2013年12月15日

シンポジウム「核燃料サイクルのあり方を考える~日本の選択はどうあるべきか」(米プリンストン大、朝日新聞社主催)

開催日:2013年12月5日 ◇基調講演 アリソン・マクファーレン(米国原子力規制委員会(NRC)委員長) ◇パネル討論  ▽第1セッション(プルトニウム利用と核不拡散)=佐藤行雄・元国連大使、川口順子・元外相、スティーブ・フェッター・前ホワイトハウス科学技術政策局次長  ▽第2セッション(再処理の経済性と安全性)=鈴木達治郎・原子力委員長代理、山名元・国際廃炉研究開発機構理事長、クラウス・ヤンバーグ・核技術コンサルタント、ゴードン・トンプソン・米国資源・安全保障問題研究所長 続きを読む
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リンク 朝日新聞デジタル (核燃料サイクルシンポ)マクファーレン氏の基調講演:朝日新聞デジタル ■アリソン・マクファーレン米原子力規制委員会委員長 世界中の原子力発電所から日々、使用済み核燃料が大量に生み出されている。その量は処分やリサイクルが可能な量を超えている。最終処分や管理の方法について

アリソン・マクファーレン米原子力規制委員会委員長

 世界中の原子力発電所から日々、使用済み核燃料が大量に生み出されている。その量は処分やリサイクルが可能な量を超えている。最終処分や管理の方法について解決策を考えないまま、各国が原発の建設、稼働を進めてきたからだ。

 米国でも使用済み核燃料の後始末について様々な議論が行われてきたが、最終的な結論は出ていない。今は中間貯蔵が焦点になっている。

 米国には乾式キャスクという容器で中間貯蔵する施設が原発の敷地内に60か所ある。使用済み核燃料の熱を冷ますためには何十年も貯蔵する必要がある。長期間安全に管理するための規則が必要だ。キャスクの経年劣化のメカニズムも把握しなければならない。燃焼度の高い燃料を入れた場合の影響を特に重視している。

 敷地内のプールで使用済み核燃料を保管することは問題が多い。東京電力福島第一原発事故の教訓を踏まえ、米原子力規制委員会(NRC)もプールに水位計をつけるなどの対策を指示した。水がなくてもよい乾式の貯蔵に早期転換するかどうかの評価を行っている。

 米国では多くの原発が廃炉に向かっている。5基が既に停止された。使用済み燃料をいかに管理するかは、今後ますます重要な問題になってくる。

 どんな管理をするにせよ、最終処分場はどうしても必要になる。その方法は、地下深くに埋める地層処分が最も適切だ。国際的なコンセンサスもある。ただ、まだ成功例はない。

 米国では今年8月、連邦高裁が、ネバダ州ヤッカマウンテンの最終処分場の許可申請の審査を再開するようNRCに命じた。これに基づきNRCは事業費用を改めて推定し、つい数週間前、エネルギー省に環境影響評価報告書を出すよう指示した。パブリックコメントで寄せられる意見全てにNRCが答える。来年秋には評価が完了する予定だ。

 最終処分場の立地は非常に難しい作業だ。米国では、私も関わったエネルギー省の諮問機関「ブルーリボン委員会」が2年かけて議論し、立地条件について結論を出した。この勧告は上院で超党派で受け入れられ、今まさに政策立案にむけて作業が進んでいる。

 適切な最終処分場を見つけるためには、透明性のある実施組織▽独立した監督機関▽長期間安全性を確保できる技術▽十分な資金、などが必要だ。周辺住民への影響の評価や社会的合意、補償も欠かせない。

 国際原子力機関(IAEA)も技術的な立地条件を定めている。地震や火山の活動がないこと、地下水の量が多くないことなどをあげている。将来掘削されないように、鉱物資源がある場所を避ける必要もある。

 スウェーデンは既にいくつか場所を決め、評価を行っている。最終処分場の安全性が長期間確保されるか評価する手法も開発している。そして、独立性の高い規制機関が監督している。

 原発が稼働している限り、使用済み核燃料は増え続ける。稼働させる前から、後始末の計画を作るべきだ。未解決のまま使用済み核燃料を地上に残しておくと、次の世代に禍根を残すことになる。

     ◇

 核廃棄物問題の専門家。地質学者。ジョージ・メイソン大学准教授(環境科学政策)を経て、2012年7月に米国原子力規制委員会(NRC)委員長に就任。2010~12年まで、使用済み核燃料の扱いについて検討するオバマ政権の「ブルーリボン委員会」の委員を務めた。

リンク 朝日新聞デジタル (核燃料サイクルシンポ)行き詰まる政策:朝日新聞デジタル 日本の核燃料サイクル政策が行き詰まっている。 1960年代から国策として進めてきたサイクルの「主役」は高速増殖炉だった。ウランがいずれ枯渇するとみて、再処理工場で使用済み核燃料からプルトニウムを取り

日本の核燃料サイクル政策が行き詰まっている。

 1960年代から国策として進めてきたサイクルの「主役」は高速増殖炉だった。ウランがいずれ枯渇するとみて、再処理工場で使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し、使った以上の燃料を生み出す高速増殖炉で利用する計画を立てた。だが、ウラン価格は高騰せず、高速増殖炉の難しさがわかってきた。核拡散の懸念もある。米国など多くの国が撤退した。日本は政策を変えず、再処理を英仏に委託し、プルトニウムを大量に取り出し続けた。

 日本でも高速増殖炉は、原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)が長期停止に陥り、見通しが立たない。そこで、プルトニウムをウランと混ぜたMOX燃料をふつうの原発(軽水炉)で燃やすプルサーマルが「主役」に浮上した。だが、東京電力福島第一原発事故前に実施できたのは4基だけ。事故後は全国の原発が停止し、利用計画すら立てられない。日本が国内外に保有するプルトニウムは約44トンにのぼる。

