【思い出したこと】福間健二 2factory42

福間健二 @acasaazul

もうすぐ八十九歳ともうすぐ八十八歳。スミちゃんとフーちゃん。二人のことを思いながら、エコスで買ったカフェラテをすする。ビター。二〇一三年八月六日の夕方の、嵐のあとの、江戸街道。昭島、中神、立川。普通に営業している。青梅線も運転を再開した。（思い出したこと１）#2factory42

福間健二 @acasaazul

だれのための、愛のレッスン。規則性が読めそうで読めない配置で絵と数字が並ぶ通路。だれとだれが再会するのか。ホットスタッフ、本能を演じる素材のなかに革命の星座と涙を消失させる夜が、ぼくの足音をにせの深淵の二番目の見知らぬ者の足音にする。（思い出したこと２）#2factory42

福間健二 @acasaazul

あんなこと、なぜしたのだろう。アンナがまだ静かな子どもで、母が母であり、工場が工場であった時代。あんなこと。思い出した。ぼくは、何をしてもむだなような気がして、ひとつの生命体をゆっくりと時間をかけて殺した。飲みたい。夜まで我慢するけど。（思い出したこと３）#2factory42

福間健二 @acasaazul

畑の、倒れている人をそのままにして。夢のなかの言葉、「きみたちには未来がある」。何が芽を出すために、歪む空間、歪みを読む目とたたかっていたのか。光線の作用。事務室の十九世紀。ヒロインの二人も、感じのわるい受付の係員も、まだ生まれていない。（思い出したこと４）#2factory42

福間健二 @acasaazul

キス、キス、キス！ 録音された一九一三年、まだ広さのわからない宇宙。愚かなのは星座をまちがえて夢見る男たちだけじゃない。凶作の東北では娘たちが売られ、電流殺人事件の東京では「新しい女」がもう疲れだしている。リンゴは野菜じゃないんだってさ。（思い出したこと５）#2factory42

福間健二 @acasaazul

その場で得意になりたくてバカなことを言う。だれの得にもならない。魂を売り渡したい悪魔にも見放されている。こいつら、ただの出来のわるいトマト。未来の未来。二〇一三年。さっきまでおもしろい潰し方あったのに、どうするのだったかもう思い出せない。（思い出したこと６）#2factory42

福間健二 @acasaazul

棚の上の、埃をかぶった「問題」を訪ねて、ミニスカートで梯子をのぼった。そこからはじまったアンナの地獄めぐり。人間には会わなかったと言いきれるのだろうか。血とはちがうもの。汗とはちがうもの。涙とはちがうもの。その結晶化をだれに信じてもらう？（思い出したこと７）#2factory42

福間健二 @acasaazul

アンナ・Kからアンナ・Aまでの半世紀。革命の夢は消えても、にわか雨に濡れて引きしまる紐の効果はつづく。一方、年をとるにつれて密着型が優勢になる、ひとつの島に読みかえられた世界。フーちゃんの娘たちはここに。髪、ミントシャンプーでいい香りだ。（思い出したこと８）#2factory42

福間健二 @acasaazul

闇のなかの「一番きれいだったとき」の母を知らない娘たち。何を証言するのか。運命。連鎖。そこに巣くう悪い想像。泣いていても可愛い、と言わせる獲物に自分たちがなるだけだ。ストッキングをはいた足にスリッパをはいて、案内所のカウンターのうしろで。（思い出したこと９）#2factory42

福間健二 @acasaazul

思い出したこと。それをもう思い出せない。まちがったリズム。それを許すような、おだやかな顔で、フーちゃんは息をひきとったが、ひとつ年上のスミちゃんは生きている。切断と欠如をそのままに、いくつも管をつながれ、縫合されない傷を大きくしながら。（思い出したこと10）#2factory42