大罪戦闘企画

第十八公演《邂逅白く歪みて》
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ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

頭に手が触れる。黒は蠢き、再びその手を侵食し始める。力を奪い、命を喰らう。それは決して少年が望むからではない。 それが呪いだからだ。 《だめ、アプレースティア、》 そして、少年は知っていた。『迷う』代償に課せられたその呪いには、もう一つ、別の作用が在ることを。

2013-12-06 22:54:33
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

《やめて、》 ——望むならば、全てを。躊躇いは毒だ。 《あなたは、ぼくを、しらない》 相手の力を、『欲』を効率よく得る為の方法が在ることを。 《そんなこと、する、りゆう、ない》 ——『欲』を出せ。その全てを叶えよう。 《やめて、》

2013-12-06 22:55:44
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

呪いは、誰かの『願い』を叶えるものだ。『望み』に応えるものだ。 少年の『願い』が叶ってしまったように。 《おねがい、》 それを拒む術も、阻む術も、少年には、ない。

2013-12-06 22:57:06
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「……し………な…せ……て…」 体を震わせ、口を微かに開く。掠れて、音であるかさえ怪しい。声を出したことなど、殆ど無かった。 ぼろりと、両の目から水が溢れる。 それが一体なんなのかを、少年は知らなかった。

2013-12-06 22:57:28
カーデ @ratan_ruten

「させねぇ……もう、死なせねえ」 侵食した黒を気にも留めず、その頭をふわりと撫でる男の手。強引な、強欲の手。 「俺の何もされてない健康な『状態』と、こいつの『呪いを受けた状態』を」 使うのは久々だ。 果たして上手くいくのか。 手と頭を通してパチリパチリと飛び散る火花。

2013-12-06 23:24:13
カーデ @ratan_ruten

やがてそれはアプレースティア、怠惰の二人の身体を包み込み。 「『交換』しろ……! 俺はそれを欲す!!!」 強欲の声に反応するかのように、弾けた。 一瞬の閃光が辺りを支配し、一時白の世界を創り上げる。

2013-12-06 23:26:55
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

耳に届く、彼の言葉。頭に響く、彼の声。込められた想いが余りにも残酷で、少年は掠れた声で拒絶を口にする。 かつての日のように、彼を拒絶しようとする。 ——『欲する』限り、 少年の体を、彼の腕を、這いずり蠢く文字がフッと浮かび上がる。周囲を取り囲むように、ぐるりぐるりと回り出す。

2013-12-06 23:43:40
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

——其処に『不可能』無い限り 黒は凄まじい速度で数を増やし、文字という形を得て、二人を取り囲む。 文字は奪った彼の力で少年の『願い』を叶えようとした。その一方で、彼の『願い』を叶えようともした。 ——『願い』は全て叶うだろう 少年が声もなく悲鳴を上げて。 ——『迷妄』せよ

2013-12-06 23:46:31
カーデ @ratan_ruten

「かっ……」 白が引く。瞬間現れたのは、揺れる男の身体。 まるで糸を失ったマリオネットのようにそれはぐらりぐらりと揺れ、落ちる。 最期の意思か、少年の方へとは倒れ込まずゆっくりと横に。 ぽさり、と落ちた。 魂さえ抜け壊れ、遺された器は重さを一片も残さず。

2013-12-07 00:28:32
カーデ @ratan_ruten

開いた口から血が出ることも、身体に傷が出来ることもなく。 そこに抜け殻が誕生した。 少年から『奪った』呪いをその身に受けて、魂ごとこの世から……どの世界からも召された。 ざぁと撫でる柔風は、その器にぴたりとついたタンクトップの繊維を撫で上げる。 反応などあるわけもなく。

2013-12-07 00:32:05
カーデ @ratan_ruten

アプレースティアという男は、消滅した。

2013-12-07 00:32:45
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

白い世界が弾けて。 少年は、呆然と涙を溢し続けた。自らが残っているというその意味を、少年は正しく理解していた。 『願い』は叶えられた。けれどそれは少年の願いでは無い。 傍に倒れこむ彼を見る。彼が動く気配は無く、其処に命の気配も無く。 それと同時に、形ある己が、此処にあって。

2013-12-07 01:05:45
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

少年は自らの顔を覆い、声の限りで泣き叫んだ。呪いはもう無い。けれども彼は未だ『大罪』の業を負ったまま、死ぬことさえままならない。 名前を叫び、求めても、その声に応える者はいない。 少年の母はもう随分と前に死んでしまった。『紅』は少年の家族では無かった。 彼は、今、殺してしまった。

2013-12-07 01:07:09
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

アプレースティアを、殺してしまった。 己が、己が居たが為に、彼は死んでしまった。 自由に動く身体が、誰を奪わずとも動く心が、これほどまでに煩わしいなどどうして予想出来ようか。 どうして、己を喜べようか。 少年は泣き咽ぶ。テディベアを抱き締めて、抜け殻に縋り、泣き続ける。

2013-12-07 01:09:46
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

——もう、 少年が『迷妄』することは無いだろう。そして、『憤怒』が目を覚ますことも、二度と無いだろう。 其処に居るのは何も持たざる少年のみ。温かいばかりの記憶と、身を焼き尽くす罪悪感に嗚咽し、されど縋れるものなど何もない。 帰る場所さえ持たざる少年は、草原で一人、声を枯らした。

2013-12-07 01:11:03
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

——————。 ————。 —————。 ————。 ————。 『————』 ——。

2013-12-07 01:11:13
【邪悪の樹——三ツ牙】企画管理アカウント @treeofevil

《以上をもちまして……第十八公演は終演致しました…… どなた様もお忘れ物のございませんよう……いま一度、お手回り品をお確かめ下さいませ…… 本日はご来場頂き……まことに有難うございました…》

2013-12-07 01:15:11
【邪悪の樹——三ツ牙】企画管理アカウント @treeofevil

あはは!最高の演劇だったよ! −−彼は恍惚として …なーんて言うと思った? −−新たなる箱を まあいいよ。 さあ次の箱を用意して! −−新たなる喜劇を まだまだ足りない!もっともっと繰り返そう! どうせその箱からは誰も出られないしね! −−求め続ける あはははっ!

2013-12-09 19:06:48
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