 そんな中、日本原燃が建設する再処理工場(青森県六ケ所村)の完成が近づく。フル稼働すれば、プルトニウムは年約7トンずつ増える。

 日本は「全量再処理」が前提で、使用済み核燃料の直接処分を認めていない。六ケ所再処理工場に約3千トン、全国17カ所の原発に計1万4千トンの使用済み核燃料がたまり、貯蔵の余裕が少なくなっている。再処理後に出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場の場所も決まっていない。

     ◇

 〈原子力の平和利用〉 アイゼンハワー米大統領が1953年12月8日に国連総会で行った演説「アトムズ・フォー・ピース」で、軍事用として開発が進んでいた原子力の民生利用を提唱した。57年には国際原子力機関(IAEA)が設立された。原子力は「夢のエネルギー」と受け止められ、原子力発電を導入した主要国は核燃料サイクルをめざしたが、コストの高さや核拡散のリスクもあり、多くの国があきらめた。インド、パキスタンは平和利用を軍事転用して98年に核実験をした。

リンク 朝日新聞デジタル (核燃料サイクルシンポ)第1部 全量再処理と核不拡散:朝日新聞デジタル 第1部は、使用済み核燃料を全量再処理する日本の政策と核不拡散との関係がテーマ。まず、日本が保有する大量のプルトニウムをどうすべきかが議論になった。 オバマ政権で核拡散問題を担当したスティーブ・フェッ
第1部は、使用済み核燃料を全量再処理する日本の政策と核不拡散との関係がテーマ。まず、日本が保有する大量のプルトニウムをどうすべきかが議論になった。
  • 第1部の主なやりとり
     オバマ政権で核拡散問題を担当したスティーブ・フェッター氏は、青森県の六ケ所再処理工場が稼働すると、利用計画がないままプルトニウムが増え続けると指摘。「日本は再処理をやめるべきだ。それが無理なら、利用計画を明らかにし、プルトニウムを必要最低限の量まで減らさなければならない」と口火を切った。

 日本のプルトニウムは国内分だけで10トン近くある。「核兵器に転用すれば約1500発分」という。保管施設がテロリストなどの攻撃を受けてプルトニウムが奪われる危険性に加え、「東アジアの近隣国が『日本はすぐ核兵器を作れる。潜在的に核を保有している』と疑っている」と問題点を説明。「日本は核不拡散に先導的な役割を果たしてほしい」と呼びかけた。

 ただ、日本は核兵器を持たずに平和利用を進め、核不拡散条約(NPT)のもとで「優等生」と呼ばれてきた国だ。外相や環境相を歴任した川口順子氏は、「核武装することは、NPTから離脱し、北朝鮮やイランのように国際的に制裁されることを意味する。国民が賛成するわけがない」と反論した。

 元国連大使の佐藤行雄氏は「できるだけ早くプルトニウムを減らすべきだ」というフェッター氏の考えに同意した上で、利用計画がない現状を、福島第一原発事故の影響で原発が停止し、再稼働の見通しが立たないことによる「意図せざる状況」と説明。「今すぐには無理だが、将来計画が決まれば必要以上のプルトニウムを持たないという原則に回帰していく」と理解を求めた。

 日本の再処理が、核不拡散に悪影響を及ぼしているかどうかも議論になった。

 核兵器を持たない国の中で日本だけが再処理を認められている。このことに不服な韓国などは、米国に再処理の容認を求めているという。フェッター氏は、「日本だけに再処理を許す、というダブルスタンダードを維持するのは難しい。プルトニウムを持つ国が増えれば、核拡散につながり、安全保障の脅威になる」と懸念を示した。

 川口氏は、高レベル放射性廃棄物の体積を減らし、エネルギー源を確保する観点から、再処理を含めた核燃料サイクルが日本には必要だと主張。「日本が再処理をやめたからといって、他国が核武装をやめるとは限らない。すでに世界に存在する核不拡散の枠組みを強化する方がいい」と、核軍縮の推進や国際原子力機関(IAEA)による査察の拡充、NPTに違反した国への制裁の徹底などに取り組むべきだと訴えた。

 佐藤氏は「福島第一原発の事故原因や廃炉処理を、国際社会に公表し、日本の原子力政策の透明性を世界に示すべきだ」と提言。日米間には原子力の平和利用で長年の信頼関係があることを引き合いに出し、再処理の容認を求める国々に対して「米国からも日本の立場を説明し、各国を説得してほしい」と求めた。

     ◇

〈核不拡散条約〉 核兵器保有国を米ロ英仏中の5カ国以外に広げないことを目的にした条約。冷戦ただ中の1970年に発効した。原子力の平和利用の権利を認める一方、軍事転用を防ぐためIAEAによる査察を求めた。日本は76年に批准。現在190カ国が加盟する。だが、北朝鮮は2003年に脱退を宣言し、核実験をした。加盟国のイランは平和利用を隠れみのにした核兵器開発を疑われている。核実験をしたインド、パキスタン、核保有を確実視されるイスラエルは加盟していない。

     ◇

《スティーブ・フェッター氏》
メリーランド大学副学長。オバマ政権の2009~12年にホワイトハウス科学技術政策局次長(国家安全保障担当)。核不拡散やエネルギー問題の専門家として30年にわたり取り組む。プルトニウムを増やす再処理には早くから批判的立場をとってきた。

《佐藤行雄氏(さとう・ゆきお)》
外務省情報調査局長、北米局長、駐オランダ大使、駐オーストラリア大使などを経て、1998~2002年に国連大使。核ゼロを目指して世界の有識者が参加した「グローバル・ゼロ」(GZ)委員会委員。03~09年に日本国際問題研究所理事長。現在は同副会長。

