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hakutakutei129
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気が付いたら微睡んで仕舞つてゐた。 何だかフワフワとした柔らかい夢の淵から私の意識は現実に引き戻された。 身を起こせば、窓の外では雪がちらついて居り、然う遠くない所に陸地の影が見えた。 #金剛改弐記念短篇掌説
2013-11-16 23:30:11![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
司令官たる身分故に受けられる恩恵で有る所の艦内暖房も将官公室の隅に有る電気ヒーターも其の職務を全うしてゐたが、若し然うで無ければ外の凍れる冷気は分厚い舷窓のガラスを透して、セーターの上に着込んだリーファージャケットをも貫いてゐたに違ひない。#金剛改弐記念短篇掌説
2013-11-16 23:30:50![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
此度の大改装を終えた此の戰艦金剛は公試の後、今当に母港たる舞鶴へ還らんとしてゐる。実のところ、極めて平穏な航海である―#金剛改弐記念短篇掌説
2013-11-16 23:32:12![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
艦橋トップの前檣に据えられた対空電探と主檣の対水上電探―此れは射撃用も兼ねる―は引切り無しに回転し凡そ90マイルもの先まで目を光らせてゐるが、また艦首水線下で耳を澄ませるアスディックも、いまだ何の脅威の触接をも得ては居なかつた。#金剛改弐記念短篇掌説
2013-11-16 23:32:55![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
つまるところ―目下最大の敵は此の如何ともし難い寒さであつた。 冷暖房の新設された士官居住区は未だ良い。ところが更新された艦橋の見張所で当直に就いてゐるであらう見張員は如何な心持であらうか。#金剛改弐記念短篇掌説
2013-11-16 23:33:42![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
ましてこの舞鶴ですら斯うなのだ、温暖なポーツマスやクライドならまだしも北海に面するスカパ・フロー(いずれも英国海軍の主要基地。特にポーツマスは舞鶴の姉妹都市に当たる)ではどれ程・・・・・・。いや、錨地は未だましである。#金剛改弐記念短篇掌説
2013-11-16 23:34:28![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
北の―真に北の海を行く、島嶼部への輸送船団や援ソ船団は、筆舌に尽くし難い艱難を味わつてゐるであらうことは私にも想像がつく。 その時、ドアをノックする音が聞こえた。 「入つてくれ」 #金剛改弐記念短篇掌説
2013-11-16 23:35:07![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
艦内通路の冷気と共に姿を見せたのは我が最も恃むところの副官、高雄であつた。肩で切り揃えられた黒髪の麗しい容貌に加え、赤煉瓦(アドミラルティ)の連中も一目置くと云う才色兼備振り。 #金剛改弐記念短篇掌説
2013-11-16 23:35:47![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
そんな彼女も流石に此の寒さには堪え切れなかつたと見え、むつちりとした脚をいつものガーターストッキングに代えてパンティーストキッキングに包んでいた。 #金剛改弐記念短篇掌説
2013-11-16 23:36:12![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「提督、間もなく入港です、あすこに青葉山が見えますわ。各艦に通達と御言葉を―それと、御茶を淹れました。金剛さんが英本国で購入されたとか云う高級品だそうで」 「そうか、済まない、有難う。やはり君の膝枕だったか」 #金剛改弐記念短篇掌説
2013-11-16 23:36:33![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
私は然う返すと微笑みかけた。彼女は暫く首を傾げていたが、やがて笑顔で斯う云つた。 「さァ参りましょう、艦橋で金剛さんがお待ちですわ」 私は頷くとヒーターのキイを捻り、足を踏み出した。 #金剛改弐記念短篇掌説
2013-11-16 23:36:59