リヴィング・ウェル・イズ・ザ・ベスト・リヴェンジ #1

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……「オモチ、魚、シチュー」「骨は返してね」「ズルイぞ!」ドラム缶焚き火のそばでは、実際、幾つかのテントからうまそうな匂いが漂い、どこから集まってきたものか、数十人の人々がトークンをやりとりしていた。テントには「利息が非常に少ないボランティア炊き出しです」と書かれている。23

2013-10-30 00:51:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「鉄の含有率が高いだろ」「そうでもねえな」集めてきたスクラップをゴザの上でやりとりしている集団がいる。質のいいガラクタをトークンと交換し、日々の生計を立てるのだろう。物々交換でも良いようだ。「ぼんやりしてねえで、品を出せ」市場の男が言った。フジキドは取り扱い品にタバコを探す。24

2013-10-30 00:58:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「勝手に見るのは禁止!先に品を出……」市場の男がフジキドの顔を覗き込むように睨む。その額に脂汗が伝う。「品です、頼みます。そんな風にしてもね、ダメですよ。ヤクザを呼びます」「タバコはあるか」「品」市場の男が乞うように言った。フジキドはベルトに吊るしたフックロープを思い出した。25

2013-10-30 01:03:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それ、どうですか」市場の男が神妙に言った。「鋼鉄とかカーボンっぽさがあるんじゃないですか、それは」「……」フジキドは首を振った。「ダメだ」「トークンを20枚出してもいい」「……」フジキドは沈思黙考した。タバコ?そもそもが、ふざけた話だ。あの者に馬鹿正直に従う必要などない。26

2013-10-30 01:09:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……よかろう」「毎度」フジキドはしかし、フックロープを差し出し、トークンを受け取ったのである。彼は流浪の果てに最後の品を切り売りする多重債務者めいていたろうか?ヤバレカバレの行動であったろうか?それとも……?彼の眼差しを受けた市場男はしずかに失禁した。「そこのタバコもくれ」27

2013-10-30 01:15:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエ……アイエエエ……」「ドーモ」フジキドはタバコを懐にしまい、炊き出しテントではオモチを数個、残りのトークンは使わずにおいた。そして、つえを付き付き、あいも変わらずマスター・ヴォーパルがサイボーグ競馬放送を見ているであろう荒屋への帰途についた。 28

2013-10-30 01:17:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なンだ、もう戻って来……」マスター・ヴォーパルはフジキドが放ったタバコを受け止めた。銘柄は「松の実」。「気に入らねえな。もっとヘヴィなやつをくれよ。茶色い粘土みてえな痰が湧いてくるやつを!」「ならば返してもらう」「当然いただく。どこで手に入れた」「市場だ」「市場で盗んだか」29

2013-10-30 22:19:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「債務に関係しない話だ」「チュッ!チュッ!」マスター・ヴォーパルは舌をうるさく鳴らし、早速タバコを吸い始めた。「身軽になったんじゃねえか?俺のニンジャ洞察力は誤魔化せんぞ」フジキドは部屋を横切り、木の台に腰を下ろした。サイボーグ競馬がCMを挟み、短いニュースに切り替わる。 30

2013-10-30 22:22:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「国境沿いの非武装市民を一掃すべく、キョート軍はカロウシ系のガスを重点配備しているとの情報がリーク。当然これは許されざる非人道的行為であり、真実であれば……」「なんだ!それは!」老人はフジキドが懐から出した二つの白く丸い物体を見咎めた。フジキドは答えた。「モチだが」 31

2013-10-30 22:29:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「フゥーム。なかなかわかっておる奴だな」「欲しいのか?」フジキドはしかめ面で尋ねた。「債務に関係しない買い物だ。二つとも私の食料だが」「上等だ、ヒーターを使わせんぞ!」「……」二者は睨み合った。 32

2013-10-30 22:33:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……赤熱するヒーターの上で、二つのモチがキノコめいたフォルムに膨れ上がる。「焦げるぞ!」老人が咎めた。フジキドは自分の分を皿に取り、ショーユをつけて食べ始める。SPIT!老人は口をすぼめてタバコを勢い良く飛ばした。焼き網にタバコがぶつかり、もう一つのモチが宙を飛んだ。33

2013-10-30 22:40:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マスター・ヴォーパルは自分めがけ飛来したモチを素手で掴んだ。熱がる素振りも見せず、クチャクチャと食べ始める。コンロや調味料とバーターで、モチの一つをフジキドからせしめた訳だ。「で、お前を何故助けたかって話だろ?わかってる!わかってる。当然、カネヅルよ。だがそれだけじゃねえぞ」34