《川口順子氏(かわぐち・よりこ)》
森・小泉内閣時代の2001~04年に外相、環境相を務めた。核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)でエバンス元豪外相とともに共同議長に就いた。2013年7月、参議院議員を引退。明治大学国際総合研究所特任教授。

リンク 朝日新聞デジタル (核燃料サイクルシンポ)第1部の討論詳報:朝日新聞デジタル スティーブ・フェッター氏、川口順子氏、佐藤行雄氏がプルトニウム利用と核不拡散をテーマに討論した。司会は吉田文彦・朝日新聞論説副主幹。 ◇ フェッター 日本は使用済み核燃料の再処理によって、核
スティーブ・フェッター氏、川口順子氏、佐藤行雄氏がプルトニウム利用と核不拡散をテーマに討論した。司会は吉田文彦・朝日新聞論説副主幹。

     ◇

 フェッター 日本は使用済み核燃料の再処理によって、核兵器にも使えるプルトニウムを大量に蓄えている。国内に10トン近くあり、核兵器に転用すれば1500発分になる。海外にあるのは約35トン、5千発分にもなる。青森県六ケ所村の再処理工場が動けばさらに増える。将来の利用計画がないまま増え続ける。

 日本が核不拡散の強化を考えるなら、少なくとも、プルトニウム保有量を今より増やさないことが必要だ。私はそう思わないが、「日本は核武装のためにプルトニウムをためている」と疑っている周辺国もある。信頼を得るには、必要最小限の量まで減らすことが重要だ。

 非核兵器保有国で唯一、日本が再処理を許されていることにも問題がある。韓国やイランは「日本に許されるなら、自分たちも」と主張している。しかし、核武装した北朝鮮と対抗関係にある韓国がプルトニウムを持つことは、安全保障上の脅威になる。他国に再処理をさせないためにも、米国は約35年前に再処理をやめた。

 吉田 日本のプルトニウムを減らすことが核軍縮につながるのか。

 フェッター オバマ大統領の政策では、余剰プルトニウムの削減と核軍縮は関連づけられている。核不拡散条約(NPT)の強化により、核兵器保有国の保有量を減らす核軍縮が最終目標だ。これは遠い道のりだが、達成するには、国によって基準を変えるダブルスタンダードは通用しない。

 佐藤 日本のプルトニウムの問題は、あくまでエネルギー政策の話だ。テロリストに盗まれないように管理して、将来の利用の見通しをはっきりさせることが重要で、「使う分だけを持つ」ということが原則だ。

 日本には核兵器開発の意図はない。だが、疑われているならはっきりと説明する必要がある。停止している原発の再稼働の計画を立て、必要なプルトニウムの量を推定し、「これ以上は保有しない」と決めるべきだ。ただ、安全審査が終わっていない現段階では明確にできない。それは理解してもらうしかない。

 川口 日本はNPTの「優等生」の座を守ってきた。核兵器をつくってNPTから離脱するということは、北朝鮮やイランのように世界から制裁をされることを意味する。民主主義国の日本で、そんなことに賛成する人がいるわけがない。法律で原子力は平和利用に限ると決めている。日本はそのことを、もっと説明する必要がある。

 また、再処理工場がある青森県六ケ所村には、国際原子力機関(IAEA)の人が常駐して監視している。IAEAのことも信頼しないならば、どうしようもない。

 フェッター 私は今の核不拡散体制を信頼しているが、問題点もある。例えばある国が「民生用だ」と言って核開発をして兵器レベルまで量を増やし、突然に軍事転用するという不安がある。そうなると、再処理の技術も拡散してしまう。「そういう技術を持っている国は事実上の核保有国といえる」と、IAEAのエルバラダイ元事務局長も言っていた。協力してプルトニウムの保有量を減らし、技術を拡散させない努力をすべきだ。

 吉田 プルトニウムの利用計画が立てにくい今の日本で、六ケ所再処理工場の稼働申請が近々なされようとしている。そうすると、プルトニウムを減らす計画が余計に立てにくくなるのではないか。

 川口 今、六ケ所再処理工場は動いていない。原子力規制委員会が基準をつくって再処理工場の安全性を審査し、動くか動かないかを決める。日本が原子力発電をどうするかは、これから決める。余剰プルトニウムを持たない原則は変えるべきでないが、プルトニウムがどれくらい余剰なのかもわからない。決めるのは時期尚早で、議論が必要だ。

 もし日本が再処理をやめたら、ほかの国も核武装をやめるだろうか。北朝鮮やイランは核兵器開発をしていないだろうか。私は、日本が与える影響は少ないと思う。それよりも、核軍縮推進やIAEAの予算、人員の拡充、NPTに違反した国への制裁の徹底など、不拡散体制を強化することに取り組むべきだ。

 吉田 日本はどうすれば周辺国に信頼されるか。

 フェッター 日本がプルトニウムを最小限に減らすことには価値があるが、それだけでは不十分だ。理想的には、英国やフランス、ロシア、中国も含めたすべての国が再処理をやめることだ。再処理は安全保障上のリスクが大きいわりにメリットが小さい。

 日本は再処理を許され、事実上特別な地位にある。日本に認めるのに、他国には認めないというのはダブルスタンダードだ。それを認めると、今後はプルトニウムを持つ国が増え、「核兵器をつくろうと思えばすぐにつくれる」と疑われる国が広がってしまう。

 川口 使用済み核燃料を再処理すれば体積が減り、有害度も低くなる利点がある。核燃料サイクルは、国産エネルギーがない日本にとって大事な要素だ。

 佐藤 日本のプルトニウムの現状は、東日本大震災による意図せざる結果だ。東京電力福島第一原発事故で全国の原発が止まり、プルトニウムの使い道を説明できなくなっている。しかし、再稼働の見通しが立てば、余剰プルトニウムは持たないという原則に回帰していく。

