リヴィング・ウェル・イズ・ザ・ベスト・リヴェンジ #3
◆「イクサの動機を言え!」「復讐だ!」フジキドは即答した。師は遮った。「ニンジャを殺す!妻子を殺めたニンジャの邪悪を滅ぼす」「そうだ」「勝手な動機だ!かわいそうなニンジャ共!」老人は目を剥いた。フジキドは師を見た。「イヤーッ!」師は舌打ちし、フジキドの頬を張った。「グワーッ!」◆
2013-11-05 22:01:07◆「バカめ!なんだその遅さ!ヌルさは!」師は瞬時に立ち上がり、チャブを踏みしめた。「綺麗事は臆病者に任せとけ!復讐!手前勝手な復讐!それで最初から……」フジキドの胸元を掴み、引きずり上げた。「戦うにゃそれで十分だろうがッ!」◆
2013-11-05 22:02:34◆フジキドは無言!だが師を凝視する彼の目に揺らぎはない!師は掴んだ手を離し、続けた。「カラテとは要はエゴよ。エゴの強い方が勝つ。テメエの行いが正しいか?間違いか?そんなものは一片たりともカラテに、エゴに関係無し!良心に媚びて聖人認定が欲しいか?イクサに勝つのか?望みを言え!」◆
2013-11-05 22:05:10「そンなら、実際その通りにするだけだ」師は言った。「お前はわかっちゃいるが、実際こんがらがってンだぜ。ニンジャを殺すんだろ?ア?」師は心臓を親指で示した。「ほれ。ここにニンジャが一匹いるぜ。なんで殺さない。差別か」フジキドは師を見た。「イヤーッ!」師の張り手が飛ぶ! 1
2013-11-05 22:10:51「イヤーッ!」だが、今度はフジキドの反応速度は鈍らなかった。彼は顔の横で師の手首を掴んで止めた。「グッド」師はにこりとも笑わず、彼を肯定した。「ちっとはわかったか。入り口だぞ、それが。お前の意志はお前の中にある。お前の善悪を決めるのはお前自身だ。外にルールを置くな。置けば」 2
2013-11-05 22:13:50マスター・ヴォーパルは人差指と中指で、フジキドの眉間を突いた。「置けば、遅れる。お前はわかっちゃいる。わかっちゃいるが、ヌルい。こんがらがって、ヌルくなっちまってる」「……」「それこそアマクダリの詭弁野郎どもの思うツボよ。詭弁裁判に絡め取られて、イクサに負ければ世話はねえ」 3
2013-11-05 22:18:05師はコメをかきこんだ。「クチャクチャ……くだらねえジツ攻撃!私は何も悪いことはしていないんです!非ニンジャと同じです!暮らしています!権利があります!ブルシット!全くもって詭弁、ブルシットだ。そんな議論に付き合うお前の情けなさ!お前は言い訳の為にイクサしているのか?エエッ?」 4
2013-11-05 22:33:30老人はボリボリと音を立てて成形ツケモノを噛んだ。「状況判断が足りてねえんだ、状況判断が。窮屈な事してッから。テメエで好きにやりゃいいんだ。まずはそこからだ。この小市民サラリマンめが」フジキドは再び座り、アグラした。「返す言葉もねえだろう」「……」フジキドはチャを飲んだ。 5
2013-11-05 22:41:22「私を調べたか?」「図星か?サラリマン」師は睨んだ。「飯を食って寝て働いて飯を食って寝る、お前のルーチンを多少観察すりゃァな、まさにサラリマンよ」フジキドは師を凝視した。師は手を振り、「いや、いい!バカンスしろなんて言わねえ!どうせマジメにバカンスするだけだ、碌な事にならねえ」6
2013-11-05 22:48:41フジキドは息を吐き、妻子を動物園や牧場に連れて行った事を思った。そしてマルノウチ・スゴイタカイビル……。「家族の事か?図星か」とすかさずマスター・ヴォーパル、「やめろ、メソメソされても手に余る」「センセイはどうだ」「俺に質問するんじゃねェよ」 7
2013-11-05 23:03:54老人は楊枝で歯をせせった。「飽きたら棄てる。欲しくなったらまた作る。そんなもんだ、家族や弟子なんてものはよ」「……見解の相違としておこう」フジキドは食器を下げ始めた。 8
