走れ!提督

付帯状況が夜中にE-2-1のエリート雷巡が強い余りに書きだしたら完走してた小説っぽいなにかです。
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付帯 @kudan6066

歓迎会は、真昼に行われた。能代の、呉への着任が済んだころ、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。参加していた艦娘たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、気持を引きたて、狭い鎮守府で、陽気に歌を歌い手を打った。メロスも同様であった。

2013-11-12 01:04:56
付帯 @kudan6066

付帯はこのままでいたいと思ったが、残してきた彼女が気がかりであった。宴もたけなわになる中、能代に歩み寄り言うことには「お前はもう良い仲間がいる、私は大切な用事があるので抜けるがそれでも平気だろう。お前の提督が許せないのは人を疑うこと、嘘をつくことだ。これからその証明をするのだ。」

2013-11-12 01:10:17
付帯 @kudan6066

付帯は笑って愛娘たちにも会釈して、宴席から立ち去り、執務室で死んだように深く眠った。眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である、いかん、寝過ごしたかと思ったが約束の時間までまだ間に合う。今日は是非とも、あの艦に、人の信実の存するところを見せてやろう。そうして笑って姿を見えてやる。

2013-11-12 01:13:07
付帯 @kudan6066

付帯は、悠々と身仕度をはじめた。雨も、いくぶんかは小降りになっている様子である。身仕度は出来た。さて、私は、海軍刀の柄をぎゅっと握りしめ、雨中、信頼できる艦娘たちと航海に出た。

2013-11-12 01:14:40
付帯 @kudan6066

私は、今宵、殺される。殺される為に探すのだ。身代りの電を救う為、能代の為に探すのだ。艦の人間に対する不信を打ち破る為に探すのだ。探さなければならぬ。そうして、私は殺される。死ぬ時であれ名誉を守れ。さらば、終の住処。若い提督は、つらかった。

2013-11-12 01:17:04
付帯 @kudan6066

幾度か魔が差しそうにになった。甘美な悪徳を殺した。港を出て、E-2を横切り、分岐点をくぐり抜け、ボスに着いた頃には、雨も止み、日は高く昇ってそろそろ暑くなって来た。付帯は額の汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはやあそこへの未練は無い。妹たちは、きっと佳い姉妹になるだろう。

2013-11-12 01:19:08
付帯 @kudan6066

私には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。探し回ってに阿賀野にさえ迎えられれば、それでよいのだ。そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくりいこう、と持ちまえの呑気さを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。往復、二往復行き、そろそろ見つかるかと思っていた頃、降ってわいた災難であった。

2013-11-12 01:23:52
付帯 @kudan6066

資材の枯渇に始まり、高速修復材、いわゆるバケツが消耗し、中には古く使えないものも多く出てきたのだ。加えて艦娘たちの疲労も上がり、父子のような関係とは言えど、普段優しい彼女らからも進撃に対し紛糾の声があがり始めた。この時、すでに最終日、約束の刻限が迫っていた。

2013-11-12 01:27:25
付帯 @kudan6066

もういっそ、悪徳を為した者と、いやそれ以上の誹りを受けようとも私は生きていられればいいのではないか。何も駆逐一人のために何もかも投げ打つことはないではないか。瞼の重さに耐えきれずまどろんでしまった。その時ふと、遠征終了の鐘が耳に届いた。

2013-11-12 01:33:30
付帯 @kudan6066

わずかながら希望が生れた。義務遂行の希望である。わが身を殺して、名誉を守る希望である。斜陽は赤い光を、海原の水面を、燃えるばかりに輝かせている。日没までには、まだ間がある。私を、待っている人があるのだ。少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。私は、信じられている。

2013-11-12 01:36:34
付帯 @kudan6066

私の命なぞは、問題ではない。死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ。待っていてくれ、電。私は信頼されている。私は信頼されている。先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。

2013-11-12 01:37:52
付帯 @kudan6066

愛娘たちのおかげでまだ走ることができる、ありがたい。彼女らの疑っているような提督ではない、私は彼らの汚名をも返上して死ぬことができる。日が沈む、暮れなずんでいてくれと、私を正直者のまま死なせてくれと出会う深海棲艦を押し退けて進む。遠くに斜陽に光る栗色が見える。