 自国が再処理したいことを正当化するために、日本の事情を利用する国もある。信頼されるよう日本からも説明するが、日本を信頼しているならば、米国も同盟国の視点から日本の立場を説明し、各国を説得してほしい。

 フェッター プルトニウムの再処理に利点がないとは言わない。しかし、安全性やコストの点からリスクが大きすぎる。最終処分のことを考えると、再処理による経済的なメリットもかなり小さくなる。再処理したあとの放射性廃棄物は毒性が下がると言うが、安全かどうかは地層処分場の性能に左右されるし、テロのリスクは消えない。

 日米間に信頼関係があったとしても、他の国が何をするかはわからない。すべての国が原子力技術を持ち、プルトニウムを持つという状況になると、世界は非常に危険になる。「イランなどはプルトニウムを持つべきではないが、日本には許す」というダブルスタンダードを維持するのは難しい。日本は自分の影響力を考え、再処理を中止してプルトニウムの保有量を減らす努力をしてほしい。

リンク 朝日新聞デジタル (核燃料サイクルシンポ)第2部 経済性と安全性:朝日新聞デジタル 第2部は、再処理の経済性と安全性がテーマ。プルトニウムの価値や、プルトニウムを使うMOX燃料のコストが議論された。 鈴木達治郎氏が座長を務めた原子力委員会の検討会の試算では、MOX燃料をふつうの原発
第2部は、再処理の経済性と安全性がテーマ。プルトニウムの価値や、プルトニウムを使うMOX燃料のコストが議論された。
  • 第2部の主なやりとり
     鈴木達治郎氏が座長を務めた原子力委員会の検討会の試算では、MOX燃料をふつうの原発で燃やすプルサーマル発電の場合、核燃料サイクル費用は1キロワット時あたり1・98円。使用済み核燃料をそのまま捨てる直接処分の場合(約1円)の約2倍になった。

 鈴木氏は、日本が使用済み核燃料の全量再処理を続けると、総費用は7兆~8兆円多くなると指摘。現状のウラン価格では、核分裂性プルトニウムは1グラムあたりマイナス40ドルの「負債」になるという日本原燃の試算も紹介し、「再処理の方が高いことははっきりしている」と話した。

 これに対し、同じ検討会の委員を務めた山名元氏は、発電所建設費なども含めた原発コスト全体での費用を比べると、再処理は直接処分より1割程度しか高くならないと指摘。「再処理すると使用済み燃料8本でMOX燃料1本になり、使用済み核燃料の保管量を減らす意味ではリサイクルした方がいい。国民がどう考えるかだが、このコスト増はまだ許容範囲内だと私は思う」と述べた。

 ドイツの大手電力会社で再処理や中間貯蔵計画に携わったクラウス・ヤンバーグ氏は、ドイツでもMOX燃料は加工費だけでウラン燃料の2倍以上するという試算を示した。ドイツはかつて自国で再処理工場を建設する計画を持っていたが、1989年に中止した。「再処理のコストがあまりにも高く、電力会社がやめようと声をあげた。MOX燃料は高い。こうしたことをみなさんは知る必要がある」と語った。

 再処理工場の安全性はどうか。核施設のリスクを研究するゴードン・トンプソン氏は、全国の使用済み核燃料を青森県の六ケ所再処理工場に集めることは危険だと指摘。3カ所の貯蔵プールには、放射性セシウムでそれぞれ500京ベクレルもの放射能があるという。「確率は低くても、事故やテロがいったん発生したら歴史に残ってしまうような悪影響が出る」と訴えた。

 再処理の可否について4氏の意見は一致しなかった。しかし、「全量再処理」には問題が多く、直接処分を採り入れたり、中間貯蔵を増やしたりして政策の幅を広げる必要があるという点はほぼ一致した。

 山名氏は、核燃料サイクル政策では経済性や安全性だけでなく、地元や国際社会との関係も重要と指摘。「すでにお金をかなりかけた六ケ所再処理工場を青森県の協力でうまく動かしながら、MOX燃料の消費先を確保し、直接処分や中間貯蔵と組み合わせ、バランスをとってやっていくのが現実的だ」と述べた。

 鈴木氏は「原子力の将来が不確実な現状では、再処理と直接処分を併存させる政策がよい。原子力委員会としては、政策に柔軟性を持たせるべきだとすでに決定した」と話した。ただ、それが実際の政策転換につながっていない。

     ◇

《鈴木達治郎氏(すずき・たつじろう)》
2010年から内閣府原子力委員会の委員長代理。原子力政策やエネルギー環境政策、科学技術政策に詳しい。08~10年、核廃絶をめざす科学者の集まり「パグウォッシュ会議」評議員。現在は評議会招待メンバー。元電力中央研究所研究参事。

《クラウス・ヤンバーグ氏》
核技術コンサルタント。ドイツの再処理会社「DWK」の子会社で輸送・貯蔵兼用のキャスク技術の開発を指揮し、使用済み核燃料の乾式貯蔵普及に努めた。核燃料サイクルのバックエンド問題や、核燃料サイクル路線と直接処分路線とのコスト比較に詳しい。

《山名元氏(やまな・はじむ)》
京都大学原子炉実験所教授。今年8月に国際廃炉研究開発機構が発足し、理事長に就任した。1981~96年、旧動力炉・核燃料開発事業団で再処理開発や先進リサイクルシステム開発に従事。著書に「放射能の真実」など。

