豊かに重なる緑の葉の間を、陽の光が斜めに貫いて、それは彼の刀のよう。 私のこころを全て攫って、彼はこの場所を去った。
2013-12-18 18:41:18あの光。美しく妖艶な煌きを放つ刀は彼自身。 冷たくて、全てを断ち切る刀を、我が身の如く振るう彼は、 優しくあたたかく、生きる道を許してくれる人。 相反するものを秘めた、本当は情熱的な人。
2013-12-18 18:41:46名前を想うだけで胸が熱くなる、 とても、とても大切な音。 名前を口にするだけで、こんなにも愛しさが溢れてくる。 それは今も、私だけじゃないと信じられる。
2013-12-18 18:42:14日課の庭の掃き掃除が終盤に差し掛かった頃、 巡察に出ていた隊士の方々が帰っていらした。 「おかえりなさい」 私は彼らの通行の邪魔にならないように、道を開けて小腰を折る。
2013-12-18 18:42:54お昼時に戻られるなんて、昨晩から巡察に出ていて、何か問題が起こったのかな……。 隊士の皆さんの足が通り過ぎていくのを、頭を下げたまま見ていたら、 「よう、お疲れさん」 ぽん、と頭に大きな手が置かれた。 この声は。
2013-12-18 18:43:23「ああ、無駄に終わっちまったからな。 でも、千鶴に心配されるほど、ばてちゃいねえよ」 私は余計な事を言ってしまったと思って、口を噤んだ。
2013-12-18 18:44:41「あ、はいっ」 「最近、好い人ができたんだろ?」 「!!!!」 私は思わず、箒から手を放してしまい、それがからんと良い音をたてた。
2013-12-18 18:45:23原田さんは、私にぐっと近づき、首筋に顔を寄せて、 「ほら」と何気なく言うのだけれど、私の体は固まって立ち尽くしてしまっていた。
2013-12-18 18:46:00「いい匂いがする。 それに、なんか内側から輝いてるんだよな。 それって、恋してるからだろ?」 口をぱくぱくさせるだけの私の肩を叩き、にやにや笑いながら、原田さんは去って行った。
2013-12-18 18:46:29「すまぬ。 いや、くしゃみは自然と出るものだ。抑えるのは至難だ」 俺と平助は、伊東さんに貸し与えられた書物を読むために、 なにゆえか肩を並べて見台に向き合っていた。
2013-12-18 18:48:27一人で読んでいると眠くなるから、と俺の所に来た平助だったが、 どうやら居眠りをしていたらしく、俺のくしゃみで目が覚めたのだろう。 平助は凝った体を解そうと身動きし、 正座した俺の足をつついてみるも、俺が動じないので途端につまらなそうな顔をする。
2013-12-18 18:49:03「なんで痺れが切れないわけ? って言うか一くん、胡坐かいたりしないよな」 「日々の鍛錬の成果だ。 胡坐では背筋が曲がり、気持ちも曲がる気がするのだ」 「ふうーん。鍛錬で痺れなくなるもんなの?」
2013-12-18 18:49:49「俺は別に困らない」 「そんなこと言わずに!短くまとめて、要点だけでも」 平助はまるで捨てられた仔犬のように、必死で縋ってくる。
2013-12-18 18:50:46