2013-11-12 01:41:05
付帯 @kudan6066

「ああ、提督。」うめくような声が、傍から聞こえた。「何だ龍田。」付帯は旗艦に尋ねた。 「もう、間に合いません。」その龍田は、走りながら叫んだ。「もう、駄目です。無駄です、あの子を助けることはできません。」「まだ日は沈んでいない。」

2013-11-12 01:45:56
付帯 @kudan6066

「ちょうど今、あの子が雷撃処分になるところです。ああ、あなたは遅かった。恨みますよ。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」「いや、まだ陽は沈まない。」付帯は胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。走るより他は無い。

2013-11-12 01:49:54
付帯 @kudan6066

「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまは提督のお命が大事です。あの子は、提督を信じていました。人質に引き出されても、平気でいました。深海棲艦が、さんざんあの子をからかっても、司令官さんは来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけている様子でした。」

2013-11-12 01:51:26
付帯 @kudan6066

「それだから、走るんだ。信じられているから走るんだ。間に合う、間に合わないは問題でない。人の命も問題でないんだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っている。ついて来い龍田。」「気が狂いましたか。それでは、うんと走るといい。ひょっとしたら、間に合わないものでもない。」

2013-11-12 01:52:50
付帯 @kudan6066

言うには及ぶ。まだ陽は沈まない。最後の死力を尽して、付帯は走った。付帯の頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、付帯は刑場に突入した。間に合った。

2013-11-12 01:53:55
付帯 @kudan6066

「待て。その子を殺すな。私が戻って来た。約束通り、いま、帰って来た。」と大声で港の艦衆にむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれて嗄れた声が幽かに出たばかり、艦衆は、一隻として私の到着に気がつかない。

2013-11-12 01:55:25
付帯 @kudan6066

すでに火器管制の安全装置が外され、係留網で繋がれた電も、徐々に照準が合っていく。付帯はそれを目にして最後の勇、艦衆を掻きわけ、掻きわけ、 「私だ、姫!チ級!殺されるのは、私だ。呉の付帯だ。彼女を人質にした私は、ここにいる!」

2013-11-12 01:57:40
付帯 @kudan6066

かすれた声で精一ぱいに叫びながら、埠頭に寄せ、繋がれていた友の縄を斬った。艦衆は、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。電の縄は、断たれたである。

2013-11-12 01:59:04
付帯 @kudan6066

「電。」付帯は海軍帽子を目深に被り震えた声で言った。「私を殴れ。力一杯頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君がもし私を殴ってくれなかったら、私は君を取り戻す資格さえ無いのだ。殴れ。」電は、すべてを察した様子で首肯し、港に鳴り響くほど音高く付帯の右頬を殴った。「なのです!」

2013-11-12 02:01:26
付帯 @kudan6066

「司令官さん、私を許してください。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと貴方を疑いました。着任してから、はじめて貴方を疑った。司令官さんが私を許してくれなければ、私は司令官さんの横には立てません。」司令は彼女を撫でることで全てを許した。

2013-11-12 02:03:27
付帯 @kudan6066

「ありがとう(なのです)。」二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。艦衆の中からも、歔欷の声が聞えた。その主チ級は、艦衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、こう言った。

2013-11-12 02:04:48
付帯 @kudan6066

「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらは、私たちの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、私たちをも仲間に入れてくれないか。どうか、私の願いを聞き入れて、貴方達の仲間の一人にしてほしい。」どっと艦衆の間に、歓声が起った。

2013-11-12 02:05:45
付帯 @kudan6066

一隻の空母が、黒のマントを提督に捧げた。彼は、いぶかしんだ。佳き友は、気をきかせて教えてやった。 「司令官さん、その、服が汚れているのです。早くそのマントを着てください。この方は、司令官さんが汚れたまま皆に見られるのが、たまらなく口惜しいそうなのです。」提督は、ひどく赤面した。

2013-11-12 02:08:14