《ゴードン・トンプソン氏》
米国の資源・安全保障問題研究所長。クラーク大学上級研究員。持続可能性と人間の安全保障の観点から政策に取り組む。英国セラフィールド、仏ラ・アーグ、日本の六ケ所村の再処理工場など、核施設での放射線リスクについて研究を積み重ねてきた。

リンク 朝日新聞デジタル (核燃料サイクルシンポ)第2部の討論詳報:朝日新聞デジタル 鈴木達治郎氏、山名元氏、クラウス・ヤンバーグ氏、ゴードン・トンプソン氏が再処理の経済性と安全性について議論した。司会は竹内敬二・朝日新聞論説委員。 ◇ 鈴木 福島第一原発事故で将来の政策がど
鈴木達治郎氏、山名元氏、クラウス・ヤンバーグ氏、ゴードン・トンプソン氏が再処理の経済性と安全性について議論した。司会は竹内敬二・朝日新聞論説委員。

     ◇

 鈴木 福島第一原発事故で将来の政策がどうなるか分からない中、いまの重要な課題は三つある。(1)使用済み核燃料の安全な管理(2)サイクルの柔軟性のため直接処分の導入(3)すでにあるプルトニウムをどうするか。

 原子力委員会で検討小委員会をつくって政策の選択肢を評価した。高速増殖炉はすぐには商業化がみこめない。当面、政策に関係する技術は「直接処分」とMOX燃料のリサイクル、いわゆる「プルサーマル」が考えられる。資源効率では「プルサーマル」が、経済性と核不拡散では「直接処分」が優位だが、リスク(安全性)や廃棄物処理では決定的な差はない。

 結論から言うと、ずっと原子力を続けるなら「全量再処理」、原子力をやめるなら「直接処分」、将来が不確実なら「併存」が有力となる。これに基づいて原子力委は昨年6月に決定を出した。そのポイントは、政策に柔軟性を確保するのが最も重要だということ。原子力委としては、「従来の全量再処理を続けるのではない」と決定し、大転換したととらえている。

 個人的には、プルトニウムは、需要を明確にして、それにあった分だけ再処理し、必ず保有量を減らしていくことを提案している。原子力委の後継組織でも具体的に進めていただきたい。

 ヤンバーグ 私はずっと原子力推進派だった。勤めていたドイツの電力会社と、フランスの核燃料会社コジェマとの間で、再処理契約にたずさわった経緯があり、様々なコスト計算をするようになった。1974、75年ごろにコストを比較したが、高速増殖炉はよほどのことがないかぎり、軽水炉に勝ることはないという結論に達した。

 ドイツは当初、海から遠く離れたチェコ国境に近い南東部のバッカースドルフで、使用済み核燃料を再処理する計画だった。だが、あまりにもコストが高く、「フランスで再処理をやってもらい、ドイツではやめよう」と電力会社が声を上げ、1989年に中止された。燃料のコスト、再処理コストを入れるとMOX燃料のコストは高い。こうしたことをみなさんは知るべきだと思う。

 山名 日本という現実のなかで、オープンサイクル(直接処分)がいいか、クローズドサイクル(再処理)がいいか。もし日本が原子力をやめるなら直接処分を選ぶと思う。だが、再処理は廃棄物管理の意味でも重要だ。使用済み核燃料は体積が大きく発熱もあるので、直接処分では必要な処分場の面積が大きくなる。

 再処理すれば、使用済み核燃料8体がMOX燃料1体になる。そのかわり高レベル放射性廃棄物のガラス固化体が出てくるが、使用済み核燃料の保管量を減らすという意味では再処理した方がいい。長期間、地上で保管するロングタームストレージ(中間貯蔵)は究極の解にはなっていない。

 原子力委の小委員会で評価した結果、使用済み核燃料の再処理のコストは直接処分と比べると約2倍、部分的な再処理では4割増しになる。だが、原子力発電にかかるコスト全体でみた場合、再処理は1割程度しかコストが上がらない。国民がどう考えるかだが、このコスト増はまだ許容できる範囲内に入っていると私は思う。

 トンプソン 六ケ所再処理工場が事故や人為的な攻撃を受けた場合の放射線リスクについて話したい。3カ所の使用済み核燃料貯蔵プールに、セシウム137でそれぞれ500京ベクレルの放射能が含まれる。タンク2基にもそれぞれ140京ベクレルがふくまれる。非常に小さなところに、大量の放射性物質をとじこめている。

 万が一、攻撃を受けたら、プールに大量に蓄えられた放射性物質が放出されてしまう。確率は低いとしても事故やテロがいったん発生したら、歴史に残ってしまうような影響が出る。日本原燃も原子力規制委員会も、リスクを過小評価しているのではないか。より安全な選択肢は、使用済み核燃料を乾式キャスクに貯蔵することだ。

 竹内 プルトニウムは資産(資源)なのか、負債(ごみ)なのか。

 鈴木 日本原燃の試算によると、現状のウラン価格では、日本では核分裂性プルトニウムが1グラムあたりマイナス40ドル、つまり「負債」となる。再処理の方が高いことははっきりしている。再処理の総費用は六ケ所村の工場が40年運転すれば7兆~8兆円の差になる。日本でも現状ではプルトニウムの価値はマイナスであるだろうとわかった。

 山名 プルトニウムの価値は時代環境と国際的なエネルギー資源の状況で変わっていく。現状では負債的だが、日本のようなエネルギー資源のない国は、プルトニウムを扱うことができる状態で維持すれば、将来価値を持つ可能性があり、政策に柔軟性を与える。昔は「核燃料サイクルでプルトニウムを利用すれば、ウランがただになってもうかる」という発想だったが、いまはもうない。

