#3　幻想曲 ♪ ワン・ウーンド

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そもそもヴァンパイア自体が既に規格外だ。 中級者の時点で、Ａ級魔術師（全体の一割）に比肩し、 上級はＳ級（１%未満）相応、と種族としての基礎スペックが違う。 彼女に至っては、ＳＳＳ級すら軽く超える、ＥＸ（評価規格外）である。 他の最上級を同時に数人相手に出来る。 30

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彼等の肉体は不老で、外見年齢は精神を反映したものである。 精神が老いると老人の姿となり、やがて消滅する。 それ故に「現役」の者は大抵20代前後の若者の姿である。 そしてミーティアの姿は…今の勇矢より若い。 人間の成人数千人分以上の知恵や能力を持ちながらも、精神性は少女だ。 31

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勇矢にはそんな彼女が、絢女と並んで愛しかった。 そしてそれ以上に……恐ろしかった。 「レンジ借りていいかしら？」 「ああ、うん」 携帯異空間『匣』から冷めた器を出し、レンジに入れる。 彼女なり勇矢の術で温めてもいいが、料理には調理器具が最適だ。 それはいい。 32

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レンジから食欲を誘ってしまう良い匂いが漂ってくる。 それはいい。 顔を含めて半分弱治った体が、空腹を訴えてくる。 それもいい。 「さあ、どうぞ」 ３時間も濃厚に睦み合った後だけあり、流石に震えは収まっていた。 諦めたとも言う。 33

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ミーティアが器の蓋を開けると、英国風のパイだった。 生地の表面を割ると、ソースと具の濃厚な匂いが漂ってくる。 それもいい。 少女はスプーンで一口分掬い、自分の口に運んだ。 勇矢は中身に何の疑問も持たずに、それを大人しく口にした。 34

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パイ生地はサクサクとし、濃厚な肉と柔らかい野菜とのマッチが絶妙だった。 勇矢は比較対象に詳しくないが、料理の腕も三ツ星級以上らしいだけのことはある。美味しかった。 中身に察しがついていても。 35

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―― 「ごちそうさまでした」 素直に感謝と賞賛を述べた。 「お粗末様でした。ごめんなさいね、先に食事にするつもりだったのに…」 「久々にキス出来て嬉しかったよ。こっちもおいしかったよ」 「もう」 普通の恋人同士の会話だ。 部屋が暗く無く、勇矢がまだ少し震えていなれば。 36

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―― 「ねえ、勇矢」 日付が変わる頃、腕枕の上でミーティアが呟いた。 「なな何！」 声が上ずる。 １時間ぶりに声を掛けられたことと、見透かすような声色のせいだ。 「何か私に…隠してない？」 「ぼ僕にだって知られたくないこと位あらぁな」 元々震えていて幸いだった。 37

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「マイクやカメラを切るのは良いの、今朝みたいに他の女と話したって良い」 彼女は勇矢を常に機械監視している。 だが勇矢の任意で切れるので、プライバシー上は問題ない。 少なくとも勇矢本人はそう考えていた。 実際一日の半分は切っているし、条件設定で自動オフも出来る。 38

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「でもあの後…裕岐君と何があったの？」 …今朝、彼と口論の末一戦交えた。 裕岐や彼女に、あの案件を知られては困る。 二人共、情報の断片からですら真実に辿り着きかねない。 特に裕岐は手遅れかも知れない。 だから手動で監視を切り、暫く入院させる覚悟で攻撃した。 39

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「後悔しない様に、早めに仲直りしてね」 その言葉には千年の重みがあった。 仲違い中の死別も、多く経験し目撃してきたのだろう。 更に数分言葉を交わすと、来た時と同様にして消え去った。 気付くと、顔と胸がペタペタ濡れていた。 その粘液はさておき。 40

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「そう言われてもさぁ」 後悔しない為だったなどと言える訳も無い。 言えばミーティアまで傷付く。 同時に二人を守ろうなど、おこがましいのだろうか？ 勇矢は心配していた。 既に二人に気付かれてしまったのか？ そして、 いつもより、数㎏ほど軽かった少女の体を。 41

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エバー・ラスティング・アロー ミストルティン編 第十八話　壊縁 ♪ ～ホワイトのショータイム～インディヴィジュアリスツ・エイム～ #3　幻想曲 ♪ ワン・ウーンド　終わり #4　交響曲 ♪ シングル・アクション　に続く ##evlst