2013-10-30 22:44:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オヌシの名を耳にした事がある」フジキドは低く言った。「敵の口からだ」マスター・ヴォーパルはモチを咀嚼する。「ハ!ワシは弟子に慕われておるからな。そりゃァ、名を出すのも当然よ。どっちのガキだ。バジリスクか。ニーズヘグか」「……」フジキドの目が細まった。 35

2013-10-30 22:50:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「私がその者らと戦った事を何故知っている?」「だからよォ!黙って聞いてりゃあ、いいか?黙ってお前が俺の話をハイハイ頷いて聞いてりゃあよ、話の流れはそっちの説明に行くはずだったんだ!礼儀を知らぬバカは年長者のありがてえ話を遮ってはばからねえ!まずその無礼が問題だ!」36

2013-10-30 22:56:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

老人は咳き込み、地面に転がる酒瓶をあおって喉を湿すと、話を続けた。「俺様のニンジャ地獄耳をナメるなよ。俺はフジサンの麓の樹海にドージョーを持ってる。樹海を久々に出てみりゃ、まずはザイバツ・シャドーギルドがなくなっちまった話よ。そこからバジリスクの死!誰が殺った?テメエときた」37

2013-10-30 23:08:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「仇討ちのイクサをしたいか」フジキドは睨んだ。老人は首を掻いてアクビをした。「知るかよ!弟子のイクサに師がケチをつけて回ったらメンツが立たねえだろうが。ドラゴン・ドージョーの小僧っ子!問題はそこじゃねえ」ビーチチェアから身を乗り出し、人差し指を突きつける。「弱すぎる!」 38

2013-10-30 23:14:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「経済的な観点からいいますと、かなり市民生活へのポジティブな還元があります」空気を読まぬテレビ放送が二人の会話を遮った。「現状、悲観すべき要素は驚くほど少ない」「コメント有難うございます、キンノ=サン」「例えばコケシマートは開戦セールによって昨年同一クォーターの1.8倍……」39

2013-10-30 23:19:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

老人はリモコンを取り、テレビを消した。「戦争だ。感想はどうだ」「……」フジキドは睨み返した。マスター・ヴォーパルは続けた。「お前のせいじゃねえ。ア?慰めてるンじゃねえぞ、逆だ!最悪だッて言いたいんだ!戦争が起きてしまったァー!自分のせいでェー!」ベロベロと舌を出し挑発! 40

2013-10-30 23:28:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺のニンジャ地獄耳はチベット仕込みよ……ま、チベットの話は今はいい。とにかく俺はあの日、お前の念話を当然立ち聞きさせてもらった。ニンジャを殺すのはヒドイ!一生懸命生きている!完全なるブルシット!お前はあんな今更のブルシットに?ア?動揺してションベンちびって殴られたッてか!」41

2013-10-30 23:34:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドはマスター・ヴォーパルを凝視!「アイエッ!」老人は飛び上がり、光る短剣を構えた。「手は出すな!貴様!俺にそれは許さん。債権があるんだ!」「続けろ」「続けてください、だ」老人はふてぶてしさを一瞬で取り戻して言った。フジキドは眉間に血管を浮き上がらせた。「続けてください」42

2013-10-30 23:42:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そうよなァー」マスター・ヴォーパルはビーチチェアの肘置きの上でソンキョし、タバコの煙を吐いた。「そのザマを目の当たりにしたこの俺の気持の持って行きどころはどこだ?俺様のドージョーの沽券にも関わるンだ。ヴォーパルの弟子を破ったニンジャがこんな弱体者と噂が立てば名誉毀損だぞ!」43

2013-10-30 23:52:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」「そこでだ」マスター・ヴォーパルの目が光った。「俺はお前を預かることに決めた。俺はお前の株の100%を取得した株主だ。俺の経営健全化策を拒否する権利は、お前にはない。インストラクションを受けよ。わかったかアプレンティス!」「……」「ワカッタカ!バカ!」 44

2013-10-31 00:09:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドは……頷いた。ヴォーパルは睨んだままだ。フジキドは立ち上がった。そしてオジギをした。「ドーゾヨロシク」「グッド」老人は無愛想に頷いた。この時のフジキドに、「バカハドッチダー!」と叫び返し、憤怒の拳でこの無礼な老人を殴り倒す意志はあったろうか?彼はいやいや頷いたか?否。45

2013-10-31 00:12:48