 竹内 将来どうなるか分からないが、今はプルトニウム利用は高い。ならば、全量再処理でなく、直接処分や中間貯蔵なども取り入れて政策の幅を広げたほうがよいのでは。

 鈴木 原子力委としてはその方向で考えている。六ケ所再処理工場は、今すぐ止めたら社会や地方自治体の信頼関係もあるので当面は継続が必要。だが、将来は多大なコストがかかるので、数年のうちに総合評価を行うべきだとしている。

 廃棄物のリスクは、再処理で出るガラス固化体だけみると使用済み核燃料より低いが、再処理すると出てくる中レベルの廃棄物を足すと大きな差はなくなる。廃棄物の量や処分場の面積でも、使用済みMOX燃料を処分しなければいけないことを考えると再処理の利益はそれほど大きくない。高速増殖炉が実用化されなければ、再処理のメリットは決定的にはならない。

 山名 懸念があるのは、あたかもすべて白紙にできるかのような議論になってしまうこと。青森県は1984年以来30年間、再処理を前提とした核燃料サイクルに協力し、全国の使用済み核燃料を受け入れてきた。仮に直接処分に変える判断をしても、受け入れ地は決まらない。

 すでにお金をかなりかけた六ケ所再処理工場を一部うまく動かしながら、再処理と直接処分の併存シナリオで行く方が安定するだろう。プルサーマルの消費先を確保し、中間貯蔵と組み合わせて、バランスをとっていくのが現実的だと思う。そういう意味で、柔軟な態勢を考えている。

 竹内 高速増殖炉がなくても、核燃料サイクルはうまくいくのか。

 ヤンバーグ プルトニウム利用は軽水炉でも理論的にはできるが、活用する意味を成り立たせるには、プルトニウムを高速増殖炉で増やさないと意味がない。

 竹内 再処理と直接処分で危険度に差はあるのか。

 トンプソン 再処理工場では、使用済み核燃料を何十年間も地上で常時冷却する方法がなくてはいけない。乾式キャスクに入れれば、電力や水がなくても安全だが、内在的な安全性では、直接処分のほうが勝っていることになる。

 竹内 六ケ所再処理工場は攻撃にもろいという話が出たが、昔は高性能爆薬や飛行機で攻撃されるということまで考えなかった。最近はそこまで考えるのが国際標準なのか。

 トンプソン たとえば耐震性が優れていればある程度の攻撃に耐えられるかもしれないが、残念ながら、どこにある原子力施設も具体的に攻撃を想定した設計にはなっていない。六ケ所が攻撃されることは想像しづらいかもしれないが、それでも考えておくことが思慮深い対策ではないか。

 ヤンバーグ ドイツでは段階的に原子力が廃止されるので、事業者は追加的な壁をつくるという対策はしたくない。人間がつくったものは、人間の力で壊すことができるということは考えておかなくてはいけない。

 竹内 最後に発言を。

 鈴木 原子力の将来がいずれの方向にいくにせよ、やらなくてはいけないことを進める必要がある。サイクル政策には柔軟性を持たせ、使用済み核燃料は乾式で中間貯蔵する。再処理はプルトニウムの需要にあう分しかしないことだ。

 山名 サイクルの議論では、端的に話を進めるべきではない。経済性や安全性のほか、地元や国際社会との関係なども関係する連立方程式だ。現実的な選択肢をとるべきだ。

 竹内 サイクルについて、中間貯蔵や直接処分など政策の幅を広げる選択肢を考えるべきだという意見が出た。私たち日本は福島第一原発事故を起こした国。このままサイクル政策を変えずにすむことはない。きょうの議論を発展させていければと思う。

リンク 朝日新聞デジタル (核燃料サイクルシンポ)第3部 政策変更、打開策は:朝日新聞デジタル 核燃料サイクル政策を転換すれば、再処理を前提に全国から使用済み核燃料を受け入れている青森県と国との信頼関係が崩壊しかねない。第3部では、政策変更の難しさをどう乗り越えるかがテーマになった。 英国の原
核燃料サイクル政策を転換すれば、再処理を前提に全国から使用済み核燃料を受け入れている青森県と国との信頼関係が崩壊しかねない。第3部では、政策変更の難しさをどう乗り越えるかがテーマになった。
  • 第3部の主なやりとり
     英国の原子力政策を研究してきたウィリアム・ウォーカー氏は「英国と日本は似ている。英国から警告を発したい」と切り出した。

 英国は1970年代、高速増殖炉の実現を前提に、中西部のセラフィールドに再処理工場を建設する計画を立ち上げた。経済的な理由などから高速増殖炉は94年に撤退したのに、再処理工場は同じ年に操業を始めた。分離したプルトニウムはほとんど利用されなかった。「100トンものプルトニウムの山をどうしていいか、もうだれにもわからない」

 再処理工場は地元の経済や雇用を左右する。「政治家は、雇用を生んでいる施設を閉じたくない。業界の助言だけを聞き、再処理の既得権益だけを守った」とも指摘した。

 民主党政権だった昨秋に「革新的エネルギー・環境戦略」をとりまとめた古川元久氏。2030年代の「原発ゼロ」を掲げながら、青森県への配慮から核燃料サイクル政策は継続するとした。「確かに矛盾を認めねばならない。だが、これまでの政権が青森県と約束してきたことは尊重しなければいけない。原発をめぐって半世紀にわたり複雑に絡み合った糸を、一本一本解きほぐす努力をして、徐々に変えていこうという趣旨だった」と語った。

 こうした現状に、フランク・フォンヒッペル氏は、使用済み核燃料を再処理せず、原発の敷地内で「乾式キャスク」という容器に入れて中間貯蔵することを提案。「六ケ所再処理工場にある約3千トンの使用済み核燃料を返送されても、各原発に容器15個分の貯蔵能力を追加するだけでよい。青森県には国が十分な補償をする。再処理をやめれば、日本国民には約7兆円のコスト節減効果がある」と強調した。

