茨の魔法使いと樹海の守り人

診断メーカーの「進撃せよ!~まいにち調査兵団~」(http://shindanmaker.com/352448)から派生した物語。 茨の魔法使い・三部作の最後のお話。 本編である「日刊調査兵団」とは似て非なる物語。 続きを読む
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お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 茨の蔦はそおっと床を這い、青年の足に絡み付きました。少年の声は嘲笑います。「僕はそういう手合いが大嫌いなんだ。誰かのため?馬鹿馬鹿しい。どんなに飾り立ててみても、結局は自分のためでしかないんだ。そして、残るのは無責任な後悔と憎しみさ」 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-10 01:30:43
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 茨は青年の体を這い上っていきました。「冥土の土産に教えてあげる。僕の本当の名前はクリュトだ」「クリュト?」青年が聞き返すと、薔薇はくすくすと笑いました。「どうせ死んじゃうんだ。君も教えてよ」青年は本当の名前を言いました。「…俺はルイ」 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-10 01:58:33
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl すみれ色の薔薇は赤く染まり、少年の声は青年の本当の名を呼びました。「ねぇ、ルイ」と。しかし、青年は体中…口にも茨が絡み付いて返事ができず、薔薇の言葉を黙って聞いていました。その姿はまるで、少年だった『茨の魔法使い』が成長した姿でした。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-10 10:18:35
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 頬にちくりと痛みを感じて、少女は目を覚ましました。そして、驚きました。少女の顔を覗き込む薔薇が、石炭のように真っ黒だったのです。薔薇は言いました。「君にさよならを言いたい。僕は彼と生きる」体を起こすと、茨を纏った青年の姿が見えました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-12 11:24:17
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 少女は両手で薔薇を包み、薔薇に尋ねました。「私を嫌いになったの?」すると、薔薇はくすくすと笑いました。「彼をご覧。まるで僕だ。彼は死ななければならない。惨い死に方で。だから、その前に僕が綺麗に殺してあげる。そして、彼の体をもらうんだ」 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-12 12:45:42
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 少女は恐る恐る尋ねました。「どうして、さよならなの?」少年の声は鼻で笑いました。「もう、うんざりだ。君さえいなければ、僕はこんな姿にならずに済んだ。それだけじゃない。君への想いが『紫薔薇の王子』であった僕を『茨の魔法使い』にしたのさ」 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-12 13:17:53
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 薔薇はもう笑っていません。少年の声は淡々と続けました。「僕の体を燃やした、あの哀れな女を覚えている?彼女も君が狂わせた。君は魔女だ。正真正銘の魔女。人の心を弄び、不幸と破滅を撒き散らす、汚らわしい『茨の魔女』だ。僕の前から消え失せろ」 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-12 13:48:12
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 少女にとって、魔女と呼ばれることは、辛いことではありません。けれど、兄に初めてそう呼ばれて、胸が張り裂けそうになりました。兄の声は責めました。「君は僕の魔法の杖をなくし、僕の顔さえ忘れてしまった」と。少女は死にたいと強く願いました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-12 15:33:53
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 床にはナイフが落ちています。少女は立ち上がってナイフを拾い、目を閉じて自分の胸を突きました。しかし、ナイフの刃は、少女の裸の胸に傷ひとつつけることができませんでした。少女の腕は茨の蔓に自由を奪われ、刃が少女の胸に届かなかったからです。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-12 17:15:04
お菊 @sara_yashiki

@tos 少女が目を開くと、自分の胸の前で、すみれ色の薔薇がナイフに貫かれて震えていました。少年の声はゆっくりと優しく、少女に語りかけました。「さよなら、僕の愛しい人。君はもう魔女じゃない」薔薇は散り、少女と青年に絡み付いていた茨は枯れ落ちました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-16 10:01:40
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl すると、不思議なことが起こりました。少女の華奢な体は丸みを帯びはじめ、亜麻色の髪は伸びて胸や腰を覆いました。少女は青年に似合いの乙女に成長したのでした。青年は乙女の裸の体を毛布で包み、力強く抱きしめました。彼女は声をあげて泣きました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-12 17:50:14
お菊 @sara_yashiki

@tos 青年は薔薇との約束を思い出しました。「ねぇ、ルイ。僕と取引しよう。僕が死んだら、君が彼女を抱きしめて慰めるんだ。それから、泣いてほしい。涙を一滴…嘘の涙でもいいから、僕のために」と。青年の目からは、涙の粒がポタリポタリとこぼれ落ちました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-12 23:49:12
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl それから、冬が三回過ぎ去り、うららかな春が訪れました。青年と乙女は夫婦となり、一人の男の子を授かりました。妖精の血を受け継ぎ、魔法の力を持つその子は『大樹の知恵者』と名付けられました。しかし、青年は息子の本当の名前を知っていました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-12 19:25:02
お菊 @sara_yashiki

@tos 乙女はある日、森へ苺摘みに出かけました。青年は揺り篭の中を覗き込み、息子に呼び掛けました。「クリュト」と。すると、息子は短い手足をばたつかせて、キャッキャと声を上げて笑うのでした。赤ん坊の平らなお腹に頬をつけて、青年も一緒に笑いました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-16 10:28:18
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl こうして、三人は森の中で幸せに暮らしましたとさ。おしまい」物語が終わると、青年は尋ねた。「乙女にも本当の名前はあるのか?」少女はくすりと笑うと、燭台の火をフッと吹き消した。「あなたの物語も聞かせて。そうしたら、教えてあげる」 #樹海の守り人 #日刊調査兵団 (完)

2013-12-12 20:17:07