グッド・タイムズ・アー・ソー・ハード・トゥ・ファインド #6

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺は他人に何を言っても、いまいち信じてもらえないんだよな」フィルギアは低く言った。「なんならアンタが決めりゃいいぜ……殺るか、殺らないか。いつもやってきたようにさ。俺がいようがいまいが、アンタが殺すべきニンジャだと判断すれば、殺りゃあいい。だが賭けてもいい。殺る気になるぜ」22

2013-10-18 22:26:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」「奴の名はファフニール。アーチニンジャとしての名はマガツ・ニンジャだ。俺は奴を知ってる。いいか、賭けてもいい。アンタが狼狽えちまうような善良無害な聖人君子様のニンジャだったら、わざわざアンタを巻き込みやしねえさ。……この学園は奴の私物。絶対に、現在進行形で、やってる」23

2013-10-18 22:33:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは無言だ。明かりが近づいてくる。フィルギアは声を潜めた。「気持ちはわかるさ。俺が結果オーライになるのが気に入らねえんだろ?我慢しろよ。放っておいちゃ、いけないぜ……それはアンタの道理が通らない……ダメだ……んん?」フィルギアは目を見開く。「馬丁のガキだ」 24

2013-10-18 22:36:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

然り、周囲に目配せをしながら小走りにやってくるのは素朴な顔立ちの少年だった。「何てッたかな……ウイリアム、違う……ワカヤマだ、確か」鼻から上を生垣から覗かせ、フィルギアが呟く。ワカヤマは気づかない。「馬はおらんな」「当然、この雨でそんな事をするはずもなし」フィルギアは答える。25

2013-10-18 22:41:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「じゃあどうしてこんなところを歩いてる?何を探してる?どこへ向かってる……?」フィルギアはブツブツと呟く。そしてニンジャスレイヤーを見た。「俺、興味が湧いちまった。一度別れよう。アンタはホーリーシンボル係」ニンジャスレイヤーは懐から懐中時計じみたそれを取り出す。「よかろう」26

2013-10-18 22:52:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フィルギアの姿がフクロウに変わり、大きく羽ばたいて雨の中を飛び上がった。ニンジャスレイヤーはホーリーシンボルに集中した。降りかかる雨の感触をシャットアウトし、雨の音を、風の音をシャットアウトし、手の中の残留ニンジャソウルと似た痕跡を周囲から読み取ろうとする。 27

2013-10-18 22:56:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがて彼は動き出した。フクロウが滑空してきて、羽ばたきながら言った。「なんだよ、こっちかよ」「同じ方向だ」「奇遇なことで」フクロウは再び飛び上がった。ニンジャスレイヤーは草の中を身を屈め進む……。 28

2013-10-18 22:57:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

渡り廊下の窓を背に、イバラめいて強く厳しい瞳の少女はまっすぐに立ち、近づいてくるキカとユマナを見やった。両脇の取り巻き達が一瞬遅れてキカに気づいた。ヤヨイは取り巻き達を手で制し、キカの前に立った。「コンニチワ」「……コンニチワ」キカはヤヨイの凝視を受けた。 30

2013-10-18 23:09:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」「……」その場の者達みなが息を潜め、廊下が静まり返る。パラパラと雨がガラスを打つ音。やがて、ヤヨイが溜息を吐き、済まなそうに苦笑した。「やっとアイサツできた」「……」「本当は、その、もっと早くに声をかけたかったんだけど」ヤヨイは言葉を選びながら言う。「難しくて」 31

2013-10-18 23:13:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ユマナは不安げにキカとヤヨイを交互に見た。ヤヨイは窓の外を見、「今日も雨ね」と言った。「そうだね」少しの間を置いて、キカが答えた。ヤヨイは頬をやや上気させ、思わずキカの手を取った。「私のこと、もう嫌いでしょう、当然よね。私、どうしたらいいかわからなくて……わからなかったの」32

2013-10-18 23:20:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「わからない?」キカは訊き返した。ヤヨイはキカから手を離した。「そう。私、こう言うのもなんだけど、皆の方からいつも、その……フレンドリーにしてくれたから……だから、人は誰でも、大人も子供も、そうだと思ってた……皆のほうから来てくれるって。すごく思い上がっていたのね」 33

2013-10-18 23:30:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」「私、あなたの目が、綺麗だと思った。初めて見た時に。だから、傍に来て欲しかったの。他の、素敵な皆のように」ヤヨイは瞬きもせずキカを見ていた。ヤヨイは言った。「思い通りにいかないからって、私、熱くなってしまって、腹を立てて……それですごく自己嫌悪してしまって」34