2013-11-05 23:11:09タマ・リバー上流。開発途中で廃棄されたベッドタウン建設予定地の鉄骨の連なりの奥に、彼の目指す場所はある。繰り返し引き起こされた土砂災害の爪痕によって周囲の様相は凄まじい。断崖に穿たれた裂け目は人為的なものか、自然物か。それがタイガー・シュラインの入り口であった。 10
2013-11-05 23:26:15マスター・ヴォーパルがフジキドをこの地へ遣ったのは、彼の言うところの「精神鍛錬」の為だ。身体を横向けねば進んでいかれぬほど狭いクレバスを進んだ先で、闇が開けた。フジキドはマッチを擦った。そこはタタミ20枚程、意外にも大きな空間である。いや……修行内容が真実ならば、やや狭いか。11
2013-11-05 23:35:38彼はマッチの火を、空洞の壁沿いに張り付く無数の蝋燭に移して行く。この隠し修行場を用いた先人が遺したものだ。空洞は揺らめく明かりに照らされ、奥に鎮座するビヨンボ(訳注:屏風)を浮かび上がらせた。朽ちかかったビヨンボに金の絵の具で描かれているのは、竹林のタイガーであった。 12
2013-11-05 23:39:51ビヨンボはかなり大きく、タイガーはフジキドの背丈よりも大きい。揺らめく明かりが影を動かし、修行準備を行うフジキドを目で追うかのようだ。フジキドは赤黒装束の懐から小さな香炉を取り出し、ビヨンボの前に置いた。さらに、懐から黒いヨーカンめいた物質を取り出し、砕いて、香炉に納めた。 13
2013-11-05 23:51:33フジキドはマッチをもう一摺り。火を投じる。煙が立ち上り、独特の臭気が洞窟の中を満たす……。(無駄にするなよ。ただのハッパじゃねえんだからな。今日び調達困難なシロモノよ)師は出立するフジキドに言って聞かせた。「当然これもお前のツケになるわけだがな!」声?いや、記憶だ。幻聴か。14
2013-11-05 23:57:19これは古事記にも残された由緒正しきザゼン修行だ。洞窟で香木を焚き、ビヨンボに描かれたタイガーを出現せしめ、これを倒す。フジキドはアグラした。「スゥーッ……ハァーッ……」やがてオレンジの単色だった洞窟の壁は、エコー・エフェクトがかかった音像めいて、にじみ、ぼやけ始める。15
2013-11-06 00:06:10虎よ、虎よ。汝の恐ろしき美を……定めしは……いかなるワザの持ち主か……「GRRRRR」前足が、そして鼻が、牙が、眼が、ビヨンボから抜け出し、アグラするフジキドを値踏みするかのように確かめる……その周囲を、座して、あるいは身を乗り出して、無数のニンジャ達が見物している……。 16
2013-11-06 00:19:49「まだだ……まだだ」フジキドは呟く。炎の中でニンジャ達がフジキドを見つめる。噎せ返るように濃厚な、ミルクめいた空気。砕いたインゴット……黄金……黄金のタイガーはビヨンボから完全に抜けだした。そしてフジキドの周囲を回り始める。タイガーは炎にとけ、フジキドの周囲を渦巻く……。 17
2013-11-06 00:28:33(((殺すべし……))) (((ニンジャ))) (((ニンジャ殺すべし))) (ニンジャ)「ニンジャ」「ニンジャ殺すべし」遠くから届く残響はフジキドのニューロンを塗り潰し、渦巻く炎の勢いはいよいよ強く、周囲のニンジャ達はその眼を爛々と輝かせる……!「ニンジャ殺すべし!」 18
2013-11-06 00:32:48「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは立ち上がった。金色の炎が色彩を洗い流す。彼が立っているのは墨絵めいたモノクロームの地平。不毛の荒野だった。それでいて彼はどこかおぼつかない心持ちだった。確かに彼の足の下には墨絵めいた地面がある。だが、重力……然り、重力を感じないのだ。 19
2013-11-06 00:36:27彼は天地を見渡した。ナラク・ニンジャの眼を通して。己自身の、否、ナラク…ニンジャの息遣いを……鼓動を……漲る邪悪なカラテを。彼は自らの意志によって、サップーケイ空間へ再びエントリーしたのだ。 20
2013-11-06 00:40:10