《刺繍姫と長い長いドレスのお話》

創作童話。 刺繍の得意なお姫様のお話。 『YOUは小説家』にて加筆修正したものを公開中です。
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乃井 @no_el_ty

@sousakuTL ある国に、とても刺繍の得意なお姫様が居て、刺繍姫と呼ばれていました。刺繍姫は刺繍が大好きで、一度刺繍にとりかかると、どんなに裾がたっぷりして長いドレスにでも、とるものもとらずに、すごい早さで縫ってしまうのでした。

2013-12-22 21:41:19
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL ある日、そんな刺繍姫が、糸を染めるための花を探して城の庭に出ると、真っ白い布を見つけました。その布はお月さまを解いて作ったような糸で織り上げられていて、きらきらしていて、ふわっと軽く、そのくせ風で飛ばされないで、長く長く伸びていました。

2013-12-22 21:44:29
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL 「なんてうつくしい布かしら。ここには沢山のうつくしいものがあるべきね」 布のうつくしさにすっかり心を奪われた刺繍姫は、籠に入れていた糸束と、耳にはさんだ針を使って、ちくちく、ぬいぬい、刺繍をはじめました。

2013-12-22 21:47:45
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL 城を、道を、森を、花を、鳥を、風を、星を、月を、太陽を。 目にうつるありとあらゆる美しいものを、刺繍姫はちくちくぬいぬい縫いながら、布の行く先を追って、刺繍しながら歩きました。やがて布は城を出て、深い深い森を抜けて、三日三晩。

2013-12-22 21:50:37
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL 籠にいれた糸はなくなり、針は曲がっていましたが、姫は自分のドレスを解いて極彩色の糸を作り、刺繍姫の刺繍を愛する鳥たちが、獣の牙を拾ってきて削った上等の針をくれましたので、刺繍はずっとずっと美しく続いていました。

2013-12-22 21:53:55
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL そうして四日目の朝に、刺繍姫は、開けた丘にたどり着きました。 そこには妖精の女王様が住んでいて、決して人の入っていいところではありませんでしたが、刺繍に夢中な刺繍姫は、そんなことには気付きませんでした。

2013-12-22 21:56:39
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL 布に妖精たちを刺繍をしながら辿っていくと、お城の庭で、妖精の女王様が、大きな安楽椅子に座って、した働きの妖精たちに、あれやこれやと忙しく指示を出していました。 そう、美しいたっぷりした布は、女王様が作らせている、真っ白いドレスの裾だったのです。

2013-12-22 21:58:34
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL 流石の刺繍姫も、ようやく、きてはいけないところに来てしまったと気付いて、刺繍の手を止めました。 妖精の女王様は、やってきた刺繍姫に気付くと、刺繍姫がつまんだ裾に入れられた見事な刺繍を見て、

2013-12-22 22:02:10
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL 「まあ、なんて見事な刺繍でしょう。頼みもしないうちから、刺繍姫、あなたはわたくしの望むことをしてくれた」と喜びました。刺繍姫がどういうことなのかとおずおず尋ねると、女王様は悲しげに微笑みました。 「あなたの刺繍の腕を見込んでお願いがあります」

2013-12-22 22:04:10
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL 「わたくしには息子がおりまして、つまり妖精の王子なのですけれど、先日、王子の美しさを妬んだ悪い妖精の呪いで死んでしまいました。わたくしのかわいい哀れな王子を、せめてこのドレスの中に生かしてやりたいのです」言いながら妖精の女王様がさめざめと泣き始め、

2013-12-23 17:42:22
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL 「刺繍姫、どうかあなたの刺繍で、このドレスに王子を縫い込んではくれませんか」と刺繍姫にお願いしました。刺繍姫は女王様に、「それはおかわいそうに、女王様、きっとわたしが縫ってみせます」と、ドレスに王子様を刺繍することを約束しました。

2013-12-23 17:43:58
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL 妖精の王子様は、庭の一番きれいな薔薇のしげみにおかれた、うつくしい水晶の棺の中で眠っていました。王子様はあまりにも美しく、刺繍姫はそのお姿に、一目で心を奪われてしまいました。

2013-12-23 17:45:57
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL 「人と妖精、どちらの絵描きも細工師も、誰もこの美しさを描くことは出来ませんでした。けれど刺繍姫、あなたの刺繍の腕ならば、きっとこの美しさを表すことが出来るでしょう」

