グッド・タイムズ・アー・ソー・ハード・トゥ・ファインド #7

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヒヨ・コモノミが奈落穴に飛び降りるさまを、キカは瞬きひとつせず見つめていた。縄を解かれると、ヒヨは自らの意志で、ナカヨシ達に見守られる中、歩を進め、躊躇ったのちに飛び降りたのだ。奈落穴から微かに叫び声が尾を引いた。そして静寂。「カラダニキヲツケテネ」ヤヨイが言った。 26

2013-10-21 21:20:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヒヨにはナカヨシとして至らぬ行いがあり、その汚点を濯ぐ為に殉教した。とにかく、キカが見せられた今しがたのやり取りをまとめると、そういう事だった。キカにはその理由とやらがまるでわからなかった。ナカヨシ達はニンジャ頭巾の奥から冷たい視線をヒヨに投げかけ、ヒヨは泣きながら納得した。27

2013-10-21 21:27:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

後ろ手と両足首。キカの拘束は解かれていない。それが解かれるのは奈落穴へ向かう死の歩みに際してだろう。否、キカには自ら歩いて死ぬつもりはなかったから、この拘束は解かれぬまま、このナカヨシ達の手で投げ捨てられるのかもしれない。 28

2013-10-21 21:32:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

礼拝堂に集まったのは数十人。三学年全体から、この人数。厳かで不気味な集会を、ステンドグラスを背にした聖像が見下ろしている。頭にはニンジャ頭巾。まるでタチの悪い悪戯だ。「今日はもう一人います。キカ・ヤナエ=サンです」ヤヨイは手にしたダイヤモンドの杖で、キカを指し示す。 29

2013-10-21 21:42:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

聖像の足元に四角い奈落穴が口を開けている。大仰な仕掛けだ。普段は閉じられて、床と見分けがつかない。「まず、反省の弁を述べる気はありますか?あれば、述べなさい」ヤヨイは命じた。「反省?」キカは呟いた。ナカヨシ達はキカを見ながら囁き合う。 30

2013-10-21 21:55:58
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「私達には本来、互いをリスペクトし、助け合う、そうした美徳が備わっている筈です。ユウジョウです」ヤヨイは言った。「貴方はそれをたやすく蔑ろにし、踏みにじる。胸に手を当てて考えて。あら、縛られているから無理ね。ゴメンナサイ」ヤヨイの瞼がひくついた。「貴方は私を拒絶しました」31

2013-10-21 22:09:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」「キカ=サンは、ナカヨシへの誘いを無碍に断りました。私が……私が、」ヤヨイが涙を拭った。「私がキカ=サンを誘ったのに、侮辱です」ナカヨシ達がざわついた。傲慢!不穏的!といった非難の言葉が口々に発せられた。キカは無表情だった。その時の彼女の瞳はガラスめいていただろう。32

2013-10-21 22:17:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それで?」キカは自分の声を聞いた。震え声だった。彼女は震えながら、せせら笑おうとした。「だから、穴に落ちろっていうの?そうやって、嫌いになった人を決めて、こんな集まりを開いて、ナカヨシ……ユウジョウ……ずっとそうして来たの?」「……」ヤヨイは眉根を寄せた。「何が言いたいの」33

2013-10-21 22:24:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「バカみたい」キカは言った。真正面のヤヨイを見た。ヤヨイは己を守るように腕組みした。キカは言った。「昔の先輩達がこういう事をして、その前の先輩達がこういう事をして、今は貴方達。あれをした、これをしなかった、そんな事を責める為に、そんな格好で集まって、裁判みたいな事をして?」34

2013-10-21 22:33:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「な……何を言って」ヤヨイはよろめいた。ナカヨシの一人が支えた。「ナカヨシは歴史あるソサイエティ……あなた何を言っているか、わか」「うるさいッ!」キカは叫んだ。両脇のナカヨシがびくりとして後ずさった。「わたしは……わたしは!生きてるんだ!一生懸命!生きているンだッ!」35

2013-10-21 22:41:15
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ヤヨイは「あ、あなたが悪いんじゃない!あなたが私の……」「お前の事なンか、知るかッ!」キカは叫んだ。空気が震えるほどの叫びだった。「私の邪魔を!するな!」礼拝堂が静まり返った。ヤヨイはブルブルと震え出した。それから笑い出した。「それなら、おしまい!皆そいつを引きずれ!」 36

2013-10-21 22:47:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウ……」ナカヨシ達は互いに目を見交わし、一瞬、ためらった。ヤヨイがもう一度命じた。「そいつを引きずれ!奈落に落とせ!秩序とユウジョウの敵だ!」「ウ……」「ウワアアーッ!」ナカヨシ達が武器を振り上げ、縛られたキカのもとへ殺到した。その時、キカの主観時間は泥のように鈍化した。 37

2013-10-21 22:51:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

躊躇を捨てた時、彼女は全てを悟った。あの夜、近くに感じたニンジャアトモスフィアを追って飛び出したのは何故か。そこで見た光景に何故ああまで執拗に食らいついたのか。逃したくなかったのだ。彼女は期待したのだ。期待を自覚する事は恐ろしかった。自覚しないよう抑えて来た。でももう、いい。38

2013-10-21 22:57:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キカの脳裏に、塀の裂け目から覗き見た外の世界が閃く。それからヤナエ夫妻の優しい微笑みが。夫妻は名前をくれた。そしてキカを心配するユマナ。ユマナはこのニンジャ頭巾の集団の中にいるだろうか。それももう、いい。キカにはわかった。連れて行くのはニンジャではない。自分がニンジャなのだ。39

2013-10-21 23:04:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

あの日のジゴク、あの日の落下、あの日彼女を護る獣は彼女を受け止め、瓦礫の上に血と肉を撒いて死んだ。そのとき彼女は何もかも失った。そんな彼女を救ったのはヤナエ夫妻だ。だから彼女は奥ゆかしく生きようとした。でも、もういい。連れて行くのはニンジャではない。ニンジャは自分自身なのだ。40

2013-10-21 23:12:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニンジャ!ナカヨシ!」鈍化していた主観時間が解凍され、ナカヨシ達が襲いかかる。キカの胸に怒りが湧き上がる。自分を邪魔する者達。ヤヨイは杖でキカを指し示す。ヤヨイはキカを罵っている。キカには聴こえない。キカはヤヨイの頭上に新たな不可視の獣を出現させた。獣はヤヨイを喰い殺した。41

2013-10-21 23:18:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

不可視の獣はヤヨイをバラバラに引き裂き、その場に撒き散らした。あまりのことに、逃げ惑う事すら忘れてナカヨシ達が佇み、見守る中、彼女はゆっくりと近づいてくる獣に向かってアイサツした。「ドーモ。アズールです」不可視の獣は吠え声をあげ、アズールを害する敵達に躍りかかった。 42

2013-10-21 23:23:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「GRRRRRRR!」「アイエエエエ!?」「アイエエエエ!?」「ア、アイエエエエ!」「ニンジャ様!助けて、アバーッ!」「GRRRRRR!」アズールの拘束が引きちぎれた。彼女は頬に撥ねた血を指で払いのけた。奈落穴から不気味な地響きじみた音が鳴り、次の瞬間、炎が溢れ出た。 43

2013-10-21 23:33:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【グッド・タイムズ・アー・ソー・ハード・トゥ・ファインド】 #7 終わり。最終セクション #8 に続く

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