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NJSLYR / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
【グッド・タイムズ・アー・ソー・ハード・トゥ・ファインド】#3
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「あれは、エート、何年の事だったかな……インタビューでも彼はひどく混乱してた……本当さ。あの頃ぼくはRS誌に書いてた……本当だよ。ぼくの事はいいか。で、彼が自殺して、その後ドラムは自分のバンドを始めたね。ベースは政治家になろうとした。人生ってのは……」「センセイ」「何?」1
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「全然、先週までの授業の内容と違うんですけど」勇気を出して指摘した生徒に、ナツイ先生は笑いかける。「アー……それはね、教える人間が変わると、言葉は変わるね……そういうものだよね。生きた授業ってのをしたいよね……ぼくはね、君たちに、当時のリアルな……ウフフ……リアルな体験を」2
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「先生幾つなんですか?」からかうように別の生徒が質問した。「だって、ずっと昔の事でしょ、電子戦争よりも前!」皆、利発なのだ。「うん、そうなんだ」ナツイ先生は教壇から身を乗り出すようにして、まっすぐに見返した。生徒の顔が真っ赤になった。「時の経つのはとても早い。人は老いて死ぬ」3
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教室の約半分は、半笑いでナツイ先生の冗談を流している。もう半分の半分は熱に浮かされたようにナツイ先生を見ている。残りは困惑と警戒を……本能的な畏れの表情を浮かべ、だがそれを自覚できぬといった様子で、じっと黙って、互いに目を見交わしている。キカは、自分がそのどれに属するか考える。4
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ナツイ先生は、はなからまともな授業をするつもりがない。シオヤカ先生も随分な代役を立てた。「でもね、ロックンロールなんていう生き方はね……どうしようもない……ぼくも一時期ね……ぼくのバンドのギタリストはぼくより余程才能があった。でも彼はその後、酷い転落人生さ!お勧めしないよ」5
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「テストに出るんですか?」努力家のシチダ=サンが眼鏡を曇らせた。「テスト?」ナツイ先生は考え込んだ。「テストか……テストもぼくが作るんでしょ?出るよ、真面目な授業だよ。もっと昔のピリオドが良い?でも、教えは体験から生まれるわけでさ……ぼくが音楽に特に興味があったのはその頃で」6
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困惑組のひそひそ話はざわつきになり、赤面組の様子はいよいよのっぴきならず、震えている者もいた。そして、半数の半笑い組が徐々に赤面組に加わりつつあった。キカは考えた。ナツイ先生の授業は与太話、ただのおふざけだ。……つまりナツイ先生は授業を行いにこの学園に来たわけではないという事。7
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ただのバカな教師は、よくいる。それこそ、キカがこの学園に連れてこられるよりも前、それよりも前……昔に通っていた小学校、中学校……。そう珍しいものでもなかった。だが、ナツイ先生は彼らと違い、どこか油断がならない。ああしてにこやかにおどけていても、目の奥には弛緩も笑いもないのだ。 8
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キカは胸騒ぎを覚える。それは教室の者らの動揺とは異質のものだ。キカは雨の夜の光景を再び思い起こした。闇に光る校長の目を。そしてその十数分前、キカを部屋から外へ連れ出した感情を。同じだ。そして、キカは思った。自分は土を掘ろうとしている。棺を探ろうとしている。既に始めているのだ。 9
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この学園で、なにか良くないことが起こっている。これは探索だ。探索を通して、自分がなぜ探索を始めたのかを突き止めよう。まるで己の尾を噛もうとぐるぐる回るタイガーのようだ……。フォアー。笙リード音が廊下に響き渡る。「アー終わりだ、またね」ナツイ先生は肩をすくめた。 10
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キカはナツイ先生を見た。彼はこの学園に、授業以外の何かをしに来た。キカはそう仮定した。仮定して動いてみよう。彼女は思った。「ねえ、行こう」ユマナがキカの手を引いた。「うん」「恋人いるかな、ナツイ先生」ユマナが囁いた。「いないよ!」遠くからナツイ先生が答えた。「いつでもおいで」11
