【空折】twitter連投SSまとめ

タイトル通り。雑記帳のバックアップ的なもの。
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佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

②この日違ったのは、その矛先が別に向かったことだ。「大体なぁ!独身独身って、ここにいるのは全員独身だろうが!スカイハイだってもういい歳だぞ!」「えっ」急に自分に振られて、ギョッとしたのはキースだ。話の方向転換についていけずとまどうキースを他所に、ベテラン達は勝手に話を進めていく。

2014-07-29 00:06:11
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

③「そうだそうだ、スカイハイお前、そういう話ねぇの?」「わ、私は」表面上は平然としつつ、イワンは身を固くした。キースが、結婚。無意識に考えないようにしていた気がする。理由は簡単だ。イワンは、キースのことが好きだった。キースが他の誰かのものになるときが来るなんて、考えたくなかった。

2014-07-29 00:06:41
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

④そんなイワンの内心になど誰一人気付くことなく、話は続く。「お前なら引く手数多だろうによ」「そんなことはないよ、私はつまらない男だから、けれど―」直感的に、その後の言葉を聞いてはいけないと思った。聞いてはいけないと分かっているのに、イワンの手も足も、凍ったように動かない。

2014-07-29 00:07:08
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑤「けれど、そうだね…。ずっと一緒にいられたら、と思う人は、いるよ」目の前が真っ白になって、頭を殴られたような気がした。頭のてっぺんから、指先、爪先から、冷たくなっていくのがわかる。その時の自分がどんな顔をしていたかも、何を言ったのかも、イワンにはわからない。

2014-07-29 00:08:11
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑥ただ、我に返ったときにはランニングマシンの上を猛然と走っていたから、きっとあの場を無難にやり過ごして、何食わぬ顔でトレーニングに戻ることができたのだろう。己の身に染み付いたポーカーフェイスに、こんなにも感謝したことはない。

2014-07-29 00:08:50
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑦何一つ実らず、想いを告げることすらないまま終わった恋に、イワンは一晩、泣いて泣いて泣いた。そうして出した答えは、卑怯で、狡くて、自己満足と自己欺瞞に満ちていて、我ながら最低なものだった。すなわちイワンは、キースとその伴侶の将来の生活に、己の爪痕を残すことにしたのである。

2014-07-29 00:09:44
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑧イワンはまず、キースの自宅に入り浸ることにした。師弟という間柄のため、元々キースの自宅を訪ねることは多い。その頻度を更に増したのだ。迷惑がられたらと思って今まで控えていたのだが、どうせ実らない恋なのだからもう関係ない。些細な用事を口実にしては、イワンはキースの自宅に押しかけた。

2014-07-29 00:10:29
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑨次にイワンは、ジョンを自分の味方につけることにした。時に厳しく躾け、時には一緒になって遊び、時には甘やかし、そしてジョンはすっかりイワンに懐いた。今やキース以上にイワンの言うことを聞くほどだ。「ジョンも折紙くんのことが大好きなんだね」キースも弟子とソウルメイトの仲に嬉しそうだ。

2014-07-29 00:11:40
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑩それから、イワンはキースの家の家事に介入することにした。頻繁にキースの家を片付け、掃除をし、家中にイワンの印象を植え付けた。台所は自分が使いやすいようにカスタマイズして、イワンとキースの二人分の食器を持ち込み、今まではかえって迷惑ではと遠慮していた料理の作り置きも始めた。

2014-07-29 00:12:15
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑪元々家事は嫌いではないし、何よりキースが喜んでくれるので、何一つ苦にはならなかった。これできっと、まだ見ぬキースの花嫁は、キースの家に介入する「誰か」の影を感じるだろう。そしてキースも、新妻との新生活の中でもことあるごとにイワンのことを思い出してくれるに違いない。

2014-07-29 00:12:48
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑫「こうして折紙くんがそばにいてくれて、私は幸せだ。折紙くん…いや、イワンくんがずっと一緒にいてくれたらと思うよ」そのキースの言葉に、イワンは勝利を確信した。これでもう、これから先キースが妻を迎えても、キースの中のイワンの存在は揺るがない。たとえその位置が、恋人や伴侶でなくても。

2014-07-29 00:17:26
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑬そう思うと、イワンはキースが花嫁を迎えるのがむしろ楽しみになってきた。キースの選んだ花嫁は、この家に染み付いたイワンの気配に一体どんな顔をするだろう。キースの中の消せない影に、一体何を思うだろう。そして、新妻との新生活でも脳裏にちらつくイワンの姿に、キースは何を感じるのだろう。

2014-07-29 00:18:40
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑭「バッカじゃないの」唯一イワンの恋を知っているカリーナに事の次第を話すと、カリーナはとても渋い顔をした。「分かってるよ、こんなの間違ってるし、何の意味も無いって。でも」「そうじゃなくて!」言い返そうとした言葉は、歌手の腹式呼吸が生み出す声量に遮られた。

2014-07-29 00:19:25
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑮「…でも、どうせ叶わないなら、そのくらい望んだっていいじゃないか」やっとの思いでぼそりと言い返すと、カリーナは頭を抱えながらイワンをじろりと睨んだ。「あんたってホント…ああもう、知らない!好きにすれば!?」なぜ彼女がそんなに呆れ、怒るのか、イワンにはさっぱり分からない。

2014-07-29 00:20:09
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑯「イワンくんは、最近なんだか楽しそうだね」二人でいることが当たり前になったキースの家で、キースの腕がイワンの肩を抱く。キースの過剰なスキンシップにも、歪な形で失恋を乗り越えたイワンはもう動じない。「そうですか?」「うん。君が楽しそうだと、私も嬉しい、そして嬉しいよ」

2014-07-29 00:21:05
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑰キースがイワンだけに向けて、笑ってくれる。そのことが、またイワンの心を軽くする。そして浮かれたイワンは、つい口を滑らせた。「そう言えば、キースさんはいつ結婚されるんですか?奥様はどんな方ですか?」途端に、さっきまで上機嫌だったキースが表情を失って顔を強張らせる。

2014-07-29 00:22:29
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑱「君は」急に硬質になった声に、本能的に恐怖を感じて肩が跳ねる。それを押さえつけるように、キースの指がぎりりとイワンの肩に食い込んだ。「君は、私が他の誰かと結婚すると?」「えっ、だって、その…『一緒になりたい人がいる』って…」豹変したキースにイワンが狼狽えていると、

2014-07-29 00:25:49
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑲キースは俯いて深く深くため息をついてから、再びにっこりと笑顔を作った。けれど、その目はちっとも笑っていない。「そうだったね…君には遠回しな言葉もアピールも意味が無いんだった」「えっと、すみません…?」よく分からないがどうも責められているような気がして、とりあえずイワンは謝った。

2014-07-29 00:28:06
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑳キースの笑っていない笑顔がずいと近付けられて、思わず目を泳がせる。空調は効いているはずなのに、背に妙な汗が流れる。キースの手は一層強くイワンを捕らえて逃がさない。「謝らなくていいよ。君に合わせてゆっくり進めようと思っていたけれど、これからはもっとわかりやすい方法を選ぶとしよう。

2014-07-29 00:31:28
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

㉑ねえ、私のイワン?」 イワンが鈍痛と引き替えに己の過ちを理解するのは、明朝のことである。

2014-07-29 00:32:01
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