 「トイレなきマンション」とも言われる放射性廃棄物の最終処分場の問題も議論された。

 経済産業省の廃棄物問題の作業部会で委員長を務める増田寛也氏は「最終処分の必要性と安全性への国民の理解、合意が全く不十分だった。国が責任を持ち、科学的に絞り込む。順調でも数十年かかるので、途中で意思決定を見直せるようにするしくみが必要だ」と報告した。

 現時点で科学的に適性がある地域は国土の70%。火山や、地質、地下水の条件でさらに絞り込む。増田氏は「発電所のリスクを背負った原発立地地域が最終処分のリスクまで引き受けるのか。発電と中間貯蔵、最終処分のリスクを分担する方が全体の公平性にかなう」と踏み込んだ。

 古川氏は「使用済み核燃料や最終処分場の問題は財政赤字と似ている。いま解決できないからと、将来にリスクやコストを先送りしてきた。福島第一原発事故を経験した我々の世代が、生き方を問い直すことが必要だ」と述べた。

     ◇

《フランク・フォンヒッペル氏》
プリンストン大学名誉教授。核物理学者。18カ国の研究者が参加する「核分裂性物質に関する国際パネル」(IPFM)の共同議長を務める。今年夏、IPFMの田窪雅文氏とともに朝日新聞に日本の「脱再処理」への処方箋(せん)を提言した。

《ウィリアム・ウォーカー氏》
英国のセントアンドルーズ大学教授(国際関係学部)。国際的な原子力政策を研究してきた。著書に英国の核燃料再処理工場をテーマにした「核の軛(くびき)~英国はなぜ核燃料再処理から逃れられなかったのか」など。

《古川元久氏(ふるかわ・もとひさ)》
民主党衆議院議員。2011年秋から野田内閣で国家戦略担当相、内閣府特命担当相を務め、「2030年代に原発ゼロを目指す」とする政府の新方針「革新的エネルギー・環境戦略」をまとめる上で中心的役割を果たした。

《増田寛也氏(ますだ・ひろや)》
2007~08年に安倍・福田内閣で総務相。07年まで岩手県知事を3期務めた。総合資源エネルギー調査会・放射性廃棄物ワーキンググループの委員長。09年から野村総合研究所顧問、東京大学公共政策大学院客員教授。

リンク 朝日新聞デジタル (核燃料サイクルシンポ)第3部の討論詳報:朝日新聞デジタル ウィリアム・ウォーカー氏、フランク・フォンヒッペル氏、古川元久氏、増田寛也氏が政策変更の難しさと打開策を議論した。司会は市村友一・朝日新聞論説副主幹。 ◇ ウォーカー 原子力の開発はなかなか
ウィリアム・ウォーカー氏、フランク・フォンヒッペル氏、古川元久氏、増田寛也氏が政策変更の難しさと打開策を議論した。司会は市村友一・朝日新聞論説副主幹。

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 ウォーカー 原子力の開発はなかなか方向転換ができない。政府も電力会社も間違った方向にそのまま進むことがある。なぜこのような「わな」があるのか。英国と日本には、似ている点がかなりある。英国から失敗例を紹介し、警告を発したい。

 中西部セラフィールドでは、約50年間にわたって使用済み核燃料を再処理し、100トン以上のプルトニウムを分離した。しかし、利用したのはゼロに近く、そのまま貯蔵が続いている。

 なぜ英国が方向転換ができなかったか。まず、間違った予測と約束の歴史があった。1970年代に始まった再処理工場計画の前提は高速増殖炉の実現だった。2000年までに8基ができるはずだったが、経済が不振になり、1基もできずに計画は終わった。全く予測が間違っていた。

 また、たった一つの再処理工場が独占状態になった。強い言葉を使うと、使用済み核燃料の受け入れ拒否をちらつかせて、電力会社を脅した。そのコストは電力料金の値上げで支払われた。

 再処理工場は、日本の青森県六ケ所村のように、開発されていない土地にあって、唯一の雇用主になった。政治家としては、雇用を生んでいる組織を閉じたくない。業界の助言だけを聞き、再処理を続ける既得権益だけを守ってしまった。

 セラフィールドの歴史は大失敗の歴史だ。100トンものプルトニウムの山をどうしていいか、もうだれにもわからない。外国が預けたプルトニウムが置き去りにされ、貧しかった地域に、さらに汚染された風景が広がった。それが国民の不信とシニシズムを呼んだ。

 フォンヒッペル 再処理に経済的なメリットはない。施設の除染や、新たな事故の危険、核テロリズムのおそれや、核拡散につながってしまうという問題もある。

 再処理という「わな」から、いかに抜け出すかが日本の課題だ。使用済み核燃料を再処理せずに、乾式キャスクに貯蔵することが安全で、安く、クリーンだ。福島第一原発の建屋は津波で浸水したが、敷地内にあった乾式キャスクには安全上の問題がなかった。

 再処理を続けないと、青森県がほかの原発からの使用済み核燃料を受け入れなくなるという心配がある。だが、使用済み核燃料は各原発の敷地内で乾式キャスクに入れて貯蔵することもできる。そうすれば、六ケ所村の将来は変わるはずだ。乾式貯蔵で、六ケ所村への輸送は不要になり、再処理の「わな」から逃れることができる。

 青森には十分な補償をすればよい。日本国民には、再処理をしないことで約7兆~8兆円のコスト節減効果がある。不拡散体制への脅威も避けられる。

 古川 野田政権の担当大臣として、福島第一原発事故を受け、エネルギー政策を見直した。昨年9月の「革新的エネルギー・環境戦略」で、それまでの原発推進から百八十度転換し、脱原発に取り組む方向を決めたが、核燃料サイクルは継続することにした。

