山本七平botまとめ/「一人相撲」の歴史だった近代日本/~真の対等を自らに要請され、かつ外部からも要請される時代に入った日本~
-
yamamoto7hei
- 9744
- 195
- 1
- 5
![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
①【あとがき】最近、短いアメリカ旅行を行った。 短期間なので、別に何の収穫もなかったが、国務省中東局のインド担当官ブラウン氏、および『フォーリン・アフェアーズ』誌のバーンズ氏との対話は、私にとって、興味深いものであった。<『存亡の条件』
2013-07-14 04:27:37![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
②中東局は、インドからアラブまで担当している局だが、ここの人びとの意見が、一様に、「この地区には、何も問題はない」であったことは、私には、少々意外であった。 アラブ・イスラエルの問題は、アメリカにとって実にやっかいな大変な問題であろうと私は考えていたからである。
2013-07-14 04:58:00![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
③この点をただすと、彼らの答はこれまた一様に 「それは大変な問題に違いないが、しかしわれわれには、彼らの考え方の基本がわかっているから、どんな問題でも、解決不能の問題とは思われない。」
2013-07-14 05:27:38![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
④「どんなに錯綜しているように見えても、根気よく探せば必ず解決の糸口があると思っているから、神経質(ナーバス)になる必要がないからだ」ということであった。
2013-07-14 05:57:47![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
⑤一方、日本のこととなると、これと全く反対であって、前述のバーンズ氏は、 「日米間には今何の問題もない。 しかしこの何の問題もないことに、われわれは神経質にならぎるを得ない」 ということであった。
2013-07-14 06:27:38![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
⑥以上の二つを比べてみて、大変に面白いと思ったことは、国際間の諸問題といっても、究極的には文化の問題だということである。 中東局が担当しているのは、結局、インド・アリアン文化圏とセム文化圏である。
2013-07-14 06:58:13![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
⑧ヨーロッパがヘレニズムとヘブライズムいわばアリアン・セム文化の混合圏なら、アメリカもその系統にあるために、中東がアメリカ文化の表面的な影響は受けておらず、一見異質と見えながらも、基本的には両者の相互理解が可能だということである。
2013-07-14 07:58:16![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
⑨一方日本はそれらとは異質の文化圏に属してきた。 従って表面的には完全にアメリカ化し、アメリカとの相互理解が最も完全なように見えて、基本的には日本人の思考の型と判断の基準がアメリカ人に判らない為、何の問題がなくても、否、問題がないと殊更に彼らは神経質にならざるを得ない訳である。
2013-07-14 08:28:21![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
⑩そしてこの問題は、表面的なアメリカ化では解決し得ず、否、逆に表面的なアメリカ化が進むとともに、ますます日本人が、ということは日本文化なるものの基本型が、彼らにわからなくなり、そのためますます神経質にならざるを得ないのではないかと思った。
2013-07-14 08:58:18![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
①神経質という言葉は、問題がなければないで、あればあるで、常に疑心暗鬼にならざるを得ないということであろう。 以上を要約すれば、 前者は、基本的な相互理解の上に争いがある状態、 後者は、基本的な相互理解がないが争いがない状態、 と言いうるであろう。<『存亡の条件』
2013-07-14 09:28:06![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
②なぜそうなるか。 われわれの社会は結局、「よろしくお願いします」という言葉が通じる社会である。 こういう言葉は、たとえばユダヤ人の間には絶対に存在しない。 この言葉は、いわば白紙委任だが、本当に相手に白紙ですべてを委任したら、何をされても文句がいえないからである。
2013-07-14 09:58:04![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
④というのは、この言葉の前に 「日本の伝統的な考え方と不文律に従って、あなたがその通りにして下さるという前提のもとに、よろしくお願いします」 の意味であって、この前提を口にしなくともそれはすべての人に理解され、すべての人はその通りにすると、きまっている社会だからである。
2013-07-14 10:58:00![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
⑥そのためこれを他国に説明することができず、従って彼らに理解されず、またわれわれは知らず知らずのうちに、この不文律が世界共通のものであるが如き錯覚を抱いているため、彼らから見るとわれわれの考え方・行き方が、逆に、実に奇妙に見えてしまうわけである。
2013-07-14 11:57:52![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
⑦同時にこのことは、われわれが常に、知らず知らずのうちに、世界で起こる事象をすべて、われわれの自覚せざる不文律に従って判断し、批評し、それに対応して動いていることを示す。 そしてそれが彼らに、われわれの、ある事象への対応の仕方が、全く、理解不能とうつる。
2013-07-14 12:27:53![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
⑧以上は滞在中に感じた諸問題のほんの一例にすぎない。 そのほかにも、あらゆる面にさまざまな問題はある。 しかしそれらは、絶対に、個々に、対症療法で解決できる問題ではないことを、しみじみと感じさせられた。
2013-07-14 12:57:59![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
⑨というのはその底には、長い間日本がアメリカを臨在感的に把握し、これに感情移入を行い、自己の移入した感情に自らが支配されて、自己の感情の変化に応じて自らの把握の仕方を変化させて来たという歴史、 いわば、「一人相撲」の歴史があるからである。
2013-07-14 13:27:48![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
⑩そしてそのことは、自己のうちに、一つの対立概念として自己とアメリカを置き、それによって相手を把握することができなかったことを意味する。 もちろんこのことは、アメリカだけでなく、他の諸国に対しても同じで、中国もアラブもその例外ではない。
2013-07-14 13:57:56![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
⑪世界の国々が遠い夢の国であり、経済的にも思想的にも文化的にも自給自足である間は、これでもよいであろう。 しかし、月の世界ですら感情移入の対象のみではありえなくなったのが現在である。 世界はますます狭くなっていく。
2013-07-14 14:27:52![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
⑫今までのように、実質的な鎖国のうちに暮らすことは、さらにむずかしくなっていくであろう。 このことは、われわれが明確な自己規定のうちに生き、その自己規定を明確に他国民に知らせることを要請していると、私には思われる。 それをする以外に「信用」という言葉はあり得ない。
2013-07-14 14:57:55![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
⑬というのは、人は、その人が、自らの内なる規定とそれに基づく規範に従って、ある問題に対して常にこのように対応するにきまっていると信じうるときに、はじめてその人なり、その国民なりを信じ、たとえどんな問題が起きても神経質にはならないからである。
2013-07-14 15:27:47![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
⑭われわれは残念ながら、自己の規範を世界に向かって明らかにしてはいない。 だが、それを行うには、まず自らの手で、自らの規範を再把握することが必要であろう。 そしてその再把握だけは、誰かが代りにやってくれる、というわけにはいかないし、どこからも輸入するわけにはいかないのである。
2013-07-14 15:57:52![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
⑮大変に面倒な事になったと思う。 だがこの面倒さを招来した事は、明治以来の、ただただ諸外国に追いつく事のみを目的とした時代が終わった事の証拠であり、今我々は、真の対等を自らに要請され、かつ外部からも要請される時代、いわば新しい喜ぶべき時代になった事も意味しているのである。(終)
2013-07-14 16:27:51