稲川淳二のつぶやき怪談　2013年11月27日投稿分

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「うーっ、これ結構恐いなあ」と誰かが言った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

こうなってくると調子に乗ってきて、「じゃあ、この真っ暗闇の中で、一人ずつ怖い話ししないか」ということになった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

闇の中だからそりゃイメージ広がりますよ。話す方も聞く方も、顔が見えないし。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、Ａ君の恐い話が始まった。静まり返った闇の中で、話し声だけがしている、皆、黙って聞いている。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

終わるとまたみんなが、「ああーっ！」「うーっ」とそれぞれが声を上げる 恐いんだけど、何だか楽しい。そうして順番にやってきて、Ｅ君の番になった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、Ｅ君が、話しはじめた。「地元の人から聞いた話なんだけどさ、この海岸って霊が出るんだそうだよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

夜遅くに海岸にやってくるだろう。すると“うぎゃー！”って悲鳴がして、見ると、すぐ先の暗い沖で水しぶきが上がって、人がおぼれてるんだ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

こいつはいけないと急いで、海に入って水しぶきが上がった辺りをめがけて、泳いでいくわけだ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、その腕つかんで引き上げようと、グッと腕をつかんだとたん、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（ぐにゅっ）と、肉がはがれ落ちて、中の骨が見えた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

驚いて、その腕を放すと次の瞬間、真っ暗な水中からな、（がぽっ）と青黒く膨れ上がった水死体の生首が目の前に浮き上がった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

“うわあっ！”と悲鳴を上げて、逃げようとすると、そいつが後ろから、ガバッと抱きついてきて、ずずーっ・・と、海の底へ引きずり込むんだってさ」っと言った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

みんなはそれを聞いて、「おーっ」と声を上げた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そのとたん、「ううっ」とＡ君が悲鳴を上げたので、皆の視線がＡ君に向けられた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「どうしたァ？」と聞くと、Ａ君が、圧し殺した声で、「・・・・これ見ろよ」と言いながら、自分の懐中電灯で床を指し示したんで、みんなが何かと見ると、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

明かりに照らし出されたそこには、海の方から濡れた足跡がずっと続いていて、今、Ｂ君が座っていた後ろまで来て止まっている。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「おい、何だよ、おれの後ろにだれかいたのかよ」と、Ｂ君が声を震わせて言った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

Ｃ君が、「なあ、今さ、“これで終わりにしよう”って言ったのだれだ？」と、言うと、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

Ａ君がＢ君を見ながら、「俺達じゃないぞ」と言って、Ｂ君もうなずいた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

Ｄ君も、「おれじゃない」Ｅ君も、「おれも言っていない」とみんな言ってない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

Ｄ君が、「それ恐らく、この濡れた足跡の、そのだれかが言ったんじゃないかな」と言ったんで、さすがにみんな恐ろしくなった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その声、みんなが聞いてるわけだ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と言う事は、まだこの真っ暗な闇の中に隠れていて、どこからか俺達の様子を見てんじゃないかな」と言った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

みんな、ゴクンと息を飲んで一瞬の沈黙が走った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、闇の中で、 ピタン　ピタン　ピタン　ピタン　 と、湿ったような足音がしたのでみんなゾクッとして、その場に凍り付いた。