2013-10-18 23:34:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キカは曖昧に相槌を打った。ヤヨイは上目遣いでキカを見た。「ゴメンナサイ。……ね。それが、言いたくて」「……」キカは鼻白んだ。なんと無邪気で、かわいらしい事だろう。この娘は、庭園でアンミが用意したパイプ椅子じみて、ぎこちない、まがいの権力ごっこに興じていたというのだろうか。35

2013-10-18 23:39:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……だが、あの時パイプ椅子を用意したアンミは、もういない。キカは目の前のヤヨイが静物画のモチーフじみて冷たく無意味に思えた。「ヤヨイ=サン」「なに?」「アンミ=サンはどうして退学したのか、何か知っている?」「アンミ=サン?」「そう」「……」ヤヨイの目が泳いだ。「わからない」 36

2013-10-18 23:43:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「急に退学したから、私、気になって」「私」ヤヨイは言葉を探し、やがて言った。「私も悲しい」「そうだね」キカは呟いた。ここで踏み込むべきではなかったかもしれない。キカは思った。その時彼女は、彼女なりに少し冷静さを欠いたのかもしれない。彼女は追求をやめた。何かがわかる。今夜には。37

2013-10-18 23:51:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フェー。笙リード音が彼女らを促す。生徒達はいつまでも廊下でダラダラしていてはならないのだ。「またね」もう一度ヤヨイはキカに笑いかけた。それからユマナに顔を近づけ、耳元で(お願いね)と囁いた。ユマナは微笑み、頷いた。ヤヨイ達が去ると、キカはユマナを促した。「行こう」 38

2013-10-18 23:59:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「キカ=サン」ユマナが言った。「ヤヨイ=サンは、アイサツしておきたかったんだって」「うん」「……寮に戻る前に、一緒に見てほしいものがあるの」「どこ?」「来て」「うん」ユマナに従いながら、キカは彼女をどう評価したものか決めあぐねていた。ユマナはもう、ナカヨシの一員なのだ。 39

2013-10-19 00:04:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お庭に行くの?」キカは訊いてみた。「そうね、そっちのほう」ユマナはキカの手を引いた。キカは考えた。ユマナに悪意の影は無い。ヤヨイはユマナを引き入れた上で、再度ナカヨシへの勧誘でも行うつもりだろうか。だとしたら随分と持って回ったやり方だ。渡り廊下から庭へ出、緑のなかを進む。40

2013-10-19 00:09:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だが、先日の拒絶と今の心境は異なっている。今ならナカヨシに誘われてみるのもよい機会かもしれない。なにしろ「儀式」の最中、礼拝堂は出入口を封鎖され、窓はカーテンで覆われ、厳重に外界から遮断されるのだという。そこで何が為されるかを確かめる為に、いっそ一員になってしまえば……「痛」41

2013-10-19 00:14:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キカは首の後ろを手で押さえた。刺すような痛みだった。痛みの方向を振り返った。視界がぼやけかける。彼女は焦点を正常に保とうとした。生垣の影から半身を出しているのは、吹き矢を構え、制服のブレザーに黒いニンジャ頭巾で覆面した女生徒の姿だった。 42

2013-10-19 00:16:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何……」震え声を発したのはユマナだ。彼女も把握しない事態が起ころうとしている?「ニンジャ……ナンデ……?」ガサガサと植え込みを掻き分け、別の女生徒が庭に入ってきた。その者もやはりブレザー制服に黒いニンジャ頭巾という出で立ち、それが誰かはわからない。手にはジュッテ。 43

2013-10-19 00:20:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイ……アイエエエエ!?」ユマナは悲鳴を上げ、後ずさった。「大丈夫」ユマナの背後からまた一人現れ、肩に手を置いた。「こういうものだから」声だけでは、それが誰なのかわからない。その者もやはりブレザー制服姿に黒いニンジャ頭巾で覆面していた。手には鎌を携えて。 44

2013-10-19 00:22:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「う……」キカは腰が砕け、両膝をついて、意識が飛ばぬようこらえるのがやっとだった。じりじりとニンジャ頭巾の生徒達は包囲網を狭める。薔薇アーチをくぐり、更に新たな二人がエントリーする。その者らもやはりニンジャ頭巾で覆面している。手にはクナイ、そしてボーだ。 45

2013-10-19 00:26:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「こっちへ」一人がユマナを引き離し、遠くへ連れて行く。ショック状態に陥ったユマナはされるがままに従った。女生徒の一人がキカの顎にジュッテを突きつけ、上を向かせた。「貴方はね……」「ヤメテ!」キカは力を振り絞り、足元の土塊をつぶてめいてその女生徒の顔に投げつけた。「ンアーッ!」46

2013-10-19 00:31:35