 これは矛盾だと批判された。確かに、矛盾を認めねばならない。しかし、原発をめぐる仕組みは、半世紀にわたり原発推進という国策に関係自治体が協力することによって形作られてきた。青森県とこれまでの政権が様々な約束をして、それを前提として、使用済み核燃料を受け入れてもらった。長い年月をかけて、多くの関係者と向き合い、複雑に絡み合った糸を一本一本解きほぐす努力をすることで、徐々に変えていこうという趣旨だ。

 そもそも、事故以前の原子力政策そのものが矛盾の上に成り立っていた。「トイレなきマンション」という言葉に象徴されるが、放射性廃棄物の最終処分などのバックエンド問題を解決せねば、仮に絶対に安全な原発があったとしても、いつか動かせなくなる。それ以降の世代は、電力や便益は受けられず、使用済み核燃料の維持管理だけを背負う。

 しかし、私たちはこの現実に向き合わずに、「使用済み核燃料は再処理して利用するので、ゴミではなく資源である」との論理を構成し、その一時的保管を青森県に受け入れてもらった。核燃料サイクルは機能していないのに、「いつかは可能でしょう」という幻想を振りまいてきた。原子力政策の見直しには、現実を直視し、矛盾を矛盾と認めることから始める必要がある。

 増田 放射性廃棄物の処分問題はこれまでまったくきちんと対応されてこなかった。最終処分を少しでも前進させる道筋をたてることが、核燃料サイクル全体の選択肢を広げていくと考える。

 最終処分が進まなかったのは4つの課題がある。まず、(1)地層処分の必要性と安全性への国民の理解、合意が全く不十分だった。(2)国会も含めて国の関与、本気度が不十分だった。(3)処分地の選定についての科学的な根拠も不十分だった。公募方式では、手をあげた市町村が、なぜその地域なのか、説明責任を全て負わねばならない。交付金が目当てだとの批判も出かねない。そして、(4)選定プロセスに関与するのは首長だけ。住民参加の仕組みがなく、透明性も低い。

 どう変えるか。私が委員長を務める経済産業省の作業部会は11月に中間とりまとめをした。まず、現世代がこの問題を先送りしないことだ。

 最終処分に向けた取り組みは長きにわたる。順調でも、処分地を決めるまで数十年かかる。施設を建設し、ガラス固化体を運び込み、最終的に閉鎖するのは、最短でも70年先だ。その間に科学技術の進展が期待される。可逆性と回収可能性を担保し、次世代が常に意思決定を見直せる仕組みが必要だ。

 立地選定の過程にも多くの注文をしなければならない。今の公募方式では、なぜそこが科学的に妥当なのかという説明が困難だ。国が責任を持ち、科学的に絞り込む。科学的に適性が高い地域は国土の70%だ。火山、地質、地下水などの科学的な条件でさらに絞り込む。

 古川 日本学術会議は、東日本大震災もふまえ、今の科学的知見では地層処分に適した地層が日本にあるとは確証を持って言えない、と指摘する報告書をまとめた。増田さんは適した地層があるという前提なのか。

 増田 学術会議の報告書は、適した地層が日本に全くないとは言い切っていない。暫定的に保管し、しばらく研究に委ねようと言っている。地層処分について、可逆性と回収可能性を採り入れて、将来の世代の選択の幅を狭めないということが、学術会議の指摘に近いと思う。

 市村 フォンヒッペルさんは、日本で原発が再稼働しても六ケ所に使用済み核燃料を搬送せず、各原発の敷地で乾式貯蔵するべきとの主張だが、各原発に場所は見つかるか。

 フォンヒッペル これは新しい問題ではない。ドイツも直面した。ドイツは2000年に、使用済み核燃料を再処理のために英仏へ輸送しないことを決めた。一方、ドイツ国内で集中的に貯蔵する場所を政治的に決められなかった。だから、各原発の敷地内で乾式貯蔵することになり、5年間で行った。

 六ケ所再処理工場にある約3千トンの使用済み燃料を返送されても、各発電所にキャスク15個分の貯蔵能力を追加するだけでよい。ドイツでは100個分以上が必要だった。それに比べれば、大きな問題ではない。

 市村 再処理政策を変えられないのは、相当程度、国と青森との関係の問題になるのだろうか。

 古川 青森が一つの大きな問題であるのは事実だ。ただ、再処理をやめ、運び込まれた使用済み核燃料が「資源」でなく「ごみ」となった瞬間に、青森県は「それぞれの原発立地県に持って帰ってくれ」という。その意味では、立地県の問題でもある。

 ウォーカー 過去の青森との関係は政治的には難しいことだろうが、政策を決める権限があるのは日本政府だ。本当に国民全体の命運がかかっているのは何であるのかを考えるべきで、青森だけのことで決めるべきではない。

 増田 発電所にもリスクがある。すでに発電所のリスクを背負った地域が、最終処分にともなうリスクまで引き受けるのか。ここは国民でも議論しなくてはならない。発電と中間貯蔵、最終処分のリスクをそれぞれの地域で分担し合う方が全体の公平性にかなうという、有力な議論が成り立つ。

 フォンヒッペル 米国では、中間貯蔵は大きな負担だと思われていない。一番大きい問題は原子炉の危険性だと住民は考えている。次に議論を呼ぶのはプールに入っている使用済み核燃料だ。乾式キャスクに入れた方が安全性が高まるとの考え方から、米国ではほとんどが乾式貯蔵されている。

 古川 バックエンドの問題は、財政赤字と似ている。とりあえず将来世代に委ねて、1千兆円を超える借金の山になっている。使用済み核燃料の問題も、いま解決できないからと、将来にリスクやコストを先送りしてきた。原発事故を経験した我々の世代は生き方を問い直すことが必要だ。

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