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ユマナはキカの手を引き、逃げるように教室から駆け出した。キカは一度音楽教室を振り返った。前へ視線を戻すと、そこには冷たい笑みを浮かべたヤヨイが、取り巻きを連れて立ちはだかっていた。キカはカラテ部女子の手で、ユマナからグイと引き離された。ユマナは何も言えず、その場で見送った。 12
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ヤヨイがキカを連行したのは、喉が焼けるほどの芳香で満たされたバイオ薔薇園だった。アクリルの壁と天井で覆われた空間には上品に剪定された生垣と紫、黒、青のバイオ薔薇がひしめき、外からの音と視線を妨げてしまう。「ヤヨイ=サン」カラテ部のアンミがパイプ椅子を開き、ヤヨイを座らせる。 14
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「フー」ヤヨイは脚を組んだ。「よくない椅子」「ゴメンナサイ」アンミが目を潤ませた。「役に立ちたくて」「いいのよ」ヤヨイは小さく溜息をついた。乗馬部のミマがやや緊張しながらワゴンを引いてきた。ワゴンにはポットと茶道具が載っている。ヤヨイは目を閉じ、ミマがチャを入れるのを待つ。15
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実際それは劇場じみたわざとらしいプロトコルであった。今こうしてチャを供され、ダンゴを上品に口にするヤヨイは、生垣を背に立つキカを、逃げられぬように包囲しているのだから。ヤヨイはキカをじっと見、尋ねた。「ねえ。怪我は大丈夫だった?私、心配なの。とても」「大丈夫です」とキカ。 16
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「あのとき貴方が急に」ヤヨイは残念そうに首を振る。「逃げるものだから。乱暴なんてしないわ、私。痛くなんて」「本当に大丈夫です」キカは言った。あれは咄嗟の行動だった。あの時もこうして詰め寄られたキカは、窓の下の植え込みめがけて跳んだ。ここ数日、窓から跳ぶ状況によくよく縁がある。17
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「でも私、そのとき思ったのね」ヤヨイは茶器をミマに下げさせた。「貴方、面白いなって。ね?だって笑えるじゃない……」ヤヨイはくすくす笑った。取り巻きの者達も嘲笑めいた視線をキカに投げかけた。キカは呟いた。「そうですか」「貴方は私の手元に置いたほうが面白いって気づいたの、その時」18
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キカは無表情だった。その瞼が少し、ひくついた。ヤヨイはパイプ椅子から立ち上がった。そしてキカの頬に手を当て、囁いた。「貴方、ナカヨシの一員にしてあげる。末席に加えてあげる。とても素敵なことなのよ、それは。ワカル?貴方には知らないことがいっぱいある。この学園の……社会の仕組み」19
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「ナカヨシ?」「そう。とても歴史あるソサイエティなの。この学園の実質……」ヤヨイの言葉は遮られた。頬に触れる手をキカが掴み、グイと退けたからだ。その瞬間のヤヨイの目は、ガラス玉のようだった。驚きに目を見張る彼女は、きっと、こんな拒絶を受けた経験が生涯無かったのだ。 20
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一方、その瞬間のキカはどんな表情をしていたのだろう。キカはすぐにヤヨイから目をそらした。殆ど我に返るように、己自身の決断的な拒絶にやや驚き、それから、ヤヨイの手首を掴む自分の手を見つめた。「……」キカは手を離した。「アナヤ!」アンミが叫び、キカの頬を横から平手で張った。 21
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キカは地に膝をついた。ヤヨイの反応は激烈だった。瞬時に最大まで燃えあがった憎悪と怒りの目でアンミを睨みつけ、力任せに頬を張った。「アナヤ!」「ンアーッ!」アンミは悲鳴を上げ、尻もちをついた。カラテ部のアンミは凛として美しい少女であったが、その泣き顔は悲哀と屈辱に歪んでいた。22
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ヨノコとミマがおずおずとアンミを助け起こす。皆がヤヨイを見た。「差し出がましい!」ヤヨイは言い捨て、荒い息をつく。「ゴメンナサイ!許してください!」アンミは嗚咽した。「私はね?」ヤヨイは震え声で呟き、今一度キカを見た。「私は学園の筆頭者で、ナカヨシのグランドマスターなのよ?」23
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「要らない」キカは小声で言った。「どうして?」ヤヨイは地に膝つくキカを見、ほとんど縋るように問うた。キカはヤヨイを見上げた。そして答えた。「わたし、こんな事している場合じゃない」「……!」ヤヨイは言葉を失い、その目には見る見るうちに涙が溢れだした。24
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コメント

オスツ🍣 @alohakun 2013年10月14日
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