【参考】『はだしのゲン』論議について―作者・中沢啓治さんの見解を押さえておこう
- osomatu_san
- 11552
- 3
- 22
- 22
(3)心情的な転換
こうの氏「遠慮している場合ではない、原爆も戦争も経験しなくとも、それぞれの土地のそれぞれの時代の言葉で、平和について考え、伝えてゆかねばならない筈でした。」ー『夕凪の街桜の国』
2013-08-17 15:53:20中沢氏「もう腹が立って、黙っていないぞ、言いたいことを言ってやるぞ、と。(略)まるでつきものが落ちたように気持ちがふっきれた。それまでは原爆のことから逃げ回ってばかりいましたが、おふくろの死で開き直った。」ー『わたしの遺書』
2013-08-17 15:56:35「それまで原爆を扱った文学作品などは『原爆を受けて悲しい』という論調のものが主流でした。『あれは戦争だから、しょうがない』と。ぼくはそれではいかんと思いました。『エレジー(哀歌)』ではだめなのです。絶対に『怒り』なのです。」(p24)
2013-08-17 15:57:28②なぜ『はだしのゲン』は「過激」な描写でなくてはならなかったか?
ここから2つめの論点へ。②描写の違いを生んだ背景(作品が描かれた経緯には共通点がありながら、なぜ『はだしのゲン』だけが過激だとされるのか)。
2013-08-17 15:59:22ガラスが突き刺さったり、皮膚を垂れ流して人々が歩く原爆直後の風景が描写される『はだしのゲン』に対して、『夕凪の街 桜の国』は終戦後の広島が舞台となっている。原爆の直接的な描写はほとんど存在しない。
2013-08-17 16:01:06小学1年で被爆した日の情景がありありと記憶に残っていて「映画のセットをつくれと言われればつくれる」(『わたしの遺書』p179)という1939年生まれ、被爆一世の中沢氏と、1968年生まれ、被爆二世世代ながら自身は違う(二世ではない)こうの氏との差は大きいだろう。
2013-08-17 16:02:35そもそも、『夕凪の街 桜の国』は「戦後の」「被爆二世」をテーマとすることで独自の価値を持つ作品であることにも断っておく必要がある(描写がおとなしいからよい/わるいという話をしたいのではない)。
2013-08-17 16:03:33こうの氏「『桜の国』では、今を生きる被爆2世を誇張なく描くことによって、原爆投下から現代までを、地続きの歴史として受け止めたいと思ったんです」 (インタビューより)http://t.co/xasCmJe9Zv
2013-08-17 16:05:12一方『はだしのゲン』は戦後の社会状況のなかで、原爆を描くリスクを踏まえながら(つまり「過激」という反響が来るのをを承知のうえで)発表に踏み込まれた経緯があった。
2013-08-17 16:05:42そもそも現在の「ヒロシマ=平和のシンボル」という感覚が当たり前になる以前、戦後の日本(広島)では原爆へのタブー/忘却意識があったことも知っておきたい。
2013-08-17 16:07:56中沢氏「戦後、広島では、『美観を損ねるから原爆ドームを取り壊そう』という市民運動がありました。いまでは広島市のシンボルのようになっている原爆ドームですが、当時は戦争があったことも、原爆を受けたことも忘れよう、忘れたいという市民感情があったのです」ー『わたしの遺書』(p202)
2013-08-17 16:09:57それでも中沢氏は、自身のリアリズムにもとづいて原爆を描くことを選んだ。連載当時も現代の同種の反響があり、中沢氏によれば、表現はあれでも改められているという。
2013-08-17 16:14:45中沢氏「『はだしのゲン』は、被爆のシーンがリアルだとよく言われますが、本当は、もっともっとリアルにかきたかったのです」ー『わたしの遺書』 http://t.co/sk9Hcv04MT #inbook
2013-08-17 16:18:27「けれど、回を追うごとに読者から『気持ち悪い』という声が出だし、ぼくは本当は心外なんだけど、読者にそっぽを向かれては意味がないと思い、かなり表現をゆるめ、極力残酷さを薄めるようにしてかきました 」(p179)
2013-08-17 16:18:48中沢氏「『はだしのゲン』の連載が始まると、漫画家仲間からも、『おまえの漫画は邪道だ。子どもにああいう残酷なものを見せるな。情操によくない』と叱責されたことがありました。」ー『わたしの遺書』 http://t.co/sk9Hcv04MT #inbook
2013-08-17 16:21:29「けれど、ぼくは『原爆をあびると、こういう姿になる』という本当のことを、子どもたちに見せなくては意味がないと思っていました。原爆の残酷さを目にすることで『こんなことは決して許してはならない』と思ってほしいのです」(p189)
2013-08-17 16:21:46まとめ
①原爆を描くことは本来、漫画家自身も本当なら目を背けたい葛藤を孕む問題。ただし『はだしのゲン』『夕凪の街 桜の国』はいずれもそうした葛藤を超えて「広島以外の人々」(作品が過激だと指摘するような人々を含む)に向けてこそ公表されている。
2013-08-17 16:24:16②今回槍玉に挙げられた『はだしのゲン』だが、実はこれまでもさんざん「過激だ」という批判を受けている。過去にどのようなやりとりがあったのかを踏まえず、作品だけを見て議論すべきではないのでは。
2013-08-17 16:24:27以上です。本当はもっと作者のインタビューや手記、当時の資料に当たる必要があるんですが、断片だけでも紹介できたらと思いました。非力ながら今回の議論に参考になるところがあればうれしいです。
2013-08-17 16:25:37