2013-12-23 17:49:05
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL そう言って、妖精の女王様は、した働きの妖精たちに、色とりどりの糸束を沢山持って来させました。太陽の金色、月の銀色、風の緑色。刺繍姫はそれらを次々と手に取って針に通しては、妖精の王子様のうつくしい姿を、ちくちくぬいぬい、縫い込んでいきました。

2013-12-23 20:33:13
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL 刺繍姫の刺繍がうつくしいのは、刺繍姫の心が清らかで、うつくしいものをうつくしいままにとらえることができるからです。刺繍姫は、姫の愛するすべてのうつくしいものを、うつくしいままに、布の世界に縫い取ることができるのです。

2013-12-23 20:38:43
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL そんな刺繍姫でしたから、ただうつくしいというだけで、妬まれて亡くなった美しい王子様を、本当にかわいそうにと思って、真心を込めて、そのうつくしい姿を、とるものもとらずに刺繍しつづけました。

2013-12-23 20:39:57
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL そうして、三日目の朝に、とうとう刺繍の終わりが見えました。刺繍姫の刺繍は見事なもので、上等な白い上着を着た、凛とした立ち姿の、うつくしい妖精の王子様がそこにはありました。けれども、王子様の金色の睫毛の中、瞳の色だけは、縫われていませんでした。

2013-12-23 20:43:30
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL 「ああ女王様、どうしましょう。わたしには王子様の瞳の色が分からないのです」「困ったことに、刺繍姫。呪いは王子の瞳を溶かしてしまって、あなたに見せることは出来ないのです。王子の持つ色の中で一等美しいものだから、あなたの腕の振るいどころだというのに」

2013-12-23 20:48:03
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL 「おかわいそうな王子様。わたしではどうしてあげることもできないのかしら」刺繍姫は、そう言ってぽろぽろ、涙を零しました。刺繍姫は薄汚れて、ドレスを解いて糸にしてしまっていたのでみすぼらしい姿になり、何日もものを食べないのですっかり痩せていましたが、

2013-12-25 08:33:29
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL そうして泣く姿は、なによりもうつくしいものでした。 ぽろぽろと流れて、布に染みた姫の涙が、きらきらと輝いて、まるで真珠のようになっているのに気付いた妖精の女王様は、その涙に魔法をかけて、その色が褪せないようにしました。

2013-12-25 08:47:31
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL 「なんということでしょう。刺繍姫、あなたの涙の色はまさしく王子の瞳の色そのものです」 姫の涙で色付いた王子様の瞳は、優しく輝いていました。 そうして、ドレスの中に、輝く妖精の王子様の姿が、そっくり出来上がったのでした。

2013-12-25 08:50:25
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL 出来上がったドレスの出来に感動した妖精の女王様は、刺繍姫にお礼を言うと、ようやく姫が殆ど裸のような格好でいたのに気が付きました。 「ああ、刺繍姫。わたくしとしたことが気付かなくて。どうぞこのドレスを着てお帰りなさい。きっと王子も喜ぶでしょう」

2013-12-25 08:54:42
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL そうして刺繍姫は、した働きの妖精にドレスを着せて貰って、妖精の庭に立ちました。月の光でより立派に見える、素敵な刺繍の妖精の王子様をそっと撫でて、刺繍姫が微笑むと、きらりきらりとドレスが輝いて、ふしぎな光が、刺繍姫と長い長いドレスを包みました。

2013-12-25 09:01:11
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL 光がすっかり消えてしまうと、刺繍姫の目の前に、輝く姿がありました。そう、妖精の王子様が、そこに立っていたのでした。王子様は、輝くやさしい真珠色の瞳をそうっと細めて、刺繍姫に微笑みかけると、その手を取って、跪きました。

2013-12-25 09:05:56
乃井 @no_el_ty

@sousakuTL 「あなたのやさしい心と、うつくしいものを愛する気持ちが、奇跡の魔法をかけて、わたしを生き返らせてくれました。ありがとう、姫君。あなたがよければ、どうぞ、わたしと結婚してください」「ああ、王子様。あなたが生き返ってよかった。なんて光栄なことかしら」

2013-12-25 09:10:30