暫くして、医師にこれからの治療方針を訊かれた 子供達と少し相談して無理な治療はしない事に決める 治療による副作用に苦しんでまで生きるのは嫌だった できる限り苦しみたくない 僕が苦しんでいる姿をルルーシュに見せたくない 治す為の治療をやめた僕をルルーシュは少し怒った
2013-09-06 22:09:02そして、ルルーシュは今まで働いた分休むんだと、よく病室にいるようになった 増していく痛みをやわらげるために使われる薬で、眠っている事が多くなる ふわふわとした意識の中眼が覚めるとベッドの横の椅子に腰掛け本を読むルルーシュが見える 僕に気づきルルーシュが優しく微笑む
2013-09-06 22:12:15薬でも痛みが治まらず、死への恐怖が僕を苛む 理不尽にあたる僕に対してもルルーシュは優しかった 怒鳴り、食べられなくなった高価な見舞い品を投げつけたとしても、ルルーシュは怒らなかった そして、同情もしなかった ただ隣にいた
2013-09-06 22:15:32意識の混濁が激しい頻度で起きる たまに正常な思考で目覚める時がある そんな時、ルルーシュが僕の手を握っている事に気がつく 体温の低いところは昔から変わらない ふと随分と昔の事を思い出した 初めて手を繋いだ時 あれは僕がルルーシュに好きだと告げ、ルルーシュも僕を好きだと言ってくれて
2013-09-06 22:19:09初めて二人でデートをした日 張り切って計画して、人気のテーマパークへ行った 人混みではぐれて喧嘩もした 気不味い思いで、だけど乗りたくて観覧車に乗った その中で手を繋いで仲直りした もう本当に、随分前の事になってしまった 僕はルルーシュが好きだった
2013-09-06 22:21:29好きで好きで、本当に好きだったのに どうして彼と一緒の人生を送ることができなかったのだろう どうしてあの時、ルルーシュは一緒に逃げてくれなかったのだろう 思うと涙が出そうになった 実際出ていたかもしれない ルルーシュ、と掠れた声で呼ぶ もうそれが苦しい
2013-09-06 22:23:08僕の手がルルーシュの両手に包まれる 顔が近づく スザク、と僕の好きな声で僕の名前が呼ばれた もう一度ルルーシュ、と呼ぼうとした声は出す事ができなかった 口の動きだけでルルーシュに伝える 優しく髪を梳かれた
2013-09-06 22:26:29スザク、言っただろう、ずっとそばにいるって。だから俺は最期までずっとお前のそばにいるよ。 ルルーシュが言った それはあの日言われた言葉だった
2013-09-06 22:28:42初めてルルーシュの気持ちが理解できた ルルーシュはこの覚悟をもってあの日僕に結婚しろと言ったのだ どうしてそれを今まで理解できなかったのだろう ルルーシュ 僕は君に謝らなければならない 君がずっと僕を想ってくれていたのだと、僕はそれをわかっていなかった
2013-09-06 22:31:12言葉にしたい想いが沢山ある だけど頭の中が霞み、意識がなくなるのだということがわかった ルルーシュ 君がずっと僕の傍にいてくれて僕は幸せだった どれだけそれが幸福な事だったのかよくわかった この想いが君に伝わっているだろうか ルルーシュ 次に目覚めたら一番に君に伝えたいことがある
2013-09-06 22:34:51その雨の夜、尋ねてきたのはスザクの父親だった。最初は誰だかわからず、名乗られてから背筋が凍る思いを抱いた。独り暮らしの狭い家の中にあがって貰うと、まず最初に頭を下げられた。息子と別れてほしいと、土下座される。息を飲みながらすごいタイミングだな、とどこか冷静に思った。
2013-09-26 11:40:54部屋の隅には小ぶりのボストンバックが一つ。明日、それを持ってスザクと落ち合う予定だった。二人でどこかへ行こうと言ったスザクと。父親は頭を下げたままただ別れてほしいと繰り返す。会社には跡取りであるスザクが必要な事。婚約者である女性の家とは切っても切れない縁である事
2013-09-26 11:44:53その言い分はスザクと言う個人を無視した意見のように聞えた。スザクが迷いを覚えている生き方だ。それだけ言われたのだったらきっと俺は頷かなかったと思う。適当な事を言って父親を帰し、明日はスザクの元へと駆けただろう。
2013-09-26 11:46:59出会ったのはもう何年も前の事になる。まだ高校生と言う幼い時期で、お互い想いが通じ合うとは思っていなかった。最初に勇気を出したのはスザクの方だった。スザクが好きだと言ってくれて、俺も自分の気持ちを言葉にすることができた。そしてスザクは俺に知ることのなかった世界を教えてくれた。
2013-09-26 11:55:29想い、想われ、あたたかな幸福が身を包んで。最初に手を繋いだ時のことも、キスをした時のことも、体を重ねた時のこともよく覚えている。忘れるなんてできない。あれは俺の、大事な思い出だ。俺はスザクの事が信じられないほど好きだった。
2013-09-26 11:58:17スザクには夢みがちなところがあって、いつでも前を向き、まだ来ぬ未来を思い描いていた。語られる未来には俺もいた。後ろにいる俺を引っ張って、先へと連れて行ってくれる。それがスザクだった。諦めるなんてことはできない。そう決意していた。
2013-09-26 12:01:52お帰り下さい、と言おうとしたところでスザクの父親が頭を上げた。そして俺の顔を見て、スザクには普通に幸せになってほしいのだと言った。まっとうな道を。普通の人が歩く様に、結婚して働いて、子供を持って。自分もそうしてきたように、スザクにもその幸せを感じてほしいのだと。
2013-09-26 12:04:13君とではそれはできない。できないどころか、スザクの可能性を潰すだけだ。自分の息子が後ろ指を差され、人に言えないような秘密を抱えて生きて行くなんて、認めることはできない。頼む、スザクを解放してくれ。スザクと別れてくれ。それがスザクに取って幸せなのだと、言われた。
2013-09-26 12:08:38俺はその時その瞬間まで、スザクを幸せにできるのは世界で自分ただ独りだと、そう思っていた。スザクの幸福を世界で一番願っているのは自分だと。だけどそれが揺らいだ。自分と逃げることがスザクの幸せになるのか、それが本当なのか、不安を覚えた。
2013-09-26 12:10:49スザクの父親には考えさせてほしいと言い帰ってもらう。それから独りになって考えた。雨音が聞こえてくる静かな夜だった。果たして俺達は明日二人で逃げたところで、本当に幸せになれるのだろうか。何も持たず、ゼロから始めて。お互いだけを拠り所として、生きていけるのだろうか。
2013-09-26 12:13:35俺にはできる自信があった。元々家族の縁も友人の縁も薄く、独りで生きていたようなものだったから。だけどスザクは?恵まれた家庭に、友人も多い。与えられることに慣れた人生を送っている。ある意味とても普通の、幸福な生き方をしてきた。その中でスザクは今のような人間に育ち、笑っている。
2013-09-26 12:16:16