羊谷知嘉の人物論でみる『ロード・オブ・ザ・リング』

J.R.R.トールキンの『ホビットの冒険』が現代文学のひとつに嚆矢であり、『指輪物語』がポストモダンの流行現象となりえたのと同様に、ピーター・ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング』は2000年代のデジタルネットワーク時代を代表する記念碑的作品です。その登場人物たちを、羊谷知嘉がひとつの人物論、人格論として観たらどのような違いが浮かびあがるのかという呟きをまとめてみました。
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まずは総評から……。

羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

ピーター・ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング1』を観ました。芸術的には奥ゆきを欠いてはいますが、脆弱性を抱えこみながらも娯楽としてはひじょうに優秀でおもしろい。現実の物の模倣で作りあげた非低級映画で、現代の記念碑的作品です。 http://t.co/0CSt4E62uv

2013-11-23 22:30:28
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羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

ホビットシリーズで知られるジャクソン監督は、1992年の『ブレイン・デッド』で映画史上最多といわれる量の血糊を使いカルト映画界で名をあげました。ポストモダン・ゾンビ映画の集大成であり、現代ゾンビ映画の魁をなした監督が10年後にメジャー路線で成功したこと、現代の秘密がここにあります

2013-11-23 22:47:13
羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

1992年公開の『ブレインデッド』以降、80年代を席巻したゾンビは冬の時代を迎えます。代わりに、簡便なプログラムでも有効に動くPC・ビデオゲームの世界に居場所を移すのですが、2000年代に入ってふたたびジャクソン監督の手で映画の世界に蘇ります。それが、AIで動くオークなのですね。

2013-11-23 23:00:52
羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

ピーター・ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング2』を観ました。質の水準の変わらなさや公開ペースからみてもはじめから3部作の制作を前提にしていたものなのですが、何故にこの超大作をジャクソン監督に撮れたのかという問題があります。 http://t.co/CqVIqtWgIG

2013-11-24 23:20:51
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羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

まず、『ロード・オブ・ザ・リング』の重要な要素のひとつはNZの自然環境です。2009年公開の『アバター』は完全にデジタル世界で造りあげられたものですが、『ロード』はおなじような世界観を現存する自然環境で撮らなくては技術的にまだいけなかった。構造的にはジョブスのデザインと同じです。

2013-11-24 23:30:17
羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

『ロード・オブ・ザ・リング』の重要な要素のふたつめは、ジャクソン監督がコンピューターを用いた資格効果技術に通じていたことです。つまり、デジタル技術に精通していたことと同時に物質的な自然を制作の素材としてみれる位置に留まっていたことの交叉が、2000年代前半には重要だったのですね。

2013-11-24 23:40:32

それでは『王の帰還』を観ながらの暇、登場人物論をば……。

羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

『ロード・オブ・ザ・リング』を芸術的に評価できるのは文学性があること。ジャクソン監督のほかの作品にもいえることだけど、人間の混迷頑迷をとにかくよく描きわけられている。

2013-11-25 05:45:18
羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

ガンダルフアラゴルンは流石に傑出がある。だから、じぶんの殻の外を観て物事を判断できる。レゴラスはまともで良質だけどもこれがない。ギムリ論外。おこちゃま。

2013-11-25 05:58:11
羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

傑出と云う点でいうと、ホビットのフロドメリーにもある。だから、サムとピピンの凡庸コンビと縦の友情関係が生まれる。ただし、サムには自律の判断原理があって知的と云える。

2013-11-25 06:08:55
羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

旅の仲間からこっそり離脱しようとするフロドにサムが追いすがるとき、ガンダルフの約束を持ちだすのはおもしろい。判断原理はあくまで全体の俯瞰的視線からなされる。

2013-11-25 06:36:43
羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

これと同じことが、サルマンのウルク・ハイとモルドールのオークにもある程度は云える。前者は軍の規律と上官の命令を守れるが、後者にはできない。早々に殲滅させられるけども。

2013-11-25 06:55:14
羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

レゴラスはじぶんが正しいと判断したものに自律的に付き従うが、ギムリはまわりからの期待に順応する。ここには成熟の原理的な壁がある。

2013-11-25 07:21:29
羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

『ロード・オブ・ザ・リング』は結局アラゴルンが王になるまでうだうだする話とも云えるのだけど、物事の観えすぎるがゆえの逡巡悲観主義がここにある。エルフのエルロンドにもおなじ傾向があるが、ガラドリエルガンダルフはそれを打ち破るあかるい狂気がある。

2013-11-25 09:07:54
羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

しかし、人間の王たる自覚をもったアラゴルンをこの狂気の水準に達しており、ガンダルフを凌駕している。

2013-11-25 09:44:11
羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

人格の成長という点で云えば、死を覚悟して帰路を諦めたサムはあきらか強くなり、狂気的で、アラゴルンと同様主人のフロドを凌駕している。アングマールの魔王をエオウィンとふたりで倒したメリーにも同じことがいえる。

2013-11-25 09:59:18
羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

さらに、ピピンもピピンで、自分たちを庇って討ち死にしたボロミアの父、デネソール王に奉公を申し出ている。これは、順応原理ではなく、それを根底的に否定した、全体からの「なすべき」にしたがった自律的な判断原理による行動。ピピンが成熟への一歩を踏みだした瞬間である。

2013-11-25 10:10:59
羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

エルロンドセオデンデネソールの3人には領主として、父としての、頑な保守性が際だっている。勿論、屑度はそれぞれでまったく違うが、現実から眼を背けようとする苦しい困惑はひじょうに良く描けている。

2013-11-25 10:18:52
羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

しかしまあ、雪崩のような物事の連鎖のきっかけとなるのは、ギムリピピンスメアゴルといった、何をしでかすかわからないおこちゃまたちの突発的な行動。幸か不幸か、現実に対して影響をもちうるのは結局行為だけであり、人間の優も劣も関係がないということ。

2013-11-25 10:29:20
羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

その意味で、スメアゴルの死を望んだフロドを諌めようとしたガンダルフ検証原理の言葉はただしい。「すぐれた賢者ですら、末の末までは見通せぬものじゃからなあ。」物事の多様性を守るためにはこうした科学的な懐疑と検証の思考が必要なんですな。

2013-11-25 10:58:14

ここが凄い!
『ロード・オブ・ザ・リング』&『ホビットの冒険』

羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

ピーター・ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング3』を観ました。指輪物語3部作で何がもっとも芸術的に優れていたかと云うと、スメアゴル役のアンディ・サーキスの演技です。モーションアクターとして、役者としての人間離れした演技は凄い! http://t.co/iUtAPLSmDX

2013-11-25 19:30:04
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羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

アンディ・サーキスは、1964年生まれの英国出身の俳優。『ロード・オブ・ザ・リング』のスメアゴルや『キングコング』など、モーションキャプチャー技術を用いた異形の役のデジタル演技で知られます。人間離れしたなめらかで過剰な演技は凄い! http://t.co/S06DL0X2mN

2013-11-25 20:07:56
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羊谷知嘉 Chika Hitujiya @hail2you_cameo

アンディ・サーキスの演技はふつうの生身の役のものも他の作品で観ていますが、ひとことで云うとまわりの役者を食います。脇役ではめだちすぎるし、主役にしては主張が強すぎてしまう。そういう意味でも異形の役柄はうまい落としどころといえますね。 http://t.co/hfDHHS2MWf

2013-11-25 20:17:34
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