧する剝製たちはゴミ袋に。蛍光ペン、汗拭きタオル、ブルース。泣いていい夏。でも、人が見ているところでは泣かない。(夏、生きている者の2)2factory40
2013-07-19 08:56:36家族旅行者のひとりの、やわらかさの足りない下肢。線が描けない。ベッドの、その声はオンにならない。反対に、声はよく聞こえるが姿の見えないだれか。報告済みの作用、それぞれに都合のいい謎に閉じこもっている。ぼくは元気です。返信、遅れましたが。(夏、生きている者の3)2factory40
2013-07-20 08:46:00去っていき、また戻ってくる。リズムだけがあって、意見を言わない手紙。そのやさしさに引きずられ、目を閉じて、天使の歩いた道。いまは不幸も幸福も転がっていない。どこかの屋上から発声練習の声が。ア、エ、イ、ウ、エ、オ、ア、オ。秋までの道。(夏、生きている者の4)#2factory40
2013-07-21 09:04:40ここからまた、片目ずつあけて息を吐き、ひとり、ふたりと音を合わせていく「長い、長い下準備」。幽霊じゃない証拠、のどがかわく。アリサたちにはウエストのくびれも。昔もそう言ったね。処置、きょうまた破れ目を大きくする。洗いやすくするためだ。(夏、生きている者の5)#2factory40
2013-07-22 08:13:19生活、世界、切開。血、肉、皮膚をつくる力。滴、打って、歩く、影たちを、見送りながら、ベンチでオレンジを食べる駅前のゆうぐれという未来もあった。今夜は満月。だれの子でも親でもない、ひとつのいのちの隣にすわって、やさしい気持ちになる。(夏、生きている者の6)#2factory40
2013-07-23 08:41:52要素と要素。雷雨のなか、役割を入れかえている。機械の、純情。作られたものたちが復讐的になにかを作る番なのだ。旭通り、雨がやみ、「では始めてください」と、急に人懐っこくなったアリサとミユの、泣かない夏。ちがうよ、始めるのはきみたちだ。(夏、生きている者の7)#2factory40
2013-07-24 07:43:27成分と成分。夏に生まれて夏の主題に奉仕しないぼくの動物と子どもが溺れる川。それが何であるかを発見すること。福祉会館のわきの小道を去年の夏からの宿題がホットパンツaとbで歩いてくる。恋にならない関係。でも、麦とホップ、一緒に飲もう。(夏、生きている者の8)#2factory40
2013-07-25 09:21:26はげしい雨のあと、具合がわるくなり、シートに横になっているうちに「助けてください」という自分の声を聞いた。その川、全力で流れている。つまり、aとbを連結する、脚をバタバタさせるもの、でも中性的に。降りる。ここ、一度も来たことない。(夏、生きている者の9)#2factory40
2013-07-26 08:12:23夜の地面に、汗とタンクトップの、解釈できない背中を投げて、このリズム。つかむ。こする。さわる。体の音、心の音。経験不足の天使たち、痛いって大事なんだ。急に、すべてが変化する。破れ目、見すてられた「裸のわたしたち」がここに生きている。(夏、生きている者の10)#2factory40
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